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言葉で唱えないと使えない。魔法を。
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静寂に本が落下する大きな衝撃音が鳴り響いた。
読みかけの本を閉じ、音の正体を探すと、叫びを堪えてうずくまる少女がいる。
彼女が身に纏う深緑のローブから察するに、第七王都に所属する薬草学研究者だ。
急いで近くに駆け寄ると、周囲に色とりどりの形状の本が散らばり、その中央で足を手でおさえ小刻みに震えていた。自分の手を彼女の足の上にをかざし、状態を確認すると本が直撃したのだろう、足の指が骨折している。
「レイツェル大丈夫か!?」
赤色のウェーブのかかった長い髪を揺らしながら、全速力でこちらに向かってくる人物がいる。
制服から見るに第七図書館の司書だ。副館長クラスだろう。
通常、書籍は魔法で浮かせて運ぶことが多いが、散らばっている本の魔力痕跡を見る限り、彼女は本を持って歩いていたらしい。
薬学研究者はその動機から、魔力量社会のこの国では珍しく民の出自が多かった。
「直ぐに回復魔法をかける。痛みが引いて約1時間後には修復するからな。安心しろ。」
司書は片手を上げると、魔法陣を形成して回復魔法を始動させた。
『言霊指令』をしなくても、魔法が掛けられる。
間違いなく上級者だ。
骨を修復できるほどの魔力と洗練された技術。
俺は自分の無力さに拳を握る。
もし回復魔法を使えたら、彼女から痛みを少しでも早く消し去ることができただろう。
もし仲間が怪我を負ったら、その時に俺はどこまでの対処ができる?
本を落とした少女は自分の足元で瞬く翠色の光を物珍しそうに見ていた。
どんな状況であっても最善を尽くし自分にできることを。
Lや仲間と約束したはずだ。
「手伝います。」
司書は手をそのままにこちらを振り返る。
「君は・・よくこの図書館に来ている騎士だな。助かる。所属は?」
「『White』。3倍魔法を使えます。」
「なるほど。3倍とは珍しい。流石連携魔法が十八番の『White』だな。頼む。」
呼吸を整え、手先に魔力を入れた。
目を閉じ、視界からの情報を遮断する。感覚に集中し、指示と微力調整を行う。
「ヒール強化。回復魔法陣を3倍に。対象は私の手の平の下方。」
言霊の力を使い、感覚を頼りに魔法陣へ書き加える。成功だ。
目を開けると、本を落とした少女はこちらを見るなり息を呑んで目を丸くし驚いている。しかしそれは自分も同じだった。
見たことがある。知っているような「気」もする。他人とは思えない。
しかし、どこで?
__
第七王都図書館の客室スペース。
足の回復後、落ち着くまで、とアイリスが案内してくれた。
何故か私の論文が彼の手元にあると気付いた時、謎が深まり、手の力が抜けて落とした本は、見事に私の足を直撃。
筆舌に尽くせないほど、すごく痛かった。あのような痛みもう経験したくない。
「おまたせ。レイツェル落ち着いた?」
作業を終え、ひと段落したアイリスが、沈黙を破るようにコーヒーを入れたマグカップを手に戻ってきた。
「うん。騎士の方も協力して下さってありがとうございます。」
「こちらそ。お役に立ててよかった。」
向かいのソファーに座っていた少年が立ち上がり敬礼をする。
「自己紹介が遅れました。私は王立騎士団WHITE所属イニシャルKと申します。王都内で名前を名乗ることは、緊急時を除き基本許されていないため『K』と呼んでください。今は第七王都警備の一端を担っています。」
イニシャル?
