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【カジノの貴賓室】・3
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わたし達は次第に、愚かな王子と愚かな男爵令嬢として人々に定着していきました。
半平民のわたしだけでなく、殿下の評価も落ちていきます。
『この国を実質動かしていたリシェンヌ公の後継が、あのようなウツケでいいのだろうか?』
『王族としての教育はされている。なので仕事はそれなりに出来るようだが、現時点で男爵家の養女といちゃついているのだから大した器ではなさそう』
『所詮母親は下賤の者だ』
そんな毎日を繰り返し……あの日を迎えた。
卒業パーティが始まろうという時。
わたしと殿下が壇上に並んで立ちます。何事かをざわめく人々の中からリシェンヌ嬢――貴方ですねーーを見つけてから、殿下が大声で叫びました。
“リシェンヌ公爵令嬢! お前は男爵令嬢であるルリエを、格下の身分であることを理由に取り巻きまで巻き込んで嫌がらせをした! そのような者を王家に迎える事は出来ない! 故にお前との婚約を破棄し、国外追放を命じる!”
わたしの肩に添えられた、ジ、いえ殿下の手が小刻みに震えてました。
“逆らってはいけない相手”に主張するのは、とても勇気と力が要ります。わたしだって育ててくれている男爵である父に主張しろと言われて、出来る自信はありません。どこかで顔色を伺うでしょう。
でもそれをせず、計画通りに行う殿下がどれほどの力を振り絞ったのかなど、わたしなどでは分かりません。
殿下が今迄受けて来た仕打ちは所詮、誰かの言葉で伝えられただけのものです。
聞いて知っただけのわたしなどが“分かる”などと軽んじてはいけない。
そうそう、殿下に婚約破棄と言われたあの時の貴方の表情、今でも思い出しますよ。
突然の殿下からの言葉に、一瞬キッと睨みつけてから何か言おうとして、止めましたね。こんな推理をされたんじゃないですか?
“こいつは父と国王夫妻が留守なのを良い事に、王家の権力を使って自分を破滅させようと目論んでいる”って。
お? その顔は当たりですね!
まあそんな事をすれば御父君はご立腹。国王陛下達もお怒りになりでしょう。
破滅するのはわたし達だ、と。
持ち直した貴方はわたし達を真っ直ぐに見返し、平然と言い返してきましたね。
『恐れながらわたくしはそのような意味のない事はしておりません。わたくしの事は婚約者である殿下が最もお分かりでしょう』
あの場には他国からの留学生もいましたし、体裁を保つ必要があったのでしょう。予想は出来ていました。
『しらを切るな! ここにお前がした嫌がらせの証拠がある!』
と、的外れでツッコミし放題な証拠を殿下が列挙する。
その間、貴方がどんなお気持だったかは分かりませんが、わたしは内心冷や冷やでした。
どのタイミングも、ずれてしまえば駄目になる。
今は国から出ている国王夫妻に、わたし達の所業がどのタイミングで伝わるか。
もしくは同じく仕事で国を出ている公爵に、偶然で耳に入る可能性。
国王夫妻よりも怖いのは公爵。国内で長者ランキングトップを維持している富豪で、実質この国の要。
もしわたしと殿下程度の目論見が看破されたら? そう思うと体が震えてしまいます。
でも、わたしの方に回された大きな手も、同じように震えていたから。わたしも役目をこなすため、貴方をキッと睨みました。
でも幸いにも、危惧していた事は起こりませんでした。悪運が味方してくれたのでしょう。
婚約破棄を宣告した後。
タイミングよく国王ご夫妻が入場されました。ええ、タイミングよく。
国王陛下は、目の前にある状況を説明させるために、始めから見ていた臣下を呼び寄せました。そして……。
“この―――馬鹿者が!!”
半平民のわたしだけでなく、殿下の評価も落ちていきます。
『この国を実質動かしていたリシェンヌ公の後継が、あのようなウツケでいいのだろうか?』
『王族としての教育はされている。なので仕事はそれなりに出来るようだが、現時点で男爵家の養女といちゃついているのだから大した器ではなさそう』
『所詮母親は下賤の者だ』
そんな毎日を繰り返し……あの日を迎えた。
卒業パーティが始まろうという時。
わたしと殿下が壇上に並んで立ちます。何事かをざわめく人々の中からリシェンヌ嬢――貴方ですねーーを見つけてから、殿下が大声で叫びました。
“リシェンヌ公爵令嬢! お前は男爵令嬢であるルリエを、格下の身分であることを理由に取り巻きまで巻き込んで嫌がらせをした! そのような者を王家に迎える事は出来ない! 故にお前との婚約を破棄し、国外追放を命じる!”
わたしの肩に添えられた、ジ、いえ殿下の手が小刻みに震えてました。
“逆らってはいけない相手”に主張するのは、とても勇気と力が要ります。わたしだって育ててくれている男爵である父に主張しろと言われて、出来る自信はありません。どこかで顔色を伺うでしょう。
でもそれをせず、計画通りに行う殿下がどれほどの力を振り絞ったのかなど、わたしなどでは分かりません。
殿下が今迄受けて来た仕打ちは所詮、誰かの言葉で伝えられただけのものです。
聞いて知っただけのわたしなどが“分かる”などと軽んじてはいけない。
そうそう、殿下に婚約破棄と言われたあの時の貴方の表情、今でも思い出しますよ。
突然の殿下からの言葉に、一瞬キッと睨みつけてから何か言おうとして、止めましたね。こんな推理をされたんじゃないですか?
“こいつは父と国王夫妻が留守なのを良い事に、王家の権力を使って自分を破滅させようと目論んでいる”って。
お? その顔は当たりですね!
まあそんな事をすれば御父君はご立腹。国王陛下達もお怒りになりでしょう。
破滅するのはわたし達だ、と。
持ち直した貴方はわたし達を真っ直ぐに見返し、平然と言い返してきましたね。
『恐れながらわたくしはそのような意味のない事はしておりません。わたくしの事は婚約者である殿下が最もお分かりでしょう』
あの場には他国からの留学生もいましたし、体裁を保つ必要があったのでしょう。予想は出来ていました。
『しらを切るな! ここにお前がした嫌がらせの証拠がある!』
と、的外れでツッコミし放題な証拠を殿下が列挙する。
その間、貴方がどんなお気持だったかは分かりませんが、わたしは内心冷や冷やでした。
どのタイミングも、ずれてしまえば駄目になる。
今は国から出ている国王夫妻に、わたし達の所業がどのタイミングで伝わるか。
もしくは同じく仕事で国を出ている公爵に、偶然で耳に入る可能性。
国王夫妻よりも怖いのは公爵。国内で長者ランキングトップを維持している富豪で、実質この国の要。
もしわたしと殿下程度の目論見が看破されたら? そう思うと体が震えてしまいます。
でも、わたしの方に回された大きな手も、同じように震えていたから。わたしも役目をこなすため、貴方をキッと睨みました。
でも幸いにも、危惧していた事は起こりませんでした。悪運が味方してくれたのでしょう。
婚約破棄を宣告した後。
タイミングよく国王ご夫妻が入場されました。ええ、タイミングよく。
国王陛下は、目の前にある状況を説明させるために、始めから見ていた臣下を呼び寄せました。そして……。
“この―――馬鹿者が!!”
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