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旅の一座のご到着です
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翌日、その一座が劇場に訪れた。
「1年ぶりだな座長」
「よぉ支配人。またしばらく世話になるぜ」
「こっちこそ。おかげで久しぶりにここも賑やかになる」
今日は支配人も朝から張り切っていた。こんなに生き生きしたこの人を見たのは初めてだろう。
座長はいかにも大空の下で仕事しています、って感じのがっしりとした男性だ。固く盛り上がった筋肉が服の上からでも分かる。赤銅色に日焼けした肌と短く刈り込まれたやや白髪交じりの黒髪。もうかなりのお年らしいがとてもそんなふうには見えない。
小柄で白髪の支配人と一緒だから、尚更巨軀が目立つ。
しかしさすが旅の一座の人達。立っているだけで目を奪われる華やかさだ。何と表現すれば良いのか、雰囲気が違う。
なんて事を考えていると、座長さんと目が合った。
「おっ、新入りだな。ほぉ……さすがに王都には、綺麗な男もいるなぁ……」
顎に手を当て驚嘆される。……まぁ顔は元婚約者の折り紙付なので。
「レオンです。よろしくお願いします」
「顔も良いが声はもっと良いな! どうだうちの一座に」
「……皆さんは軽業師なのでは?」
声は関係ないように思う。でも座長さんは手を横に振ってみせた。
「いやいや、歌が必要なパートもあってな……」
音楽に合わせて女性が歌い始めた。
そのタイミングに合わせて、男女2人づつがジャンプし、交差するように横転しながら舞台袖に消える。
次はクルクルと回りながら、女性が数人出て来る。
それと遅れるようにして反対側から男性が数人、こっちは前転を繰り返し、ちょうど女性達1人1人の目の前で全員、同時に着地、さらに動作を会わせて恭しくお辞儀した。それら全てが曲と歌にリズムを合わせ、ある時は軽快に、ある時は勇敢に技を披露していく。
「歌には主軸になる物語があって、その通りに配役がいる。で、歌に会わせてみんなで演技し、技を見せるのがうちの売りだ」
「つまり軽業と劇の混同のようなものですか」
そんなふうに俺と座長さんが会話している間も稽古に励んでいる役者さん達。アクロバットしつつ演技もするって大変だろうに、彼らはそれを表情に出さずに楽しい場面では楽しそうにしながらも、連続バク転だの空中で一回転だのをこなしている。まさにすごいの一言だ。
「では休憩も終わったので失礼します。皆さんお食事はどうされますか?」
今日から興行中、一座のみなさんはこの劇場で泊まり込むことになっている。
この劇場には食堂はないから、どこかで食べるか持ち込みになる。皆さんの都合によって買ってくるなり出前を頼むなりもしなくてはならない。なら好みを聞いておく必要がある。
「みんなで風呂に行きがてら、食べて帰ってくるから気にしないでくれ」
「分かりました。必要なものがあればお言いつけください」
一礼してその場を去った。
うーん、まさか舞台稽古を見学出来るなんて思っていなかった。これからちょくちょく見れるかな。
「レオンくーん! レンタル業者の人来たから案内してー!」
「はい!」
「う~ん……」
「どうしました、座長?」
「……どうもオレ、あのレオンって兄ちゃんの顔、どっかで見た気がするんだよ」
「あんなに綺麗な奴、見たら忘れないと思うのに」
「ほんとーにキレイだよねぇ! ムサいあんたらとは大違いだ! あんな綺麗なハシバミ色の髪、初めて見たよ……睫も長くてさ。うっわぁ王子様! って、感じ~」
「あたしなんてさっき、“つま先怪我してますね。座ってください”って言われて座ったら、手当してもらっちゃった……。あたしの前のこう跪いて、壊れ物みたいに足の汚れ拭いてくれてさ……」
「「「「えーっ! ずるーい」」」」
「あれに比べたらうちの男共なんて……」
「うっせぇよ。あんな腰の低い王子様なんている訳(わき)ゃねぇ! ってかお前らなんて相手にするもんか、ねぇ座長?」
