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閑話~コーニー男爵令息アーリア
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昨日は痛快だった。
あの目障りな“悪役令息”レオン・マクガイヤを断罪したんだからな。
俺はあの男が嫌いだ。
“主人公”である俺の“敵キャラ”なのも理由だが、親父が公爵だから俺の俺のやる事にはいちいち文句を言うくせに、ルナ……あいつの婚約者である第3王女にはやたら低姿勢で、逆らおうとしない。俺のような野生の強さを持たない、飼い慣らされた駄犬だ。
なのに見た目が整っているのに加え、成績武術共に実力はトップクラス。生徒達にも慕われている。
特に気に入らないのは歌がうまい事だ。声楽の時間にあいつの歌声が聞こえてくると、怒っていたはずの教師まで、しばし言葉を忘れ、聞き入るのだという。
はては「レオン様のお声を聞いた後頭痛が無くなった」だの「レオン様の歌声には、魔獣でも大人しくなる」なんてデタラメな噂話が出る程だ。
あいつの“キャラ設定”に、そんなもんはなかったから、大方自分でねつ造したんだろう。……本当に最低な男だったぜ。
でもアイツの婚約者のルナはもう、俺の女だ。断罪の後、公爵家からも追い出されたらしい。
へへっ、今頃我が身の不幸に自殺でもしてるかもなぁ! それとも男娼にでも身を落としているかな? どちらにしろザマァミロだぜ。
「アーリアァ……もう、行っちゃうのぉ?」
帰り支度を始める俺に、隣で寝ていたリーリアが半身を起こし、拗ねたように頬を膨らませた。
リーリアの両親は、仕事の話し合いで昨日から泊まりで出かけている。その事を聞いていた俺は、夜に彼女を訪ね、そのまま朝まで楽しんだ。
俺は甘い笑みを浮かべてやると、その頬に軽くキスをする。
「今日から城勤めだからな。俺も少しは真面目に仕事しなきゃなんだよ」
「もう……、また来てくれなきゃ、やだからね?」
キスマークの目立つ豊満な胸を両腕でかき寄せるように抱きしめ、上目遣いに俺を見る様はあたかも娼婦のようだ。
清純なイメージが売りな主要攻略対象のキャラも、俺の手にかかればこんなもんだ。
俺にかかれば、どんな女もチョロい。
まぁそれは、現世(いま)も昔(前世)も変わらないが。
俺には前世の記憶がある。
そこではこの世界は、『異世界ラブラブ大作戦!!』って言うR18指定のギャルゲーだった。そしてゲームのプレイヤー兼主人公が、この俺だ。
この記憶が蘇った時は歓喜したぜ。なんせやり込んでいたからな。
前世でもその辺のテクは慣れたもんだった。これといった女に、最初は優しくしてやって、その後は金ヅルとして“調教”する。
優しくしてやるのと冷たくするのを交互に繰り返すんだ。調子づいた時は脅してやれば素直になる。殴ろうか蹴ろうが抵抗しない、従順な奴隷の出来上がりだ。
更にここはゲームの世界だ。俺は早速攻略対象達に接近し、落としていった。今会ってたのは人気主要キャラ・平民の花売り娘のリーリアだが、他の攻略対象達ともそういう意味で、仲良くやっている。暴力も使う必要も無く、人形のように従順だ。
このゲームにハーレムエンドは無い。
最後は1人に絞る事になるが、それまでなら全員とヤレる。どうせなら美味しい所は最大限、味わわないとな。
何せ俺は主人公。この世界の中心、なんだから。
「よぉ、ジュエル」
城門のところで、知った顔に出くわした。
ジュエル・サイラス。
子爵令息と貴族としては中流だが、領地で出来るワインの質が良く、それを国内外で売る事でかなり儲けているので位だけの貴族よりはよほど金を持っている。攻略対象じゃないのが残念だ。
え、俺にそのケがあるのか、って? 違う。
俺は最初見た時、“こいつは隠しの女装キャラか?”って疑った程にお綺麗な顔しているからだ。体もほっそりしているし色白なことといったら女でも恥ずかしくなるだろう、ってほどだ。学園にいた時も“氷の麗人”“水の女神の愛し子”なんて呼ばれていた。
「やぁコーニー殿。相変わらず朝帰りですか?」
「何度も言ってるだろ? 俺のことはアーリア、って呼べよ。王女の婚約者だからって遠慮はいらないからな」
ニィッと笑ってやるが、奴の表情は一向に崩れない。ツンデレ、ってやつか?
