悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

文字の大きさ
上 下
9 / 76

旅の一座のご到着です

しおりを挟む
  翌日、その一座が劇場に訪れた。
「1年ぶりだな座長」
「よぉ支配人。またしばらく世話になるぜ」
「こっちこそ。おかげで久しぶりにここも賑やかになる」
 今日は支配人も朝から張り切っていた。こんなに生き生きしたこの人を見たのは初めてだろう。
 座長はいかにも大空の下で仕事しています、って感じのがっしりとした男性だ。固く盛り上がった筋肉が服の上からでも分かる。赤銅色に日焼けした肌と短く刈り込まれたやや白髪交じりの黒髪。もうかなりのお年らしいがとてもそんなふうには見えない。
 小柄で白髪の支配人と一緒だから、尚更巨軀が目立つ。
 しかしさすが旅の一座の人達。立っているだけで目を奪われる華やかさだ。何と表現すれば良いのか、雰囲気が違う。
 なんて事を考えていると、座長さんと目が合った。
「おっ、新入りだな。ほぉ……さすがに王都には、綺麗な男もいるなぁ……」
 顎に手を当て驚嘆される。……まぁ顔は元婚約者の折り紙付なので。
「レオンです。よろしくお願いします」
「顔も良いが声はもっと良いな! どうだうちの一座に」
「……皆さんは軽業師なのでは?」
声は関係ないように思う。でも座長さんは手を横に振ってみせた。
「いやいや、歌が必要なパートもあってな……」


 音楽に合わせて女性が歌い始めた。
そのタイミングに合わせて、男女2人づつがジャンプし、交差するように横転しながら舞台袖に消える。
 次はクルクルと回りながら、女性が数人出て来る。
それと遅れるようにして反対側から男性が数人、こっちは前転を繰り返し、ちょうど女性達1人1人の目の前で全員、同時に着地、さらに動作を会わせて恭しくお辞儀した。それら全てが曲と歌にリズムを合わせ、ある時は軽快に、ある時は勇敢に技を披露していく。
「歌には主軸になる物語があって、その通りに配役がいる。で、歌に会わせてみんなで演技し、技を見せるのがうちの売りだ」
「つまり軽業と劇の混同のようなものですか」
 そんなふうに俺と座長さんが会話している間も稽古に励んでいる役者さん達。アクロバットしつつ演技もするって大変だろうに、彼らはそれを表情に出さずに楽しい場面では楽しそうにしながらも、連続バク転だの空中で一回転だのをこなしている。まさにすごいの一言だ。
「では休憩も終わったので失礼します。皆さんお食事はどうされますか?」
 今日から興行中、一座のみなさんはこの劇場で泊まり込むことになっている。
 この劇場には食堂はないから、どこかで食べるか持ち込みになる。皆さんの都合によって買ってくるなり出前を頼むなりもしなくてはならない。なら好みを聞いておく必要がある。
「みんなで風呂に行きがてら、食べて帰ってくるから気にしないでくれ」
「分かりました。必要なものがあればお言いつけください」
 一礼してその場を去った。
 うーん、まさか舞台稽古を見学出来るなんて思っていなかった。これからちょくちょく見れるかな。
「レオンくーん! レンタル業者の人来たから案内してー!」
「はい!」


 「う~ん……」
「どうしました、座長?」
「……どうもオレ、あのレオンって兄ちゃんの顔、どっかで見た気がするんだよ」
「あんなに綺麗な奴、見たら忘れないと思うのに」
「ほんとーにキレイだよねぇ! ムサいあんたらとは大違いだ! あんな綺麗なハシバミ色の髪、初めて見たよ……睫も長くてさ。うっわぁ王子様! って、感じ~」
「あたしなんてさっき、“つま先怪我してますね。座ってください”って言われて座ったら、手当してもらっちゃった……。あたしの前のこう跪いて、壊れ物みたいに足の汚れ拭いてくれてさ……」
「「「「えーっ! ずるーい」」」」
「あれに比べたらうちの男共なんて……」
「うっせぇよ。あんな腰の低い王子様なんている訳(わき)ゃねぇ! ってかお前らなんて相手にするもんか、ねぇ座長?」
「ん、何だ? ……あ、あぁそうだ! あれに似てるんだ、確か隣国の大教会で見た写し絵の…………!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど

七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。 あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。 そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど? 毎回視点が変わります。 一話の長さもそれぞれです。 なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。 最終話以外は全く同じ話です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...