上 下
4 / 76

閑話~コーニー男爵令息アーリア

しおりを挟む
 昨日は痛快だった。
あの目障りな“悪役令息”レオン・マクガイヤを断罪したんだからな。
 俺はあの男が嫌いだ。
“主人公”である俺の“敵キャラ”なのも理由だが、親父が公爵だから俺の俺のやる事にはいちいち文句を言うくせに、ルナ……あいつの婚約者である第3王女にはやたら低姿勢で、逆らおうとしない。俺のような野生の強さを持たない、飼い慣らされた駄犬だ。
なのに見た目が整っているのに加え、成績武術共に実力はトップクラス。生徒達にも慕われている。
 特に気に入らないのは歌がうまい事だ。声楽の時間にあいつの歌声が聞こえてくると、怒っていたはずの教師まで、しばし言葉を忘れ、聞き入るのだという。
 はては「レオン様のお声を聞いた後頭痛が無くなった」だの「レオン様の歌声には、魔獣でも大人しくなる」なんてデタラメな噂話が出る程だ。
あいつの“キャラ設定”に、そんなもんはなかったから、大方自分でねつ造したんだろう。……本当に最低な男だったぜ。
 でもアイツの婚約者のルナはもう、俺の女だ。断罪の後、公爵家からも追い出されたらしい。
へへっ、今頃我が身の不幸に自殺でもしてるかもなぁ! それとも男娼にでも身を落としているかな? どちらにしろザマァミロだぜ。
 「アーリアァ……もう、行っちゃうのぉ?」
 帰り支度を始める俺に、隣で寝ていたリーリアが半身を起こし、拗ねたように頬を膨らませた。
 リーリアの両親は、仕事の話し合いで昨日から泊まりで出かけている。その事を聞いていた俺は、夜に彼女を訪ね、そのまま朝まで楽しんだ。
俺は甘い笑みを浮かべてやると、その頬に軽くキスをする。
「今日から城勤めだからな。俺も少しは真面目に仕事しなきゃなんだよ」
「もう……、また来てくれなきゃ、やだからね?」
キスマークの目立つ豊満な胸を両腕でかき寄せるように抱きしめ、上目遣いに俺を見る様はあたかも娼婦のようだ。
 清純なイメージが売りな主要攻略対象のキャラも、俺の手にかかればこんなもんだ。
 俺にかかれば、どんな女もチョロい。
まぁそれは、現世(いま)も昔(前世)も変わらないが。

 俺には前世の記憶がある。
そこではこの世界は、『異世界ラブラブ大作戦!!』って言うR18指定のギャルゲーだった。そしてゲームのプレイヤー兼主人公が、この俺だ。
 この記憶が蘇った時は歓喜したぜ。なんせやり込んでいたからな。
前世でもその辺のテクは慣れたもんだった。これといった女に、最初は優しくしてやって、その後は金ヅルとして“調教”する。
優しくしてやるのと冷たくするのを交互に繰り返すんだ。調子づいた時は脅してやれば素直になる。殴ろうか蹴ろうが抵抗しない、従順な奴隷の出来上がりだ。
 更にここはゲームの世界だ。俺は早速攻略対象達に接近し、落としていった。今会ってたのは人気主要キャラ・平民の花売り娘のリーリアだが、他の攻略対象達ともそういう意味で、仲良くやっている。暴力も使う必要も無く、人形のように従順だ。
このゲームにハーレムエンドは無い。
最後は1人に絞る事になるが、それまでなら全員とヤレる。どうせなら美味しい所は最大限、味わわないとな。
何せ俺は主人公。この世界の中心、なんだから。


