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別離
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「本気ですか?」
「本気です」
結城和也は明るい茶髪を見やり、履歴書に目を通した。
綾から聞いていた真崎晃聖が、男性コンパニオンの面接を受けたいと申し込んできたとき、彼は自分が面接を担当しようと決めていた。
職歴には大学を卒業して以来、ホストクラブの名前が並んでいる。彼自身その仕事が持つ独特の雰囲気をまとっているし、容姿も物腰もホストとして食べていける力を十分持っていた。
それなのに真崎はここに来た。
和也は、彼がこの仕事に興味を引かれてやって来たのではないとふんでいる。
「なぜ、うちを選んだのですか?」
和也は、彼の目に一瞬よぎった狼狽を見逃さなかった。
「それは……興味があったからです」
和也は怪しむように彼を見ただけで、質問を変えた。
「ここであなたが受け取る給料は、今までいらした職場より格段に下がると思いますよ。気づいていましたか?」
「わかっています」
「コンパニオンはホストとは違います。マナーもずっと厳しくなる。髪の色にも制限があるし、特にお客さまとの恋愛は禁止しています。例えお客さまの方から誘われても、気分を害さないようにうまく断らなければなりません。守れますか?」
「必ず守ります」
「それと、もうひとつ。ここへ来たら、あなたの立場は新入社員になります。新米の社員として、やっていけますか?」
「覚悟しています」晃聖がきっぱり言いきった。
「わかりました。そこまで覚悟ができているなら、言うことはありません。いつから来れますか?」
「いつでも準備はできています」
「では、来週からお願いしましょう」
面接を終え、出ていこうとする晃聖を、和也は引き留めた。
「ここで働きたい本当の理由は、望月さんじゃないですか?」
晃聖から堅苦しい緊張が去り、控えめながら感情の昂ぶりが感じられた。
「そうだとしても、仕事で手を抜くつもりはありません」
「どうだった?」
和也が自室に戻ると、妻が待ちかまえていた。
「やっぱり彼は、望月さんを捜すために来たようだね。俺らが彼女の行方を知っていると、感づいているようだ」
和也は大きなデスクの端に尻を載せ、ため息をついた。
「それで?」急きこんで綾が尋ねてくる。
「雇うことにしたよ」
「どうして?」責めるように声が高くなった。
妻をなだめようと、自分の脚の間に引き寄せ腰を抱いた。
「彼に同情したから」
綾が不満いっぱいで、夫を見あげてくる。
「彼は必死なんだよ。同じ経験をした俺には、彼の気持ちがよくわかる。きみが消えたときのことは今でも忘れられないよ」彼女の首筋に鼻をすり寄せ、抱きしめた。
綾が慰めるように、彼の頭を撫でる。
「まさか、居所を教えなかったでしょうね?」
「いや。彼はまず、今の相手との問題に片をつけないとね。それからだよ」
妻は安堵の吐息をつき、夫の胸に頭を預けた。
「本気です」
結城和也は明るい茶髪を見やり、履歴書に目を通した。
綾から聞いていた真崎晃聖が、男性コンパニオンの面接を受けたいと申し込んできたとき、彼は自分が面接を担当しようと決めていた。
職歴には大学を卒業して以来、ホストクラブの名前が並んでいる。彼自身その仕事が持つ独特の雰囲気をまとっているし、容姿も物腰もホストとして食べていける力を十分持っていた。
それなのに真崎はここに来た。
和也は、彼がこの仕事に興味を引かれてやって来たのではないとふんでいる。
「なぜ、うちを選んだのですか?」
和也は、彼の目に一瞬よぎった狼狽を見逃さなかった。
「それは……興味があったからです」
和也は怪しむように彼を見ただけで、質問を変えた。
「ここであなたが受け取る給料は、今までいらした職場より格段に下がると思いますよ。気づいていましたか?」
「わかっています」
「コンパニオンはホストとは違います。マナーもずっと厳しくなる。髪の色にも制限があるし、特にお客さまとの恋愛は禁止しています。例えお客さまの方から誘われても、気分を害さないようにうまく断らなければなりません。守れますか?」
「必ず守ります」
「それと、もうひとつ。ここへ来たら、あなたの立場は新入社員になります。新米の社員として、やっていけますか?」
「覚悟しています」晃聖がきっぱり言いきった。
「わかりました。そこまで覚悟ができているなら、言うことはありません。いつから来れますか?」
「いつでも準備はできています」
「では、来週からお願いしましょう」
面接を終え、出ていこうとする晃聖を、和也は引き留めた。
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晃聖から堅苦しい緊張が去り、控えめながら感情の昂ぶりが感じられた。
「そうだとしても、仕事で手を抜くつもりはありません」
「どうだった?」
和也が自室に戻ると、妻が待ちかまえていた。
「やっぱり彼は、望月さんを捜すために来たようだね。俺らが彼女の行方を知っていると、感づいているようだ」
和也は大きなデスクの端に尻を載せ、ため息をついた。
「それで?」急きこんで綾が尋ねてくる。
「雇うことにしたよ」
「どうして?」責めるように声が高くなった。
妻をなだめようと、自分の脚の間に引き寄せ腰を抱いた。
「彼に同情したから」
綾が不満いっぱいで、夫を見あげてくる。
「彼は必死なんだよ。同じ経験をした俺には、彼の気持ちがよくわかる。きみが消えたときのことは今でも忘れられないよ」彼女の首筋に鼻をすり寄せ、抱きしめた。
綾が慰めるように、彼の頭を撫でる。
「まさか、居所を教えなかったでしょうね?」
「いや。彼はまず、今の相手との問題に片をつけないとね。それからだよ」
妻は安堵の吐息をつき、夫の胸に頭を預けた。
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