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こんな事になりまして
しおりを挟む舞台袖からそっとのぞいてみる。
ポツポツ、って感じでお客様が来てくれている。でも俺としてはよくこれだけ来てもらえたなぁ……って驚きだった。なんせ初日だし、無名の俺だし。
まぁ……ミーシャさんが『友達に声かけておく』って言ってくれたし、支配人も
「誰もいない、って状況にはしねぇから心配すんな」
って言ってくれた。どういう経緯だとしても、歌を聴きに来て下さった方々だ。精一杯歌わせてもらおう。
……そう。今日は俺がバレンシア劇場専属歌手・レオとして、初めて舞台に立つ日、なのだ。
俺が出て来ると、観客席からパラパラと拍手が起こった。
「よっ! 待ってました!」
「頑張れよ!」
声援をくれたのは、きっと今日のために手配してもらったサクラの人達だろう。笑顔で手を振り返す。ちょっとぎこちなくなったかも知れない。
「皆さん、今日は来てくれてどうもありがとう。精一杯歌わせて頂きます」
挨拶が済んだのと同時にジャーン、と前奏が流れ始める。最初はバラードだ。
俺は静かに息を吸い込むと、旋律にのって歌い始めた。
話は一座の皆さんとの打ち上げの場に戻る。
「――専属、歌手?」
ぽかんとしているのが、自分でも分かる。専属歌手? この俺が?
支配人は更にたたみかけた。
「無論、その分の報酬は支払う。直ぐとは言えないが、キチンと払う。だから今はこの劇場の看板になってもらいたい」
……多分その“直ぐとは言えないが”ってのを容認出来るから俺が選ばれたんだろうと思う。だがこれは言わねば。
「支配人! そこまで買って頂けるのはありがたいですが、俺の歌に金払う人なんかいませんよ!」
今回はあくまでアイカさんの代役だからこそ何とかなった。歌い手は一座の中にある役割の一つであって、メインは一座の皆さんの舞台だからだ。
「ですから、俺の歌なんかで利益が出るとは思えないんですが……それに、歌だけですよ? 楽器とか作詞作曲なんてやった事もありませんし」
と両手を横に振りながら、俺には無理ですアピールをする。
今回は臨時の歌い手だったから、変装してダサい男にした俺でも何とかなったけど次は違う。俺がメインになるんだぞ、無理としか思えない。
そんな俺に支配人は、ニヤリと笑って言った。
「大丈夫だ、それに関してはアテがある」
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