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奇妙な縁

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「貴方に、逢いたかったんだ」
ジュエルが、今まで見たことのなかった笑みを浮かべて、俺に言った。長い睫に縁取られた群青色の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
そ、それはつまり……、

 ――まさか、早くも俺の正体発覚!? 

と思って身構えていたら、
「……ごめん。初対面の人間に、いきなりそんな事を言われたら引くよね」
と、気まずそうに俯いて呟いた。――って、初対面?
 つまり彼は、バレンシア劇場の駆け出し専属歌手・レオが、かつての公爵令息と同一人物だとは思わなかったのか。と、取りあえず安堵する。まぁ……彼には嫌われていたからな。
 しかしうちのような小さ、ゴホゴホ……マニアックな劇場にまで来る程とはかなりマニアックな趣味のようだ。
それとも、ミーシャさん達の作ってくれた広告にノせられたとか? いや、あれを真面目に信用するのは……無いだろう、な?
……考えていても仕方ない。こっちから水を向けてみるか。と何とか平静を装い彼に言う。
「貴方確か、俺の舞台に来て下さってましたね?」
「え? どうして分かるの?」
目を丸くして見上げる彼に、俺は説明した。
「舞台から客席って、結構見渡せるんです。だから俺、貴方のことも見えてました」
言うと彼は少しだけ頬を赤らめて“そ、そうなんだ……”とはじらうように白く細い指先を口元につける。
 こうやって改めて見ると、本当にジュエルは綺麗だな。皆が噂するのもよく分かる。本人は普通にやってるつもりでも、ちょっとした仕草に色気がある。
「歌を聴いていただいてありがとう」
「いや……僕こそ。実は今日、すごく嫌なことがあって。でも貴方の歌を聴いてたら、ずっと消えないと思っていた嫌な気持が、すーっと消えてすごく小さくなった」
「もしかして、それをわざわざ言うために?」
「え? ……う、うん。そうなんだ!」
それは純粋に嬉しい。けど
「そのお心は非常にありがたく思います。ですがやはり夜は危ない。わたしでよろしければお送り申し上げますが」
 こんな麗人が歩いていて、たちの悪い輩が放っておくはずがない。俺の歌が原因でもしもの事があったら大変だし。
「……変わらないな……」
「え?」
何かボソッと呟いたジュエルに、聞き返した。けど彼はごまかすように両手を振って
「い、いや……大丈夫!ここからなら大通りに出たらすぐなんだ。もう帰るよ。……で、でも……また、逢いに来ても良いかな?」
上目使いで頬を染めて言われて、断れる人間はいない。
「俺でお役に立つのなら喜んで」
気がつけば、そんな風に返していた。


 奇妙なことになったな。
彼と別れた後、風呂屋に向かいながら俺は、さっきジュエルとしたやり取りについて考えていた。
 まさか、あのジュエルとこんな形で縁が出来ようとは。
でも俺の正体は隠した方が良さそうだ。
まぁ俺が歌い手やるのは週に一回だけだし、彼も家の仕事や交流があるだろうし、頻繁に逢う事は無いだろう。そのくらいなら、何とかなりそうだ。
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