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前編
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やあ! よく来たね。
ずっと会えずにいたから新鮮な気持ちだ。まあ座ってくれ給え、今日はゆっくりして行けるんだろう? 今珈琲を用意するよ。
はい、どうぞ。……まずいかな? 魔道具に君の好みの味と温度に設定したつもりだけど……。おいしい? それは良かった。
……え、久しぶりの休暇? 昨日まで5連勤で、寝る間も無かった?
……お、お疲れ様。王宮魔術師は名誉ある職だけどその分、大変でもあるんだなぁ……。
僕かい? 店(ここ)は見ての通りさ。閑古鳥が巣を作って居座っているよ。大通りから外れているせいで、なかなか客が来ないんだ。だから君みたいなブラックではない。客も先月の末に来たのが最後だったな……。え、店大丈夫かって? はは、まぁどうにかしているさ。
……そうそう。客で思い出したんだが、その先月末の客がなかなか面白い注文をしてね。え、どんな薬かって?
他人を魅了する薬だよ。
うわっぷ!!
何だ何だ……いきなり吹き出して!! 思いっ切りかかったじゃないか! 洗浄魔法は君がしてくれよ……!
うん、すっかり元通りだ。さすが王宮魔術師! 僕のような下町の魔法系薬屋じゃあ、こうはいかない。……あれ? 随分顔色が悪いね。どうしてそんなに落ち着けるんだ!! って?
魅了関係の魔法や薬は、使えば大罪だ! 悪くて処刑、良くても一生強制労働だぞ! ってそんなのは知っているよ。
心配してくれてありがとう。良い友を持って僕は幸せだよ。
あ、イタ! ……何もぶたなくてもいいだろ?
ご心配なく。
僕だって我が身は可愛いからね。その客には一旦保留にして帰らせて、一直線に騎士団の詰め所に行ったさ。こんな客が来たって。
その翌日、王宮から使者が来て僕は登城する事になった。え、知らなかった? そりゃあ君……5連勤だったのだろう? 缶詰になっていて、外界の事どころじゃなかったろうさ。
僕だってパニックだったよ。騎士の詰め所ならともかく何故登城? 何がどうしてそうなるんだ! ……ってグルグル考えていたら、引き合わされたのはなんと、王太子殿下の側近という青年だった。名前は――だったか。え、知ってる? そうだろうね。なかなか賢そうで感じが良かったよ。こんなしがない薬屋相手に、丁寧な応対をしてもらった。
そこで聞いた話は、まぁ意外でもなかったかな。
魅了を使う動機なんて、似たようなものだからね。
客の女の正体は、とある男爵家の令嬢だった。
それがどうとち狂ったのか、王太子の御心を得ようと目論んでいるらしい。婚約者のいる相手、しかも高位貴族のご令嬢様なのにだ。全く命知らずとしか思えない。
王太子殿下の方は、ちょっと目新しい生き物を構ってみよう程度の認識で相手にしていたという。それが彼女を付け上がらせるとは夢にも思わずにね。
だがその興味も即効で冷めた。
ギラギラした目で距離を近づけようとアレコレ画策してくるわ、しまいには殿下の婚約者にいじめられたなどと、訳の分からない事を訴えてくる始末で、さすがに殿下もウンザリされてきたようだ。とうとう親を通じて近づかないように言って欲しいと釘を刺された。
親も驚いたようでひたすら平伏し、申し訳ございません! 今後は絶対にそのような真似をしないよう言い聞かせます。それでもダメなら修道院へ送りますと言ったらしい。
――その矢先に、僕の訴えが伝わった。
見たところご両親はきちんとした人物だから不問にしたかったというのが殿下のお気持ちだ。
だが魅了は禁術だ。更に王族に使おうとまで企んだなら仕方がない。
罪を償うのは犯人である男爵令嬢だけで留まらない。土下座した家族も連座で処刑されることになる。
それを熟知している側近殿の、苦々しいというか、悲痛な表情に―――僕はちょっとした提案をした。
魅了の薬を与えましょう。
ただし彼女の期待通りにはなりませんが……と。
ずっと会えずにいたから新鮮な気持ちだ。まあ座ってくれ給え、今日はゆっくりして行けるんだろう? 今珈琲を用意するよ。
はい、どうぞ。……まずいかな? 魔道具に君の好みの味と温度に設定したつもりだけど……。おいしい? それは良かった。
……え、久しぶりの休暇? 昨日まで5連勤で、寝る間も無かった?
