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ギャルゲーとは何ぞ?

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――ま、魔力調整、間に合った……!
ビート君が無事に地面に横たわっているのを確認し、俺はホッと体から力を抜いた。
 今日になって何となく気になり、教会の近くまで来ていたら、急に周りが騒がしくなって人が同方向に走り出した。
「教会の屋根に子供が上がっている!」
「あんな所に!? 風でも吹いたら落ちちまうぞ!」
と言う声が聞こえ、俺も一緒に走り出す。そうして行き着いたのは、思った通り昨日来たばかりの教会だった。そして、頭上から……
「シスター!!」
という大声が聞こえ……小さい体が、教会の屋根から飛び降りるのが見えた。
 瞬時に風魔法を発動した。道行く人を巻き込まず、彼だけを包むように魔力を調整して。
 何とかうまく着地させ、気が抜けた途端に足の力が抜けてしまった。地面にビタン! と倒れ込んでしまう。
 何とか顔だけ上げれば、視界にビート君と彼と一緒に病院に転移するシスター・テレジアの姿が見えた。一瞬しか見る事が出来なかったが、最初逢った時よりもずっと強い目をしていた。
 どんな過程かは分からないが……シスターはもう、大丈夫のようだ。
あー……ホッとした。でもビートには後から説教だな。今回は良かったけど、それはあくまで運だし。
「お~い、そこでベッタリ潰れてる兄さん、平気かー?」
通りすがりに、商人らしい人が声をかけてくれる。慌てて体を起こし、服についたホコリを払いながら礼を言う。
 立ち上がり、さあ帰ろう――とした時だった。殺気のこもった視線を感じ、瞬時に体勢を整え周りを見渡す。視線の主は目の前にいた。
 野性味のある男だった。背が高く均整の取れた体格をしている、整った顔の男。俺を敵のように睨み付け、憎しみのこもった声で言う。
「てめぇが黒幕か、悪役令息……!」
「あくやく、れいそく……?」
 意味の分からない言葉に反射的に首を傾げてから、ようやく目の前の男を思い出した。
「これは……お久方ぶりですコーニー男爵令息様」
卒業パーティの場で行われた婚約破棄。
元婚約者様が、うっとりと見つめていたのが、目の前にいる彼だった。今にしては遠い思い出だ。
 俺は即座に平民としての礼を取った。かつて公爵令息と男爵令息として身分差があったが、今は俺の方が格下だ。身の程を弁えなくてはならないと、深々と頭をさげ礼をとる。が、彼には逆効果だったらしい。
「何とぼけてんだ!!」
「とぼけてる……?」
再会して間もなく怒られるいわれこそ無いんだが。ポツ、と呟く俺に、アーリアの激高は止まらない。目を血走らせ、口からつばを飛ばして怒鳴り散らす。
「テレジアの最終イベントを潰したのはお前だろう!! 今日までの攻略が台無しじゃねーか!」
「……仰ることの意味が分かりません」
「悪役令息らしく、俺(主人公)の引き立て役として、大人しく退場すりゃ良いんだよ! なのに今でも邪魔するとか、マジねーわ!」
 言いたい事だけまくし立てるアーリアに、スンッと冷める。……こっちの言葉を訊く気はないようだな。 
しかし……相変わらず訳の分からない事ばかりを言っているが、教会でシスターと話していた途中で受けた、正体不明の感覚。――それにアーリアが関係しているのか?
 それはそれとして、だ。
知っている者の義務として言っておこう。と、俺は背を伸ばし彼を正面から見据えて言った。
「では恐れながら俺こそ逆に貴方様にお伺いしたい。第3王女殿下の婚約者になられた御身で、他の女性と関係を持つという事の意味がお分かりか? ご自身どころか、お家や相手の女性達も罪を問われますよ」
王女の婚約者としては基礎知識だ。知らないはずはないとは思うが念の為だ。
 まぁ王女とて、そういう意味では清い体とはいえないから、暗黙の了解になっている可能性もあるが、それでも過ぎれば本人達だけの問題では済まされないだろう。
 ところが、俺の言葉に対し、アーリアは勝ち誇ったような顔でニヤリと笑った。
「ほう……偉そうに忠告したつもりか? あいにく俺はお前ら悪役とは違う。この世界で俺は特別なんだ」
特別?
眉をひそめる俺が面白いのか、更にふてぶてしい表情になると、
「意味が分からねぇんならそれでいい。まぁテレジアは失敗したが、まだお楽しみは残っている。これから隠しの攻略に入るんだからな」
「“隠し”?」
また知らない言葉だ。
「それは一体何の事です? どうも貴方様は俺の知らない事を色々ご存じのようですね。お教え頂いても?」
俺が言った途端、彼は腹を抱えて笑い出した。
「くくっ、公爵令息の地位を笠に着ていたお前が、今はこのザマか! ……答えてやっても良いぜ、ただし! お前がこの俺に頭を下げて頼むんならな!」
「お願いします」
「…………へ?」
上体を90度に折り曲げて頭を下げた俺に、笑うのを止め、ぽかんとするアーリア。
「ですので、どうか無知な俺に先程までのお言葉のご説明をして下さい、お願いします」
 情報を得るために手段は選ばない。頭を下げる事が条件なら、いくらでも頭を下げる。それだけだ。
 なのにアーリアは、信じられないものを見るような目で俺を見てから、気を取り直したようにふんぞり返る。
「へっ、所詮は悪役令息も、平民に堕ちればプライドも捨てた雑魚キャラってか、ざまぁねぇな! しかし良いぜ! 教えてやるよ! 
――この世界は俺がかつていた世界で、“ギャルゲー”だった! そして俺はゲームの主人公として、生まれてきたんだ……!」

そこから俺が訊いたのは、想像を遙かに超えた内容だった。
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