「聞いたか? レオンが公爵家から追い出されたこと」
「……知っている」
ジュエルがぽつり、と返事をする。
「ま・俺も嫌な思いはさせられたけどよ、もう忘れてやる事にしたぜ。王女の婚約者になったからにはこれからのことを考えなきゃな」
「…………」
レオンは悪役だから最後はきっと悲惨だろう。
そんな脇役の事はさっぱり忘れて、これからのことに目を向けるのが主人公ってもんだ。侍女も良い女が多いからな……。
「……確かに彼は、王宮にも公爵家にも相応しくないと思うよ」
感情の見えない顔で言った言葉に、笑いそうになるのを堪えた。
こいつも俺の側なんだ。
本当に俺にはそのケはないぞ? ただあの気取り帰った顔を歪ませて、涙ながらに“お願い”って縋ってきたらいっぺんくらいは……ヤッてみようかなーなんて……思うだけ、だからな。
「じゃあジョエル、またな」
手を振って離れる俺の背後で、またジュエルが呟いていた。
「……王城も公爵家も、彼には相応しくなかった」
執務室の椅子にふんぞり返って座っていると、静かなノックの音がした。
「入れ」
入ってきたのは王配専属の秘書だった。今まではアイツ付きだったが今日からは俺が主だ。
「失礼致します。お待ちしておりましたアーリア様。本日の任務ですが、マクガイヤ公爵令息の……」
「……レオン、で良いだろ! 追い出された断罪人を敬称で呼ぶなよ」
俺が怒鳴ると、ヒッと悲鳴を上げて後じさった。
「何だよ任務って。適当な奴にやらせとけよ」
「……ご婚約者であらせられる、第3王女と共に行う任務なのでそれはちょっと」
「チッ、使えねぇな。で、任務ってのは何なんだ?」
「……では任務をご説明致します。本日は東の森に魔獣討伐に向かっていただきます」
「まっ、魔獣討伐ぅ!?」
立ち上がって叫んでしまった。座っていた椅子が後ろに倒れる。
――何だよ、それは!?
あの目障りな“悪役令息”レオン・マクガイヤを断罪したんだからな。
俺はあの男が嫌いだ。
“主人公”である俺の“敵キャラ”なのも理由だが、親父が公爵だから俺の俺のやる事にはいちいち文句を言うくせに、ルナ……あいつの婚約者である第3王女にはやたら低姿勢で、逆らおうとしない。俺のような野生の強さを持たない、飼い慣らされた駄犬だ。
なのに見た目が整っているのに加え、成績武術共に実力はトップクラス。生徒達にも慕われている。
特に気に入らないのは歌がうまい事だ。声楽の時間にあいつの歌声が聞こえてくると、怒っていたはずの教師まで、しばし言葉を忘れ、聞き入るのだという。
はては「レオン様のお声を聞いた後頭痛が無くなった」だの「レオン様の歌声には、魔獣でも大人しくなる」なんてデタラメな噂話が出る程だ。
あいつの“キャラ設定”に、そんなもんはなかったから、大方自分でねつ造したんだろう。……本当に最低な男だったぜ。
でもアイツの婚約者のルナはもう、俺の女だ。断罪の後、公爵家からも追い出されたらしい。
へへっ、今頃我が身の不幸に自殺でもしてるかもなぁ! それとも男娼にでも身を落としているかな? どちらにしろザマァミロだぜ。
「アーリアァ……もう、行っちゃうのぉ?」
帰り支度を始める俺に、隣で寝ていたリーリアが半身を起こし、拗ねたように頬を膨らませた。
リーリアの両親は、仕事の話し合いで昨日から泊まりで出かけている。その事を聞いていた俺は、夜に彼女を訪ね、そのまま朝まで楽しんだ。
俺は甘い笑みを浮かべてやると、その頬に軽くキスをする。
「今日から城勤めだからな。俺も少しは真面目に仕事しなきゃなんだよ」
「もう……、また来てくれなきゃ、やだからね?」
キスマークの目立つ豊満な胸を両腕でかき寄せるように抱きしめ、上目遣いに俺を見る様はあたかも娼婦のようだ。
清純なイメージが売りな主要攻略対象のキャラも、俺の手にかかればこんなもんだ。
俺にかかれば、どんな女もチョロい。
