上 下
11 / 11
第一章 新たなる人生

第十一話 その後

しおりを挟む
 魔の森の散策を終えて一週間が過ぎ、様々な問題が起きた。
 まず、村に着くとアレンの顔は逆上せたかのように真っ赤で息遣いが荒くひどくうなされており、身体的疲労かそれとも精神的疲労のせいか高熱があることがわかった。
 すぐにアレンを自室で寝かし、エレンがこの一週間付きっ切りで看病をした。
 広場にある井戸で水を汲み上げ、アレンの汗を拭いたり服を着替えさせたりなどと一日の大半をアレンの為に使っていた。
 エレンの夫、アイクが休むことなくアレンを看病するエレンの姿を見て今度はエレンが倒れるのでは心配していたが、エレンは「大丈夫大丈夫」と微笑み返し休むことはなかった。
 現在のアレンの容態は安定しているが、まだ目を覚ましてはいない。
 ちなみにこの一週間の間にミーナとカイルの取り巻き二人がアレンのお見舞いに来た。
 お見舞い品として村外れに咲いている花を握りしめていた。知ってか知らでか花色はピンクが多かった。
 この村ではピンクの花は旅立つ者へ贈ったり何か新しいことに挑戦する者へ〝明るい未来〃になるようにという意味を込めて贈ることが昔から風習となっている。
 また最近では、あなたには〝明るい未来〃が待ってるという意味で挫折した者や怪我人、病人のお見舞い品として贈られることもある。そのため、ミーナたちがお見舞い品としてピンクの花を持ってきたのは間違いではないと言えるだろう。
 ここにカイルがいないのは取り巻き二人にアレンのお見舞いに行こうと声をかけられた時に、「何で俺があいつの見舞いなんか行く必要あるんだ」と断ったからである。



 アレンが自室に運ばれた後、カイルたちは村長の家で魔の森の奥に行った理由を訊かれていた。カイルは奥に行った理由を隠すことなく正直に話した。
 アレンに三歳になった仲間入りの記念としてゴブリンを見せてやると言ったこと、しかし本当はゴブリンにアレンを襲わせるつもりであったこと、実際にゴブリンを見ると気味が悪く皆で逃げ出したこと、その際アレンが一人残ったことを説明した。
 カイルの話を訊き終えた村長は「なんとバカなことを」と少し呆れるとカイルにアレンをゴブリンに襲わせようとしたのは何故か問うたが、カイルはその事に関しては一切口を割らなかった。
 ミーナに関しては奥に行くのを反対したがカイルに強引に連れて行かれたため、軽い注意で済んだ。しかし取り巻きはカイルを止めようとせず、カイルに加担したためカイルと共にお説教を受けることとなった。
 このお説教は日が暮れるまで続いた。お説教は「これに懲りたら二度と奥には行くんじゃないぞ」と村長がカイルたちの頭をクシャクシャと撫でて終え、カイルたちは解放された。
 説教を終えた村長は魔物の恐ろしさを十分に伝えきれていなかったことを反省し、このような事態が今後起きぬよう今後の親睦会で魔物とはどういったモノで何故脅威とされるのかを今一度子どもたちに教える必要があると感じていた。



 今回の親睦会でアレンたちが村長に止められていたのにも関わらず魔の森の奥に行ってしまったため、村の大人たちが集まって行われた会議で魔の森の散策が暫く中止となった。
 また、森の奥にいる魔物が村の方に来ることが今までなかったため作られていなかったが、子どもたちにどこからが危険なのかがわかるように柵を作ってはどうかという案も出た。しかし、子どもたちを魔の森に行かせないことと、労力が足りないことから実行には至らなかった。魔物が来ないとわかっている安全な場所を端から端まで歩くだけでも日が暮れてしまうほどの距離がある。その広大な森に柵を作るとなるとかなりの日数がかかってしまうからである。この村は貧しくはないが豊かという訳でもない。そのため、何日も森に柵を作っていると村の生産力が低下してしまうというのも一つの要因である。



「それにしてもあのゴブリン少し小さかったのお。面倒なことにならんといいが」

 村長が自室でお茶を啜りながらこの間の魔の森の散策を思い返している。
 神妙な面持ちをしており眉間に皺がよっている。思い詰めたような顔もこうも眉間に皺をよせていては傍から見ると怒っているようにしか見えない。非常に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 そんな村長の耳に、村長の家の扉をノックする音が響いた。

「誰じゃ、こんな時間に」

 日は暮れており辺りは真っ暗である。こんな時間に他人の家に、それも村長の家を訪ねるほどだ。何か火急の用があるのだろう。

「夜分遅くに申し訳ありません。村長が睨んでいた通り少々面倒なことになりそうです。実は──」

 扉を開けて顔を見せたのは、がたいのいい男であった。
 年の頃は三十代半ば。身長は平均よりやや高い。甲冑の代わりに筋肉の鎧を着ているかのような体格。格闘家と言われれば誰もが一も二もなく信じるであろう。腰には短剣、背中には矢筒を装備している。手には弓が握られていた。

「……そうか。ご苦労じゃったな、ライオス」

 この一週間村長はライオスにゴブリンの集落を調べさせていた。その報告を聞いた村長はまた一人自室で頭を抱えているのであった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

処理中です...