……お、お疲れ様。王宮魔術師は名誉ある職だけどその分、大変でもあるんだなぁ……。
僕かい? 店(ここ)は見ての通りさ。閑古鳥が巣を作って居座っているよ。大通りから外れているせいで、なかなか客が来ないんだ。だから君みたいなブラックではない。客も先月の末に来たのが最後だったな……。え、店大丈夫かって? はは、まぁどうにかしているさ。
……そうそう。客で思い出したんだが、その先月末の客がなかなか面白い注文をしてね。え、どんな薬かって?
他人を魅了する薬だよ。
うわっぷ!!
何だ何だ……いきなり吹き出して!! 思いっ切りかかったじゃないか! 洗浄魔法は君がしてくれよ……!
うん、すっかり元通りだ。さすが王宮魔術師! 僕のような下町の魔法系薬屋じゃあ、こうはいかない。……あれ? 随分顔色が悪いね。どうしてそんなに落ち着けるんだ!! って?
魅了関係の魔法や薬は、使えば大罪だ! 悪くて処刑、良くても一生強制労働だぞ! ってそんなのは知っているよ。
心配してくれてありがとう。良い友を持って僕は幸せだよ。
あ、イタ! ……何もぶたなくてもいいだろ?
ご心配なく。
僕だって我が身は可愛いからね。その客には一旦保留にして帰らせて、一直線に騎士団の詰め所に行ったさ。こんな客が来たって。
その翌日、王宮から使者が来て僕は登城する事になった。え、知らなかった? そりゃあ君……5連勤だったのだろう? 缶詰になっていて、外界の事どころじゃなかったろうさ。
僕だってパニックだったよ。騎士の詰め所ならともかく何故登城? 何がどうしてそうなるんだ! ……ってグルグル考えていたら、引き合わされたのはなんと、王太子殿下の側近という青年だった。名前は――だったか。え、知ってる? そうだろうね。なかなか賢そうで感じが良かったよ。こんなしがない薬屋相手に、丁寧な応対をしてもらった。
そこで聞いた話は、まぁ意外でもなかったかな。
魅了を使う動機なんて、似たようなものだからね。
客の女の正体は、とある男爵家の令嬢だった。
それがどうとち狂ったのか、王太子の御心を得ようと目論んでいるらしい。婚約者のいる相手、しかも高位貴族のご令嬢様なのにだ。全く命知らずとしか思えない。
王太子殿下の方は、ちょっと目新しい生き物を構ってみよう程度の認識で相手にしていたという。それが彼女を付け上がらせるとは夢にも思わずにね。
だがその興味も即効で冷めた。
ギラギラした目で距離を近づけようとアレコレ画策してくるわ、しまいには殿下の婚約者にいじめられたなどと、訳の分からない事を訴えてくる始末で、さすがに殿下もウンザリされてきたようだ。とうとう親を通じて近づかないように言って欲しいと釘を刺された。
親も驚いたようでひたすら平伏し、申し訳ございません! 今後は絶対にそのような真似をしないよう言い聞かせます。それでもダメなら修道院へ送りますと言ったらしい。
――その矢先に、僕の訴えが伝わった。
見たところご両親はきちんとした人物だから不問にしたかったというのが殿下のお気持ちだ。
だが魅了は禁術だ。更に王族に使おうとまで企んだなら仕方がない。
罪を償うのは犯人である男爵令嬢だけで留まらない。土下座した家族も連座で処刑されることになる。
それを熟知している側近殿の、苦々しいというか、悲痛な表情に―――僕はちょっとした提案をした。
魅了の薬を与えましょう。
ただし彼女の期待通りにはなりませんが……と。
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