神田琥珀

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事件発生から2分経過

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「何のご要件でしょうか、ボス」

僕がそういうと、ボスは煙草から口を離した。
白い煙が少し漏れ出す。


『いやーどうやらね組織の1人が
金を持って逃走したみたいなんだ』

ボスはちょっと困った顔でそういうと
溜息と一緒に煙草の煙を吐きだした。


「金を持って逃走…。」

僕は、ボスの目と耳の替わりである
カメラとマイクに向かって話しかける。

いくらボスの顔が目の前に見えるといっても
まだ少し、機械に向かって話をすることには
なんだか違和感があった。


「ってことはあれだ、えーと…」


『裏切りってやつだよ』 


日常生活の続きみたいな口ぶりで
ボスは淡々と話す。

まるで「窓から虫が入ってきた」とでもいうくらい
興味がなさそうにきこえた。


そうだ裏切り。
ボスはこんなふうに言ってるけど
実は結構大変なことのはずだ。


だってボスのことをよく思ってない人間が
ボスの近くにいたってことになる。

しかも組織の大事なお金まで持って行かれてる。


「…一大事じゃないですか!!」

僕は思わずボスの顔に向かって叫んだ。

少し遅れてボスがちょっと身を引いて眉をしかめる。


まるで目の前で大声を出された人みたいだった。

当然、僕の前にボスはいなくて
よく分からない機械がたくさんあるだけだ。
…ボスってば変だと思った。



「ってことは僕はそいつを捕まえて金を回収して
連れて帰ってくればいいですね!」

人探し位なら大して時間もかからないはずだ。
さくっと終わらせてこよう。


そう思って身支度を始めようとしていたら
返ってきたのは予想外の答えだった。


『いや、盗られたのは1000万レーベの端金だから
正直くれてやっても痛くはないんだけどね…』

ボスは優しそうな顔をほんの少ししかめながら
煙草に口をつける。


1000万レーベ。
俺の食べてるこのビスケットが確か
2個で100レーベ位だから……

…とにかく沢山。
お腹が一杯になるぐらいは買えるはずだ。

はしたがね、が何かはわからないけど
決して安い金額じゃないことはなんとなくわかる。



けどボスが痛くない、
そう言うのならそうなんだろう。
いつだってボスは正しい。


でもそれなら疑問は別に残る。


僕は口の中に残っていたビスケットのかけらを
飲み込んで口を開いた。


「じゃあ、俺は一体何をしたらいいですか?」
『殺してこい』


間髪いれずにそう言われた。
さっきまでの優しそうな声色とは違って
とても低い声だった。

目の前にいなくても
空気が張り詰めたのがわかった。


黙ってしまった僕にボスは続ける。


『問題は金なんかじゃないんだ。
僕と組織を騙せる、そして逃げ切ることができる

そう思われたことが一番重要なんだよ。』


ボスはとてもつらそうにそういった。 


これは知ってるぞ。
大人の世界では体裁ってやつが大切な訳だ。


僕はまだよくわからないけど
ボスが金より大切だと言うのなら
きっとそうなんだろう。


なにより、ボスにこんな顔をさせるなんて
絶対に許せない。


ボスは煙草をくわえたまま話を続けた。

『さっきも言ったが金の回収はさして重要じゃない。
既にどこかの口座に入ってるかも知れないし
なんなら使われている可能性もあるだろう。

出来るようなら回収してこい。』


ボスはだいぶ頭にきてるのがわかる。
画面ごしでも殺気を隠せてないのが分かるくらいに。


『そんなのより、必要なのは証拠。

見せしめになり得る
奴が死んだ証拠を持って来てくれ。』


ボスはとても怖い顔でそう言って
持っていた煙草を灰皿に押し当てた。

火種の消える音がした。


『やれるな?』

声と口調はとても優しそうにもどっていたけど
目が全く笑っていなかった。


だったら僕はその原因を取り除く、それだけでいい。
ボスが笑っていてくれれば、それで。


『頼んだぞニビン。』


ボスがとても優しそうに微笑んだ。
もう先程までの殺気は消えていた。


ボスが喜んでくれさえすれば僕は何も怖くない。
ボスの望みを叶えるだけだ。


「サーズ(了解)、ボス。」


僕は目の前のカメラをしっかり見据えて告げた。


    
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