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エリザベス〜師団長シグルド視点

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コーネル公爵家の令嬢エリザベスに癒しの力が覚醒したと聞いて嫌な予感しかしなかった。

エリザベスは友人のレオンハルトの妹で俺達より8歳下のこともあって、甘やかされて育っていた。ほしいものは何でも手に入り、我慢を知らない。
俺は年の離れた友人の妹を苦手に思っていた。それは彼女をちやほやする男達の中で異端であった。

エリザベスはいつの頃からか手に入らない俺に執着するようになった。俺が少し話しただけの女性を権力を使って排除する。幼くても立派な女だった。

そういうのが嫌で嫌で仕方なく、あの宣誓はエリザベスを遠ざけるのに都合が良かった。

エリザベスの覚醒の話しを聞いてから数日後に王宮から呼び出しを受けた。
謁見室には王の他に軍務大臣、宰相、コーネル公爵、騎士総長がいた。

王から衝撃的なことを告げられる。
「ドラゴンの目覚めが近いと報告を受けている。このタイミングでエリザベスが莫大な癒しの力を覚醒させたのも意味があると思う。
貴公も知っておろう、ヒーラーの力は精神に左右される。エリザベスに力を発揮させるには、エリザベスにやる気を出させなくてはならない。
父親のコーネル公爵に聞いたところ、第7師団長 シグルド-リンバーグの為ならばやるだろうとのことだ。
これはすでに裏どりしている。否定しても無駄だ。
シグルドよ、エリザベスがやる気になるよう、甘い言葉を囁き、懐柔してみせよ。
騎士や魔法師の命の為である。よいな」

「‥絶対に無理です。他の方法を検討してください」

「これは命令だ。背くなら貴公が想いを寄せているユーリという女性騎士をどうにかせねばなるまいな」

騎士総長の顔が強張っている。何も知らなかったらしい。

王家が放った全力の刺客は俺と騎士総長だけでは防ぎきれない。それこそユーリを部屋に閉じこめないと安全な時間は一瞬たりともないだろう。

断腸の思いで「御意に」と返答した。

それからはエリザベスを第7師団に受け入れる為の打ち合わせの連続だった。ユーリから会いたいと連絡が入るが、忙しいのと王家の刺客のことを考えると連絡を取らない方が良いと判断した。

エリザベスが第7師団に入ってトラブルが倍増した。遠征時でも温かいレストラン並みの食事を要求する。移動は輿での移動か騎士のお姫様抱っこを要求する。常識がなくて、トラブルを起こすたびに何度も呼び出され、キレそうになるが、窘めると癇癪を起こすので、面倒でキスをしてそんな事言うなと言えば大人しくなるのでそうしていた。当たり前だが心なんて入ってなくて只の作業だ。こんな事しているなんてユーリには知られたくなくて、騎士達には厳しく緘口令をしいていた。

心がどんどん汚くなっていく。もう身動きが取れなくなっていた。

俺がエリザベスの問題やエリザベスの対応で師団長の職務ができないので、遠征時の前線への指示、報告関係、作戦立案全ての師団長業務がセシルの負担となった。また、エリザベスに触発されてヒーラーのアンナがセシルに絡むらしく、業務もあって躱せないことが多いらしい。セシルもララと会ったりできないと言っていた。

そんな毎日を過ごしていたが、コカトリスが西の森に出た。討伐遠征にエリザベスが同行すると言いだした。今まで王都近郊の遠征で俺とセシルを含む見目の良い騎士20人程度の日帰り遠征しか行かなかったのに、何か企んでいるのではないかと思ったが、連れて行くしかない。いつものようにわがままを言ってキスで口封じをするしかなくなってもユーリは前線でエリザベスは後方なので見られることもないだろうと思った。

遠征は何ごともなく終わった。

その後の祝勝会の時、エリザベスからローズの間に誘われた。一度断ったが、この場で話したら貴方の為にならないと言われ仕方なく付き添った。

ローズの間では、ユーリのことをやけに聞いてきた。エリザベスがユーリのことを気に入らないと言ったら王家の刺客がユーリを害する可能性があると思い、なんでもない風に装った。

ユーリと私どっちが好き?

ユーリだよと心の中では即答したが、実際はエリザベスと言わないといけない。でも絶対に言いたくなくて、いつものようにキスして「もう何も言うな」と言った。
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