悪役令息な俺でもいいんですか?~歌声で人々を癒やします。でも元婚約者(第3王女)はお断りです~

みけの

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泊まる場所が出来ました

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「君、どうしたの?」
声をかけてから少し距離を空け、彼女の目の高さにしゃがむ。少しでも警戒心が薄れたら--と思ってしたことだった。
 でも女の子の方は、心細い思いをしたというのに突然見知らぬ人間が話しかけた事に、警戒しているようだ。まぁ当然だな。
 少しでも気持がほぐれるようにと、穏やかに、更に言葉を続ける。
「一緒にいた誰かとはぐれた?」 
「…………」
「それとも、その封筒……。どこかに届けたいのかな? お使い出来るの、偉いね」
 と、ここで女の子が初めて、俺の顔を真っ直ぐに見てきた。さっきより表情が明るい気もする。
「どこに行きたいの?」
「バ、バレンシア劇場……」
 バレンシア劇場。……あったなぁ。道は……どうにか覚えてそうだ。ここからはそう、遠くも無い筈。警戒されているみたいだし、道順だけ教えたら良いかな。
「ここから真っ直ぐ行って3本目の街灯を……」
説明はしようとしたら、幼い顔がふにゃんと不安そうに歪んだ。縋るような目でこっちを見上げてくる。
「――一緒に、行こうか?」
「うん!」
 俺が言うと、女の子の顔がパッと明るくなる。……不審者だと思われないと良いけど。そこが心配だ。



 が、幸いに不審者と思われることはなく、無事に劇場に行くと、受付にいた女性がガタッと立ち上がった。そのままカウンターを抜けて、俺たちの前に駆け寄る。
「ミヤ!」
「おねーちゃん!」
 女性が呼ぶと、女の子――ミヤちゃんというらしい――は、女性が腕を広げると同時に飛び込んでいく。女の人もミヤちゃんを抱きしめ返す。
「どうしたの? 職場まで来るなんて」
「だ、だってお姉ちゃん、このふーとー、忘れたでしょう……? き、今日必要になる、大切な、って……言ってたのに」
「あー!!」
 ミヤちゃんが抱えていた封筒が目に入るや、“お姉ちゃん”の口からやってもた的な絶叫が出た。ミヤちゃんの手から受け取ると、はあーっと長く息を吐きながら胸に抱く。
「わ、忘れてたんだ……。良かったぁ……支配人がいない内で」
「……俺がどうかしたか?」
 お姉さんの言葉を聞いた途端、静かに背後にいた人が、お姉さんの背中にドスのきいた声をかける。
「ひゃっ? い、いつからいたんですか支配人!」
本当に気付いてなかったのか、お姉さhんはギョッとして、背後にいた初老の男性を凝視している。
 この人が支配人か。
でも“支配人がいない内で”って言ったから、きっと彼に必要な書類なのだろう。ミヤちゃんの判断は正解だったようだ。…道には迷ったけれど。
 まぁとにかく、無事で良かったな……では俺がここにいる理由は無い。ちゃんとミヤちゃんの無事も確認出来たし。
「では、俺はここで……」
と、出て行こうとした俺だったが、その前にミヤちゃんのお姉さんにガチ、と手を握られた。俺を見る目がうるうるしている。ど、どうしたんだ?
「名も知らないお方、ありがとうございます! あなたがいて下さらなかったら、今頃ミヤはどうなっていたか!」
「いや俺は、当然のことをしたまでで」
 と返したが、ブンブンッと首を振るわれ、なおも感謝の言葉を言われた。
「いいえ! あなたに出会わなかったらこの子はどうなっていたか! こんなに可愛い妹ですもの、きっと変質者に拉致されるか、奴隷商人に売られるか、いえ、もっと酷い目に遭わされていたでしょう!! そうなれば私も生きてはおりません! あなたは私達の恩人です!!」
 ね、熱量がすごい。って言うかお姉さんの妄想がスゴイ。
ってか、その“変質者”や“奴隷商人”が俺だって可能性もあるんだけど……。何故そこに行き当たらないんだろう?
 なんて事を考えてたら、ぽん、と気軽な感じで肩を叩かれた。彼は俺より背が低いからか、俺から見れば見上げられているようになる。
 なのに…なぜか、同じ目線でいるように感じてしまう。始めての感覚に戸惑う。
父を初めとし、俺は…見下されるのが普通だったから。
 が、きっと父よりはるかに年長だと思わされる支配人は、人懐っこい顔で笑うと、
「まぁとりあえずお前さん、もう遅いから今日はここに泊まっていけよ。ミーシャの妹の恩人なら、俺にだって恩人だしな」
と、言った。
 遠慮するべきだ、と頭のどこかは言っていたが…現在自分は無職・宿なしの身分である。
 さらに窓の外を見れば、すっかり夜になっている。もはや野宿しかないと覚悟していた身としてはありがたい。
「では本日だけ、お言葉に甘えて…」
と、支配人の申し出に、甘える事にした。
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