【完結】王都のカジノから

みけの

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【カジノの貴賓室】・6

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 「へ、辺境伯!?」
扉が開かれ、がっしりとした体格のいかつい顔つきをした大男が、美女と並んで入ってきた。
 良質な生地で作られた仕立ての良い服を身に着けている2人。
 アリソン辺境伯ご夫妻だ。

 彼らを前にリシェンヌは、赤かった顔色を今度は青くして身を震わせている。辺境伯はそんな彼女に侮蔑と憎しみのこもった視線を向けてから低い声で言った。

「立て」

 それは跪くわたしに向けた言葉だった。
立ち上がることで目線が近くなるとニヤリ、と凄みのある笑顔になる。

「大儀であった」

 アリソン辺境伯。
隣国の王女を妻に持つ、この国の第2の要と呼ばれる人物だ。ちなみに第1は死んだリシェンヌ前公爵。
 この両者の違いはリシェンヌ公は恐怖で周囲を支配していた事、アリソン辺境伯は人望おありである事だ。だからこそ王女が妻にする事も出来た。
 前公爵ではないリシェンヌ女公爵では、太刀打ちする前に裸足で逃げるしかない相手だ。

 そんなお方とわたしが関わったのは、まさに奇跡な偶然からだった。

  工場に出勤したわたしは、工場長から客に茶を出すように言われた。

「相手はお貴族サマだ。失礼が無いようにしろよ? まぁお前は所作が良いし、言葉遣いも丁寧だが」

 ジョーもわたしも、働きづめの毎日だ。ジョーは翻訳。次から次へ来る仕事に目を回している。わたしも昼間は食堂の皿洗い、夜は工場と生活を守るために忙しい。でも仕事が出来るだけ運が良いのだと、お互いに励まし合って日々を過ごしている。
 わたしはお茶を用意しながら、客がどなたかと訊いた。

「アリソン辺境伯閣下だ。うちの工場に出資して頂いている」

アリソン? ……最近聞いたな……
 

 たまたま空き時間が重なり、ジョーと2人でゆっくりしていた時に、
「ねぇジョー、リシェンヌ公爵令嬢に恨みを持っている人の中で、彼女と同じ位権力のある人っている?」
と、訊いてみた。
 ジョーは今の暮らしに満足だと言ってるけど、わたしはリシェンヌがジョーにしてきた事を怒っている。機会があれば報復してやろうと思っていたから。
そんなわたしの心中を感じ取れるのかジョーは少し顔をしかめたけど少し考えてから答えをくれた。

「いるよ、アリソン辺境伯閣下だ。……2人だけだから言うけど、閣下のお子様だったリリーア嬢。

……彼女はリシェンヌ嬢によって、溺死したんだ」
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