まぁそれは、現世(いま)も昔(前世)も変わらないが。
俺には前世の記憶がある。
そこではこの世界は、『異世界ラブラブ大作戦!!』って言うR18指定のギャルゲーだった。そしてゲームのプレイヤー兼主人公が、この俺だ。
この記憶が蘇った時は歓喜したぜ。なんせやり込んでいたからな。
前世でもその辺のテクは慣れたもんだった。これといった女に、最初は優しくしてやって、その後は金ヅルとして“調教”する。
優しくしてやるのと冷たくするのを交互に繰り返すんだ。調子づいた時は脅してやれば素直になる。殴ろうか蹴ろうが抵抗しない、従順な奴隷の出来上がりだ。
更にここはゲームの世界だ。俺は早速攻略対象達に接近し、落としていった。今会ってたのは人気主要キャラ・平民の花売り娘のリーリアだが、他の攻略対象達ともそういう意味で、仲良くやっている。暴力も使う必要も無く、人形のように従順だ。
このゲームにハーレムエンドは無い。
最後は1人に絞る事になるが、それまでなら全員とヤレる。どうせなら美味しい所は最大限、味わわないとな。
何せ俺は主人公。この世界の中心、なんだから。
「よぉ、ジュエル」
城門のところで、知った顔に出くわした。
ジュエル・サイラス。
子爵令息と貴族としては中流だが、領地で出来るワインの質が良く、それを国内外で売る事でかなり儲けているので位だけの貴族よりはよほど金を持っている。攻略対象じゃないのが残念だ。
え、俺にそのケがあるのか、って? 違う。
俺は最初見た時、“こいつは隠しの女装キャラか?”って疑った程にお綺麗な顔しているからだ。体もほっそりしているし色白なことといったら女でも恥ずかしくなるだろう、ってほどだ。学園にいた時も“氷の麗人”“水の女神の愛し子”なんて呼ばれていた。
「やぁコーニー殿。相変わらず朝帰りですか?」
「何度も言ってるだろ? 俺のことはアーリア、って呼べよ。王女の婚約者だからって遠慮はいらないからな」
ニィッと笑ってやるが、奴の表情は一向に崩れない。ツンデレ、ってやつか?
「聞いたか? レオンが公爵家から追い出されたこと」
「……知っている」
ジュエルがぽつり、と返事をする。
「ま・俺も嫌な思いはさせられたけどよ、もう忘れてやる事にしたぜ。王女の婚約者になったからにはこれからのことを考えなきゃな」
「…………」
レオンは悪役だから最後はきっと悲惨だろう。
そんな脇役の事はさっぱり忘れて、これからのことに目を向けるのが主人公ってもんだ。侍女も良い女が多いからな……。
「……確かに彼は、王宮にも公爵家にも相応しくないと思うよ」
感情の見えない顔で言った言葉に、笑いそうになるのを堪えた。
こいつも俺の側なんだ。
本当に俺にはそのケはないぞ? ただあの気取り帰った顔を歪ませて、涙ながらに“お願い”って縋ってきたらいっぺんくらいは……ヤッてみようかなーなんて……思うだけ、だからな。
「じゃあジョエル、またな」
手を振って離れる俺の背後で、またジュエルが呟いていた。
「……王城も公爵家も、彼には相応しくなかった」
執務室の椅子にふんぞり返って座っていると、静かなノックの音がした。
「入れ」
入ってきたのは王配専属の秘書だった。今まではアイツ付きだったが今日からは俺が主だ。
「失礼致します。お待ちしておりましたアーリア様。本日の任務ですが、マクガイヤ公爵令息の……」
「……レオン、で良いだろ! 追い出された断罪人を敬称で呼ぶなよ」
俺が怒鳴ると、ヒッと悲鳴を上げて後じさった。
「何だよ任務って。適当な奴にやらせとけよ」
「……ご婚約者であらせられる、第3王女と共に行う任務なのでそれはちょっと」
「チッ、使えねぇな。で、任務ってのは何なんだ?」
「……では任務をご説明致します。本日は東の森に魔獣討伐に向かっていただきます」
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