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俺には何も出来ない

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 アーリアの話はこうだった。
アーリアには前世の記憶があるらしい。
そこには魔法がなく、その替わりに“デンリョク”というものがあり、それが文明を発達させていたらしい。
 その文明から生まれたものの中に、“ギャルゲー”という、何と言うか……成人男子の欲求を満たす類いの遊具があったらしいのだ。
 遊び方はこうだ。ゲームはひとつの物語になっていて、一定期間の間に出会った女性達を、あれやこれやと策を練り、恋心を持たせた末に……その……いわゆる、体の関係に持って行くという内容のものらしいのだ。
 と、“らしい”としか言えないのは、アーリアが興奮しながら言っていた事を、俺の主観で要約したからで、本当の意味かどうか定かではないからだ。
 そしてその内容も――“刺激が強過ぎたか? ルナに鼻にも引っかけられなかったお前にはダメージだったろうなぁ? ざまぁだぜ童貞令息!”と罵られても反論出来ない程の、とんでもない代物だった(事実、童……ですよハイ)。
そしてその“隠し”の女性も、奴は毒牙にかけるつもりなのだ。――しかし、誰を?
が、そう訊いた俺をアーリアは鼻先で笑って見下した。
「訊いてどうする? 訊いたところで今のお前にゃ、何も出来ないぜ。――ったく、不幸になっていると思ったら、まだ普通に生きているとはな。どこまでも悪運の強い奴だぜ。
――まぁそれもそこまでだ。せいぜい平民らしく、片隅でちっこくなって暮らすんだな」
 言うだけ言って満足したようで、捨て台詞を残すと、背中を向けて去って行った。


 取り残され、しばらく俺は呆然としていた。
信じられない話だった。別の世界が存在していて……この世界が、別の世界ではゲーム?
 普通の人間が訊いたら信じていないだろう。アーリアの事を“妄想を現実と信じ込んでいる頭のおかしい人間だ”と、鼻にも引っかけなかったに違いない。が、俺は違う。実際シスターに奴に関しての情報を伝えようとした途端、起きた異常現象――それを思い出したからだ。


 ――アーリアにとって、この世界はゲームなのだろう。
 だが、ここで俺達は生きている。彼らだけじゃない。バレンシア劇場の皆や、今は遠い存在になられた王家の方々。当然シスター・テレジアも第3王女も、あいつの欲望を満たす道具ではない。
 隠しとはどんな女性だろう? 攻略対象とやらの1人だろう。分かるのは美しい大人の女性だと言う事か。
 と、ここまで考え、それが無駄だと気付いた。
あいつの言う事も事実だから。王女の婚約者でも貴族でもない今の俺が、出来る事など何も無い。
取りあえずジュエルには言ってみるが、出来る事はその位だろう。
幸い、第3王女はアレだが女王陛下や第1・第2王女両殿下はご聡明な方々だ。信じられない話だが裏くらいは取って頂けるだろう。そして何らかの手は打って下さると信じている。
それに……アーリアは興奮していて気付かなかったようだが、この世界の全てが奴の思い通りではない。現にシスター・テレジアの攻略は失敗した。ビートの暴走によって。
俺にしても、アイツから見れば落ちぶれたのだろうが昔より今の方が楽しいし幸せだ。
 と、自分の中で整理をして……今の日常に帰るべく、俺も帰路についた。
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