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1.厄介な任務が舞い込んだ
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私たちの国は王を頂点とし、議会・騎士団・魔術師隊の3機関が支えるシステムで成り立っている。
そして私は魔術師隊第八室開発部門に勤めている。
魔術師隊は名前の通り魔術を扱う専門機関で、議会のような貴族の身分も騎士団のような強靭な肉体も必要としない。
求められるのはただ一つ、優れた魔術の才能だ。
「入れ」
「エニー・イルド、入室いたします」
魔術の才能は人によって大きく異なる。
例えば、私が入室した部屋の主であるリーディン第八室長は強化呪文に長けている。
彼は私が生まれた年より前から魔術師隊に勤めていて、今は曲者ぞろいの第八室をまとめあげる人格者でもある。
彼の手にかかれば魔力や筋力を一時的にアップすることができ、これまでの戦争では多くの魔術師や騎士たちがその恩恵に与って来た。
「エニー・イルド開発部門長殿に指名任務だ」
「その呼び方をするってことは面倒な任務なんですね。今度はどんなひどい魔法を作れって言うんですか?」
「おいおい。人聞きの悪いことは言うな。お前にしかできない仕事だから指名されてるんだから。なんと言ったって開発部門はイルドだけだからね」
「きちんと部下を育てられない部門長ですみませんね。それで、任務内容は?」
リーディン室長は自前の長い金髪をふぁさ……と揺らした。
ちなみに豊かになった金髪は私が開発した頭髪増強呪文のおかげだ。
この呪文でなぜか私の知名度が上がり、開発部門長なんて意味のない肩書が増えた。
「髪の女神」なんて馬鹿げたあだ名で呼ぶ連中もいるが、当の私は首までの短い赤毛でのっぽの冴えない女だ。
貴族たちにとって髪の毛はステータスの一つだ。
特に貴族女性たちは肩以上のロングヘアで男性の身体に収まるぐらいの身長が良いとされているため、私は真逆だ。
でも、庶民出身の私には関係ない。
たまに「頭髪増強呪文を自分に使ったらどうだ」なんて嫌味を言われるけれど、聞くだけ無駄なこと。
ともかく、女性ほどではないにしろ、髪に命を懸けるリーディン室長は自慢の金髪を取り戻してからしきりに揺らすのが癖だ。
「自白魔法の開発だ。依頼元は騎士団諜報部」
「自白魔法はすでに存在します。筋肉バカたちに魔術の講義をして来ればいいですか?」
「現存する自白魔法よりも強力な魔法……絶対に解けない自白魔法を開発してくれとのことだ」
「筋肉バカが言いそうなことですね。絶対に死なない肉体を作り上げてから頼めって伝えてください」
帰ろうとしたら、リーディン室長が慌てて立ち上がった。
「待った待った! この任務、騎士団以外にも絡んでる」
「議会ですか?」
「いや、その上だ」
「王が……なぜ?」
王が一人の魔術師を指名して任務を与えるなんて滅多にないことだ。
室長クラスであればありえる話だが、私はそこまで偉くない。
私は部下が一人もいない開発部門長、つまりは他の新人魔術師たちとそう立場は変わらないのだから。
王が絡むからか、リーディン室長は金髪をふぁさ……とする余裕もなく真剣な顔で言った。
「王が主導する事案で必要な魔法らしい。そこまで言えば分かるな?」
「……また戦争が?」
「それを回避するためにお前の開発を望んでいるということだ」
責任重大すぎる。
顔をしかめたら、リーディン室長は安心させるように笑った。
「何もお前ひとりの肩に戦争回避がかかっているってわけでもないさ。お前は計画の枝の一つ。王としては現在の自白魔法よりも強力なものが欲しい、という考えだ。絶対に解けないものをと言い出したのは騎士団だけだからな」
「やっぱり筋肉バカたちが任務の難易度を上げたんですね。分かりました。強力な自白魔法の開発に取り組みます。期日は?」