「ん、何だ? ……あ、あぁそうだ! あれに似てるんだ、確か隣国の大教会で見た写し絵の…………!」
「1年ぶりだな座長」
「よぉ支配人。またしばらく世話になるぜ」
「こっちこそ。おかげで久しぶりにここも賑やかになる」
今日は支配人も朝から張り切っていた。こんなに生き生きしたこの人を見たのは初めてだろう。
座長はいかにも大空の下で仕事しています、って感じのがっしりとした男性だ。固く盛り上がった筋肉が服の上からでも分かる。赤銅色に日焼けした肌と短く刈り込まれたやや白髪交じりの黒髪。もうかなりのお年らしいがとてもそんなふうには見えない。
小柄で白髪の支配人と一緒だから、尚更巨軀が目立つ。
しかしさすが旅の一座の人達。立っているだけで目を奪われる華やかさだ。何と表現すれば良いのか、雰囲気が違う。
なんて事を考えていると、座長さんと目が合った。
「おっ、新入りだな。ほぉ……さすがに王都には、綺麗な男もいるなぁ……」
顎に手を当て驚嘆される。……まぁ顔は元婚約者の折り紙付なので。
「レオンです。よろしくお願いします」
「顔も良いが声はもっと良いな! どうだうちの一座に」
「……皆さんは軽業師なのでは?」
声は関係ないように思う。でも座長さんは手を横に振ってみせた。
「いやいや、歌が必要なパートもあってな……」
音楽に合わせて女性が歌い始めた。
そのタイミングに合わせて、男女2人づつがジャンプし、交差するように横転しながら舞台袖に消える。
次はクルクルと回りながら、女性が数人出て来る。
それと遅れるようにして反対側から男性が数人、こっちは前転を繰り返し、ちょうど女性達1人1人の目の前で全員、同時に着地、さらに動作を会わせて恭しくお辞儀した。それら全てが曲と歌にリズムを合わせ、ある時は軽快に、ある時は勇敢に技を披露していく。
「歌には主軸になる物語があって、その通りに配役がいる。で、歌に会わせてみんなで演技し、技を見せるのがうちの売りだ」
「つまり軽業と劇の混同のようなものですか」
そんなふうに俺と座長さんが会話している間も稽古に励んでいる役者さん達。アクロバットしつつ演技もするって大変だろうに、彼らはそれを表情に出さずに楽しい場面では楽しそうにしながらも、連続バク転だの空中で一回転だのをこなしている。まさにすごいの一言だ。
「では休憩も終わったので失礼します。皆さんお食事はどうされますか?」
今日から興行中、一座のみなさんはこの劇場で泊まり込むことになっている。
この劇場には食堂はないから、どこかで食べるか持ち込みになる。皆さんの都合によって買ってくるなり出前を頼むなりもしなくてはならない。なら好みを聞いておく必要がある。
「みんなで風呂に行きがてら、食べて帰ってくるから気にしないでくれ」
「分かりました。必要なものがあればお言いつけください」
一礼してその場を去った。
うーん、まさか舞台稽古を見学出来るなんて思っていなかった。これからちょくちょく見れるかな。
「レオンくーん! レンタル業者の人来たから案内してー!」
「はい!」
「う~ん……」
「どうしました、座長?」
「……どうもオレ、あのレオンって兄ちゃんの顔、どっかで見た気がするんだよ」
「あんなに綺麗な奴、見たら忘れないと思うのに」
「ほんとーにキレイだよねぇ! ムサいあんたらとは大違いだ! あんな綺麗なハシバミ色の髪、初めて見たよ……睫も長くてさ。うっわぁ王子様! って、感じ~」
「あたしなんてさっき、“つま先怪我してますね。座ってください”って言われて座ったら、手当してもらっちゃった……。あたしの前のこう跪いて、壊れ物みたいに足の汚れ拭いてくれてさ……」
「「「「えーっ! ずるーい」」」」
「あれに比べたらうちの男共なんて……」
「うっせぇよ。あんな腰の低い王子様なんている訳(わき)ゃねぇ! ってかお前らなんて相手にするもんか、ねぇ座長?」
「ん、何だ? ……あ、あぁそうだ! あれに似てるんだ、確か隣国の大教会で見た写し絵の…………!」
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