淑女は淫らに抱かれたい

向水白音

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2.務めは突然おわりを告げる

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 魔物との戦いが終わる日が来るとは思わなかった。
 けど、驚くくらいにあっけなく訪れてしまった。

「かねてより技術隊が開発していた魔物誘導装置がとうとう完成したらしくてな。おかげで討伐軍はお払い箱になりそうだ」

 結婚以来、初めて共に取る朝食でクリス様は笑っていた。
 彼が帰って来る日は討伐帰り、つまり私は朝食の時間にも起きられないくらいに抱きつぶされていた。
 けど、ついに彼が獣とならない夜が来てしまった。
 そして明かされる国を変える事態。

「では魔物討伐軍はなくなってしまうのですか?」
「いや、いくら誘導装置があるとはいえ、魔物自体が減るわけではない。人の住む場所への被害を減らすために討伐する必要はある。けど、それもだいぶ楽になるだろうな」
「左様でございますか……」

 討伐任務は過酷だ。
 クリス様はとてもお強いからまだしも、本来ならいつ死んでもおかしくない。
 だから、彼らの負担が減ることは喜ばしいし、妻として喜ばねばならない。

「君の負担もかなり減るだろうな……昨晩のように」
「ええ……で、ですが跡継ぎも必要ではございませんこと?」
「もちろん。だからこれからは紳士の務めを果たせそうだ。今まで本当にありがとう、レティ」
「妻として当然ですわ……」

 彼が帰って来た昨晩、初めて夜伽をしなかった。
 これからは討伐任務が減る分、家にいる夜も増えるらしい。
 だから、夜伽の回数や方法も教本通り、紳士淑女のマナーに従ったものにすると言われてしまった。

 そして宣言通り、彼の夜伽は獣のものなんかじゃなくなった。
 最高級のローションで私の陰部を濡らし、ゆっくりと挿入し、数回のピストンで果てる。
 そして互いの身を清めた後は彼の私室に戻ってしまう。
 これまで獣のセックスを受け入れて来たのは妻の務めだったから、淑女としてはこちらの方が喜ばしい夜伽のはずだ。
 でも。

「私は魔物の討伐なんかしていないのにこの身が昂るばかり……どうして……」

 彼が去った寝室で一人、眠れない夜が増えた。
 疼く身体を持て余し、獣のように貪られた夜を忘れられないからだ。
 あまりに淑女らしからぬ己に涙が止まらない。

「ネグリジェを破くどころか、脱がしてすらしてくれないなんて……」

 1枚の薄い布でできたネグリジェは皴一つない。
 これを作ったのは1カ月前、魔物討伐軍の仕事が減ってから3カ月が経った頃だった。
 クリス様は紳士らしい夜伽をするようになり、彼は教本通りにネグリジェを脱がさなくなった。
 多いときは12層あった布をどんどん減らし、1枚になっても獣になる気配もない。
 それどころか。

「レティ、その寝間着は淑女としていかがであろうか」

 なんて忠言までされてしまった。
 彼が獣になっていたのは討伐の昂りがあったから。
 私はそんな彼を癒すのが務め。
 そう思っていたのに、私の身体は満たされない。
 ひどい人。
 私を獣にしておいて今さら淑女に戻れだなんて。

「レティ、顔色が良くない。しばらく夜伽は休もう。君の身体を大切にしたい」

 寝不足の私を見て、とうとう夜伽まで無くしてしまった。
 本当に私の身体を想うなら、今すぐ私を裸にして。
 そう叫びそうになった時、もう我慢できない自分に気づいた。

「クリス様、私の部屋でお酒を頂きませんか?」
「だが、君はゆっくり休んだ方がいい」
「いいえ。お願いします……お話したいこともございます」
「……そうだな。朝食の場ではできない話もある。湯を浴びた後に君の部屋を訪ねよう。気が変わったらメイドに言ってくれ」
「ええ、心よりお待ちしております」

 約束を取り付け、私は大急ぎで湯に入った。
 メイドの用意したネグリジェはさっさと脱ぎ、ワインは用意すらしていない。
 そして、ノックと共にクリス様が入り、息を飲んだ。

「レティ! 何をしているんだ君は! す、すぐ部屋を出る! あとメイドも呼んで来よう!」
「待って! クリス様、お願いです。私のお話を聞いてください! どうか……どうか……」

 私はベッドの上で裸のまま涙を流した。
 途端に、部屋から出かかっていたクリス様が飛んできて、私の涙をぬぐってくれた。

「すまない、泣かせるつもりはなかったんだ。君の悩みを教えてくれ」
「抱いてくださいませ。かつてのように……獣のように」

 しゃくりあげながら懇願した。
 もう限界だった。
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