悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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 「し、知らん! こんな奴らは私は知らん!!」
支配人室に喚き声が響く。
因みに舞台は続いている。今ここにいるのは支配人とミーシャさん、座長と俺。そしてマルゴット劇場の支配人・デリス・ガトラーとチンピラ達。結構な人数で満員状態になっていた。
 まぁこの程度のジタバタは予想していたけど、正直言ってうるさい。取りあえずは静かになってもらおう。と手に持っていた物を見せる。正確に言えばその核になっている魔石をだ。
 「これ、何か分かりますか?」
似たような物は見た事があると思うんだが。
 案の定、デリスの顔がみるみる青ざめた。その隣で支配人も驚いている。
「まさか小型録音機! レ、レオン……お前、こんな高価なモン買える程の金あるのか?」
「材料さえ揃えば手作り出来ますよ?」
 魔石を原料にした小型録音機。魔力を込めれば簡単な操作で音声を録音出来る魔道具だ。魔石と薬草は自力で入手したから今回はほぼ、元手無し。
魔石を必要な薬草を煮出した汁に一晩浸し、そこに魔力で術式を書き込んだら出来上がり。商品になっているモノは入れ物に拘っているけど、要は魔石を保護するだけで良いだけだから、最悪ボロキレだって構わない。
「まぁ込められた魔力の量や質によって性能は異なりますが。これならほんの30分程度、近くの音声を録音出来ます」
 今回の場合はこれで十分。と、俺は小型録音機を作動させた。途端に室内にチンピラ達の声が再生される。
“ま、待ってくれ! 俺たちは雇われただけだ!”
“誰に?”
“大劇場のデリス・ガトラーだ! あいつが俺たちに、バレンシア劇場の公演を妨害しろって言ってきたんだ!!”
“毒入りのジュースまで用意して?”
“ち、違う! あのジュースに入れたのは毒じゃない!! ……あ”
“ふーん……あのジュースの差し入れも、お前らの仕業だったのか”
“て、てめぇ……! 引っかけやがったな”

 「……う、嘘だ、こいつらが私を引っかけようとしているんだ!」
「なんだと!? てめぇ! デタラメ言いやがってこの悪徳支配人が!!」
「うるさい! 私は貴様らなど知らん」
「なぁにが知らん、だ! アンタが今、大劇場の支配人になれたのも、俺たちが力を貸してやったからだろうが、邪魔だ邪魔だ、って言ってた上司がいなくなったのも、俺らが手を回したからだぞ!」
「私は何もしてないぞ! “いなくなればいいのに”と愚痴っただけだ」
「その後、“弱みを握らせてくれたら金は出す”って付け加えたのを忘れたか! 挙げ句にあんなはした金しか寄こさなかったくせに、ケチが!」 
 その後もあの時あの貴族をだの、利用してたが邪魔になった女を売り飛ばしただの、聞きたくない内容をつばを飛ばして怒鳴り合う様は、醜いながらもっとやれ、だ。これも小型録音機で現在進行録音中。誰も1個だなんて言ってない。
「デリス。お前さっきレオが……歌い手がいない事を知っていたな」
 罪の擦り合いをしている横から支配人に突っ込まれ、途端に大人しくなるデリス。
「……お前は立ち直ったと思っていたのに、残念だよ」
ぽつり、と支配人が呟く。
あんなに怒っていたのに、やはりどこまでも良い人だ。……が、俺は残念ながら良い人ではない。今度は俺がデリスに話しかけた。
「このまま貴方を営業妨害と傷害の主犯として、警備兵に引き渡しても良いのですが……。この場合の罰則は確か、20年の懲役か、100万程度の罰金刑だと思います」
「なに! こいつらその程度で済まされるのか?」
怒りの声を上げたのは座長だ。対してデリスは、
「ふん、その程度の金なら直ぐにでも……」
ふてぶてしさを取り戻し、にやりと笑った。更に俺は言葉を続ける。
「刑罰はそれでお仕舞いですが、それだけでは済まないでしょうね」
「……何……?」
「あれ? 考えなかったんですか?」
怪訝な表情をするデリスに、俺は大げさに肩をすくめて説明する。
「マルゴット劇場を利用する客は、ほとんどが上流階級者。ならば罪科付の支配人が運営している劇場など利用しませんよ。彼らは醜聞というものを嫌います。
 そして今回被害に遭ったのは、舞台に立つ役者です。商売敵だからといって、自分の目的の為に関係のない役者を傷付ける、そんな責任者のいる劇場で上演したいという団体もいないでしょう。色々な意味で、今までと同じとはいかなくなります。彼らを贔屓にしている貴族もまたしかり、です」
「…………!!」
 その内、ここでやらかした横領罪も芋づる式に出て来るだろう。
支配人は注意程度にしたらしいけど、貴族相手だとそうはいかない。それこそ区の警備兵より貴族の雇っている暗部の方が良い仕事するからな。
 デリスはずっと押し黙ったままだ。うつむいたまま膝頭をギュッと握りしめ、しかめ面で震えている。
 やがて屈辱を耐えるように目だけは睨み付けたまま、声を絞り出した。
「な……何が目当てだ?」
 まぁ警備兵に引き渡さずここに連れて来た時点で、俺達が取引しようとしていることは分かっていただろう。
「話が早くて助かります。簡単ですよ。まず今後、バレンシア劇場に対する妨害行為を一切しないで下さい」
「! 私がしたことだという証拠はないぞ!」
「残念ながらありませんね、今までは。……ですが今後、もし何かあったとしたら、真っ先に疑われるのは貴方です。……そして、そういった行為が起きた時点で、この証拠は公表します」
 デリスはしばらく俺を殺さんとばかりに睨み付けていたが、やがて糸が切れたように脱力すると、
「…………分かった」
と、小さい声で言った。

 このやり方が正しいとは思えない。
アイカさんが受けた被害や、あの醜い言い合いの内容を思うに、全ての罪状を明るみにするのが本来正しいやり方だ。
 しかしながら俺が守りたいのはこの劇場と、周りにいる範囲の人々だ。
デリス・ガトラーの顔にもはや表情はなく、死人のようにうなだれている。
 これから、悪事を公表されるかも知れない恐怖に、怯えながら生きていくんだ。
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