【完結】王都のカジノから

みけの

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 【カジノの貴賓室】・7

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 「はあ!?」
「いや……これは僕が婚約者になる前の話だから、確かか自信はないのだけどね」

 言ってしまった事を後悔しているのか、ジョーの様子は煮え切らない。
けどわたしが驚いたのはそこじゃない。
「ジョーとあの女の婚約って、結構小さい頃からだったよね?」
 10歳よりは前だったはず。

  そんな頃に……人を殺したって?

「それはリシェンヌ家のお茶会で起きた事だった。
当時、一緒にいた令嬢や令息の証言から、事故として処理された。
だけど、辺境伯は最後まで納得していなかった」

 それは、そこにいた令嬢令息の親がリシェンヌ家傘下の貴族だったこと。
 大人達と席を別にし、護衛が職務だとその場を離れた後に、起きた出来事であること。
 そしてリリーア嬢が、死ぬ前の日に言った言葉。

『リシェンヌ様は、この国の歴史についてやや暗いようですね』

 “暗い”は“分かっていない”と同じ意味だ。

 「でもそこで、公爵が辺境伯の証言に異議を唱えた」

 『なら我が娘が逆恨みをして、ご息女を死に至らしめたと? いたいけな我が娘のわずかな過ちを父親に言いつけるとは何とも底意地が悪い。事故死も天罰かも知れませんなぁ?』

 実際状況証拠だけで、リシェンヌ嬢がリリーア嬢の死に関わったという決定的な証拠はない。更に、

『しかし……よしんば我が娘によってそれが行われたと知れれば、あの場にいた子供達の未来も闇に閉ざされるだろう。……まだ事の善悪も分からない幼子の未来だぞ? 責任が持てるのか?』
 
「まあ、そんな感じに言い含められて、辺境伯も認めるしかなかったみたいだ」

 ジョーはそんな感じに、話を締めた。
けどわたしはもやもやした思いが出て行かない。

確かに公爵のいう通り、『証拠はない』し『子供の未来を閉ざすのは良くない』のかも知れない。

 でもリシェンヌ嬢を多少なりとも知るわたしは、
“あいつならやりそうだな”
と思う。…多少子供だからという事実を差し引いても、あれはそういう類だ。

 未来ある子供を守る。それ自体は正しい。子供は無知で弱いから守る必要がある。

 確かに一般的にはそうだけど……子供って結構、残酷だからね。
大人のやる事を純粋に信じて、それで良いのだと他者相手にも実行する。他者には他者の事情があるかも知れないと考える事もなく。

考える――って事を中途半端にしたままだと、未来の犯罪者を生む事になるんだけどそこんトコロがあまり分かっていないんだよね大人って。

 と思っていたところで、話終えたジョーに
「……変な事考えないでくれよ? 僕は今の生活に満足しているんだから」
顔を顰めて釘を刺された。

だからわたしはそれを聞いていない事にした。
昔のわたしなら―――男爵家で虐げられていたわたしなら――なりふり構わず、リシェンヌ嬢を陥れる為に動いただろう。けど、

「ありがとうルリエ。君がいてくれるから僕は今、幸せだ」

と浮かべる笑顔だけで、単純に満たされてしまう。

復讐心に蓋をする事など、難なく出来てしまうんだ。彼の笑顔がわたしの全てだから。



 うん、そん時は真剣に思っていたよ。

だから……お茶をだしたわたしの顔を辺境伯閣下が覚えていて。

 しかもそれは男爵繋がりじゃなくて、わたしの母さんを知っていたという意外な事実からだった。
それを確信された辺境伯様は、凄みのある視線をわたしに向けて言い放った。

『母親はお前にギャンブルを習得させていたそうだな?』

……もちろん最初はしらばっくれたよ? 
わたしは今、1人じゃない。ジョーと言う大切な相棒もいる。
わたしのやらかしにジョーを巻き込みたくないから、だから手っ取り早く稼げる博打は最終手段にしているんだ。でも

『お前もリシェンヌの小娘に、煮え湯を飲まされたのだろう? ならば力を貸して欲しい。残業手当は付けるぞ?』

復讐が残業扱いって……って思いつつも、話は受ける事になった。

 だって辺境伯サマの申し出を、平民が断れるわけないでしょ?
まぁ……乗ったのはわたしだけど。

まぁそこから、わたしが辺境伯夫人言う処の“金に不自由していない世間知らずの成金令嬢風スタイル”に身を包み、リシェンヌの旦那が出入りしているカジノに侵入できたのだ。

ジョー……怒るかなぁ……。

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