アイリスの方を向くと、彼女は知っているらしく物珍しそうに「K」と名乗る人物を見た。
「へえ。イニシャル呼びって本当に存在するのね。私はレッド公爵家の次女で、第七王都図書館副館長のアイリス・レッド。よろしく『K』。公爵家の人間と言っても私は堅苦しいのは嫌いだからなしにしてほしい。君には名乗ったが、館長を含めここの職員は、私の出自を知らないんだ」
アイリスは、Kと名乗る人物に手を差し出した。
「よろしく、アイリス。」
アイリスはKと握手を交わすと、ふと思い出したかのように私の方へ振り返る。
「ところで、王室の財政管理職の一人から今年も薬学研究所は全体的に予算を削減すると聞いたけど。食事抜いて薬草買おうとしてないか??しっかり食べてる?」
「食べていますよ。薬草入りのごはん」
「中々に怪しいな。」
研究所の財政が厳しい今、食事を軽食で済ませているのは事実だった。
大量の薬草と消耗品である道具を購入することはもちろん、歴史を紡いで多くの研究者が携わり続いている研究だ。
魔法学が進歩して必要がなくなる未来が仮に来るとしても。先生と同じ道を辿ることになろうとも。
ここで中途半端に研究を止めたくない。
「こちらが第七王都所属薬草研究室のレイツェル。魔法では対処できない毒の研究をしている。」
読みかけの本を閉じ、音の正体を探すと、叫びを堪えてうずくまる少女がいる。
彼女が身に纏う深緑のローブから察するに、第七王都に所属する薬草学研究者だ。
急いで近くに駆け寄ると、周囲に色とりどりの形状の本が散らばり、その中央で足を手でおさえ小刻みに震えていた。自分の手を彼女の足の上にをかざし、状態を確認すると本が直撃したのだろう、足の指が骨折している。
「レイツェル大丈夫か!?」
赤色のウェーブのかかった長い髪を揺らしながら、全速力でこちらに向かってくる人物がいる。
制服から見るに第七図書館の司書だ。副館長クラスだろう。
通常、書籍は魔法で浮かせて運ぶことが多いが、散らばっている本の魔力痕跡を見る限り、彼女は本を持って歩いていたらしい。
薬学研究者はその動機から、魔力量社会のこの国では珍しく民の出自が多かった。
「直ぐに回復魔法をかける。痛みが引いて約1時間後には修復するからな。安心しろ。」
司書は片手を上げると、魔法陣を形成して回復魔法を始動させた。
『言霊指令』をしなくても、魔法が掛けられる。
間違いなく上級者だ。
骨を修復できるほどの魔力と洗練された技術。
俺は自分の無力さに拳を握る。
もし回復魔法を使えたら、彼女から痛みを少しでも早く消し去ることができただろう。
もし仲間が怪我を負ったら、その時に俺はどこまでの対処ができる?
本を落とした少女は自分の足元で瞬く翠色の光を物珍しそうに見ていた。
どんな状況であっても最善を尽くし自分にできることを。
Lや仲間と約束したはずだ。
「手伝います。」
司書は手をそのままにこちらを振り返る。
「君は・・よくこの図書館に来ている騎士だな。助かる。所属は?」
「『White』。3倍魔法を使えます。」
「なるほど。3倍とは珍しい。流石連携魔法が十八番の『White』だな。頼む。」
呼吸を整え、手先に魔力を入れた。
目を閉じ、視界からの情報を遮断する。感覚に集中し、指示と微力調整を行う。
「ヒール強化。回復魔法陣を3倍に。対象は私の手の平の下方。」
言霊の力を使い、感覚を頼りに魔法陣へ書き加える。成功だ。
目を開けると、本を落とした少女はこちらを見るなり息を呑んで目を丸くし驚いている。しかしそれは自分も同じだった。
見たことがある。知っているような「気」もする。他人とは思えない。
しかし、どこで?
__
第七王都図書館の客室スペース。
足の回復後、落ち着くまで、とアイリスが案内してくれた。
何故か私の論文が彼の手元にあると気付いた時、謎が深まり、手の力が抜けて落とした本は、見事に私の足を直撃。
筆舌に尽くせないほど、すごく痛かった。あのような痛みもう経験したくない。
「おまたせ。レイツェル落ち着いた?」
作業を終え、ひと段落したアイリスが、沈黙を破るようにコーヒーを入れたマグカップを手に戻ってきた。
「うん。騎士の方も協力して下さってありがとうございます。」
「こちらそ。お役に立ててよかった。」
向かいのソファーに座っていた少年が立ち上がり敬礼をする。
「自己紹介が遅れました。私は王立騎士団WHITE所属イニシャルKと申します。王都内で名前を名乗ることは、緊急時を除き基本許されていないため『K』と呼んでください。今は第七王都警備の一端を担っています。」
イニシャル?
アイリスの方を向くと、彼女は知っているらしく物珍しそうに「K」と名乗る人物を見た。
「へえ。イニシャル呼びって本当に存在するのね。私はレッド公爵家の次女で、第七王都図書館副館長のアイリス・レッド。よろしく『K』。公爵家の人間と言っても私は堅苦しいのは嫌いだからなしにしてほしい。君には名乗ったが、館長を含めここの職員は、私の出自を知らないんだ」
アイリスは、Kと名乗る人物に手を差し出した。
「よろしく、アイリス。」
アイリスはKと握手を交わすと、ふと思い出したかのように私の方へ振り返る。
「ところで、王室の財政管理職の一人から今年も薬学研究所は全体的に予算を削減すると聞いたけど。食事抜いて薬草買おうとしてないか??しっかり食べてる?」
「食べていますよ。薬草入りのごはん」
「中々に怪しいな。」
研究所の財政が厳しい今、食事を軽食で済ませているのは事実だった。
大量の薬草と消耗品である道具を購入することはもちろん、歴史を紡いで多くの研究者が携わり続いている研究だ。
魔法学が進歩して必要がなくなる未来が仮に来るとしても。先生と同じ道を辿ることになろうとも。
ここで中途半端に研究を止めたくない。
「こちらが第七王都所属薬草研究室のレイツェル。魔法では対処できない毒の研究をしている。」
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