「3カ月後。頼むぞ」
こうして開発部門での任務、つまり孤独の任務が始まった。
そして私は魔術師隊第八室開発部門に勤めている。
魔術師隊は名前の通り魔術を扱う専門機関で、議会のような貴族の身分も騎士団のような強靭な肉体も必要としない。
求められるのはただ一つ、優れた魔術の才能だ。
「入れ」
「エニー・イルド、入室いたします」
魔術の才能は人によって大きく異なる。
例えば、私が入室した部屋の主であるリーディン第八室長は強化呪文に長けている。
彼は私が生まれた年より前から魔術師隊に勤めていて、今は曲者ぞろいの第八室をまとめあげる人格者でもある。
彼の手にかかれば魔力や筋力を一時的にアップすることができ、これまでの戦争では多くの魔術師や騎士たちがその恩恵に与って来た。
「エニー・イルド開発部門長殿に指名任務だ」
「その呼び方をするってことは面倒な任務なんですね。今度はどんなひどい魔法を作れって言うんですか?」
「おいおい。人聞きの悪いことは言うな。お前にしかできない仕事だから指名されてるんだから。なんと言ったって開発部門はイルドだけだからね」
「きちんと部下を育てられない部門長ですみませんね。それで、任務内容は?」
リーディン室長は自前の長い金髪をふぁさ……と揺らした。
ちなみに豊かになった金髪は私が開発した頭髪増強呪文のおかげだ。
この呪文でなぜか私の知名度が上がり、開発部門長なんて意味のない肩書が増えた。
「髪の女神」なんて馬鹿げたあだ名で呼ぶ連中もいるが、当の私は首までの短い赤毛でのっぽの冴えない女だ。
貴族たちにとって髪の毛はステータスの一つだ。
特に貴族女性たちは肩以上のロングヘアで男性の身体に収まるぐらいの身長が良いとされているため、私は真逆だ。
でも、庶民出身の私には関係ない。
たまに「頭髪増強呪文を自分に使ったらどうだ」なんて嫌味を言われるけれど、聞くだけ無駄なこと。
ともかく、女性ほどではないにしろ、髪に命を懸けるリーディン室長は自慢の金髪を取り戻してからしきりに揺らすのが癖だ。
「自白魔法の開発だ。依頼元は騎士団諜報部」
「自白魔法はすでに存在します。筋肉バカたちに魔術の講義をして来ればいいですか?」
「現存する自白魔法よりも強力な魔法……絶対に解けない自白魔法を開発してくれとのことだ」
「筋肉バカが言いそうなことですね。絶対に死なない肉体を作り上げてから頼めって伝えてください」
帰ろうとしたら、リーディン室長が慌てて立ち上がった。
「待った待った! この任務、騎士団以外にも絡んでる」
「議会ですか?」
「いや、その上だ」
「王が……なぜ?」
王が一人の魔術師を指名して任務を与えるなんて滅多にないことだ。
室長クラスであればありえる話だが、私はそこまで偉くない。
私は部下が一人もいない開発部門長、つまりは他の新人魔術師たちとそう立場は変わらないのだから。
王が絡むからか、リーディン室長は金髪をふぁさ……とする余裕もなく真剣な顔で言った。
「王が主導する事案で必要な魔法らしい。そこまで言えば分かるな?」
「……また戦争が?」
「それを回避するためにお前の開発を望んでいるということだ」
責任重大すぎる。
顔をしかめたら、リーディン室長は安心させるように笑った。
「何もお前ひとりの肩に戦争回避がかかっているってわけでもないさ。お前は計画の枝の一つ。王としては現在の自白魔法よりも強力なものが欲しい、という考えだ。絶対に解けないものをと言い出したのは騎士団だけだからな」
「やっぱり筋肉バカたちが任務の難易度を上げたんですね。分かりました。強力な自白魔法の開発に取り組みます。期日は?」
「3カ月後。頼むぞ」
こうして開発部門での任務、つまり孤独の任務が始まった。
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