「よぉ、ジュエル」
城門のところで、知った顔に出くわした。
ジュエル・サイラス。
 子爵令息と貴族としては中流だが、領地で出来るワインの質が良く、それを国内外で売る事でかなり儲けているので位だけの貴族よりはよほど金を持っている。攻略対象じゃないのが残念だ。
 え、俺にそのケがあるのか、って? 違う。
俺は最初見た時、“こいつは隠しの女装キャラか?”って疑った程にお綺麗な顔しているからだ。体もほっそりしているし色白なことといったら女でも恥ずかしくなるだろう、ってほどだ。学園にいた時も“氷の麗人”“水の女神の愛し子”なんて呼ばれていた。
「やぁコーニー殿。相変わらず朝帰りですか?」
「何度も言ってるだろ? 俺のことはアーリア、って呼べよ。王女の婚約者だからって遠慮はいらないからな」
ニィッと笑ってやるが、奴の表情は一向に崩れない。ツンデレ、ってやつか?
「聞いたか? レオンが公爵家から追い出されたこと」
「……知っている」
ジュエルがぽつり、と返事をする。
「ま・俺も嫌な思いはさせられたけどよ、もう忘れてやる事にしたぜ。王女の婚約者になったからにはこれからのことを考えなきゃな」
「…………」
レオンは悪役だから最後はきっと悲惨だろう。
そんな脇役の事はさっぱり忘れて、これからのことに目を向けるのが主人公ってもんだ。侍女も良い女が多いからな……。
「……確かに彼は、王宮にも公爵家にも相応しくないと思うよ」
 感情の見えない顔で言った言葉に、笑いそうになるのを堪えた。
こいつも俺の側なんだ。
 本当に俺にはそのケはないぞ? ただあの気取り帰った顔を歪ませて、涙ながらに“お願い”って縋ってきたらいっぺんくらいは……ヤッてみようかなーなんて……思うだけ、だからな。
「じゃあジョエル、またな」
 手を振って離れる俺の背後で、またジュエルが呟いていた。
「……王城も公爵家も、彼には相応しくなかった」


執務室の椅子にふんぞり返って座っていると、静かなノックの音がした。
「入れ」
 入ってきたのは王配専属の秘書だった。今まではアイツ付きだったが今日からは俺が主だ。
「失礼致します。お待ちしておりましたアーリア様。本日の任務ですが、マクガイヤ公爵令息の……」
「……レオン、で良いだろ! 追い出された断罪人を敬称で呼ぶなよ」
俺が怒鳴ると、ヒッと悲鳴を上げて後じさった。
「何だよ任務って。適当な奴にやらせとけよ」
「……ご婚約者であらせられる、第3王女と共に行う任務なのでそれはちょっと」
「チッ、使えねぇな。で、任務ってのは何なんだ?」
「……では任務をご説明致します。本日は東の森に魔獣討伐に向かっていただきます」
「まっ、魔獣討伐ぅ!?」
立ち上がって叫んでしまった。座っていた椅子が後ろに倒れる。
――何だよ、それは!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

愛のない結婚はごめんですわ

もぐすけ
ファンタジー
 私はエルザ・ミッドランド。ミッドランド侯爵家の長女で十七歳。十歳のときに同い年の第一王子のエドワードと婚約した。  親の決めた相手だが、ルックスも頭もよく、いずれは国王にと目される優秀な人物で、私は幸せになれると思っていたのだが、浮気をすると堂々と宣言され、私に対する恋愛感情はないとはっきりと言われた。  最初からあまり好きではなかったし、こんなことを言われてまで結婚したくはないのだが、私の落ち度で婚約破棄ともなれば、ミッドランド一族が路頭に迷ってしまう。  どうしてもエドワードと結婚したくない私は、誰にも迷惑を掛けずに婚約解消する起死回生の策を思いつき、行動に移したのだが、それをきっかけに私の人生は思わぬ方向に進んでいく。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる

黒木  鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。

婚約破棄に向けて悪役令嬢始めました

樹里
ファンタジー
王太子殿下との婚約破棄を切っ掛けに、何度も人生を戻され、その度に絶望に落とされる公爵家の娘、ヴィヴィアンナ・ローレンス。 嘆いても、泣いても、この呪われた運命から逃れられないのであれば、せめて自分の意志で、自分の手で人生を華麗に散らしてみせましょう。 私は――立派な悪役令嬢になります!

処理中です...