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第8章 勇者の運命

10 三つ巴の激闘

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 突然、すさまじい火炎が俺たちを襲った。

 とても避けられるタイミングじゃない。
 このままでは直撃する──。

「『ロムシールド』!」

 アリアンが防御呪文を唱えた。
 半透明のドームが彼女とナダレを覆う。

 すぐ近くにいた俺も、その効果範囲に入ることができた。
 もちろん彼女が助けようとしたのはナダレだけだろう。

 俺が効果範囲に入ったのは、偶然に過ぎない。
 とはいえ、とりあえずは直撃を免れそうだ──。

 直後、火炎がドームに激突する。

 ぐごぉぉぉううっ!

 火炎はあっさりとドームを溶かし去った。

「なんて威力……っ!?」

 アリアンが叫ぶ。

 荒れ狂う火炎が俺たちを襲った。

 が、威力はかなり弱まったようだ。

「消えろ!」

 俺は火炎を相殺するために、夜天を振るって衝撃波を放つ。
 ナダレも拳や蹴りで衝撃波を生み出し。それらがどうにか火炎を吹き散らした。

 まさに間一髪だ。

「へえ、今のを防ぐかよ。思ったよりはやるようだな」

 爆炎の向こうから、細身のシルエットが現れる。

 緑色の髪を逆立てた少年だ。

「お前は──」

 レグルドだった。

 こいつ、今までどこにいたんだ?

「どうやって、この空間に侵入した……!?」
「俺様の提案を選んでくれればよかったんだけどよ。そうならないことも予測していた」

 レグルドがフンと鼻を鳴らした。

「その場合に備えて、てめーを見張っていた。で、案の定、てめーはファルセリアの提案の方に乗っちまった。だから気配を消してついて行った、ってわけだ」
「魔族とも取引きしていたなんて……あなたは」

 アリアンが俺を見て、うめく。

「やはり、汚い男ね」
「だまし討ちしてきたお前たちに言われたくない」

 ちょっとムッとしてしまった。

「なるほど。近くに隠れ、襲いかかる機を伺っていたわけか」

 ナダレがレグルドを見据える。

「ああ、最後の勝利を得るために──ずっと見守ってたぜぇ、てめーらが『門番』を倒して、ついでに消耗してくれるのを」

 レグルドが笑った。

「ま、俺様の力なら、てめーらに正面から戦っても勝てるだろうが……作戦は確実を期す必要があるからな」

 言って、俺をチラッと見るレグルド。

「せっかく仲良くなれたのに残念だ、カナタ」
「……仲良くなった覚えはない」

「そうか? 俺様は楽しかったぞ。てめーら人間の言葉では『友だち』っていうんだよな?」

 レグルドが笑みを深めた。

 友だち──か。

「おのれ、魔族め!」

 アリアンが錫杖を構える。
 その全身が淡い輝きに包まれた。
 治癒魔法を自らにかけて回復しているんだろう。

「回復したところで無駄だ。消耗したてめーらじゃ、俺様には勝てない」

 レグルドが笑う。

「カナタ、俺様の提案を受けてくれるのかと期待したが……残念だ。てめーはそいつらについたんだな?」
「俺はただ、俺の世界を守るために動いただけだ」

 俺はレグルドを見据えた。

「残念だ」

 レグルドはもう一度、同じことを言った。

「なら、てめーも殺すしかないな」
「……そう簡単に殺されてたまるか」

 言いつつ、緊張感で全身から汗がにじむ。

 こっちは『門番』との戦いで体力も精神力も限界に近い。
 いくら三対一とはいえ、高位魔族のレグルド相手に勝てるだろうか?

「もう一度、私たちで連携して戦うぞ。『門番』を倒したときのように」

 ナダレが俺の下に近づいた。

「随分と都合のいい話だな。さっきまで俺を殺そうとしていたくせに」
「皮肉を言いたくなるのは分かるが、ここは共闘しかあるまい」
「……まあ、な」

 背に腹は代えられない。

「いくぞ!」

 俺はナダレに目線で合図を送り、レグルドに向かっていく──。



「はあ、はあ、はあ……」

 レグルドの強さは、圧倒的だった。

 俺とナダレはアリアンの強化魔法や治癒魔法を受けながら戦ったものの、奴の前には歯が立たない。
 やはり『門番』戦の消耗が激しすぎたのだ。

 共闘から数分後、俺とナダレは地面に倒れていた。
 俺は疲労とダメージで、もはや立ち上がれない。

 そしてナダレは──『武神』となったナダレでさえも、レグルドには歯が立たず、血の海に沈んでいる。

「ぐっ……お……のれ……私が、こんなところ……で……」

 うめくナダレだが、もはや四肢を弱々しく震わせる程度の動きしかできないようだ。

「人間にしちゃ大した腕だが──しょせん俺様の敵じゃなかったな」

 レグルドはこともなげに言って、手にした斧を振るった。
 無造作な一撃が、ナダレの首を刎ね飛ばす。

 あっさりと──信じられないほどあっけなく。
 ナダレは、殺された。

 あれほど『強さ』に執着した男が。
 その執着心ゆえに、『一周目』では仲間だった俺を殺そうとまでした男が。

 さらなる力によって、なすすべなく叩き潰され、命を奪われる──。
 強さとは──なんなのか。

 ……なんて悠長に考えている場合じゃない。

 対するレグルドは、ほとんどノーダメージなのだから。

「思ったより手こずったが……まあ、こんなもんか」

 血まみれの斧を背に担ぎ、レグルドが笑う。

「残るは彼方とそっちの女だけだな。さあ、終わりだ」

 そのまま近づいてくるレグルド。

 どうする?
 どうすればいい?

 何か逆転の手立ては──、

「まだです……!」

 立ち上がったのは、アリアンだった。

「こんなところで殺されるわけにはいきません。私はあの方の仇を取ると決めたんですから」

 ぞわり。
 悪寒が広がる。

 なんだ、これは──。

 レグルドから受けるプレッシャーの比じゃない。
 アリアンの全身からすさまじいまでの威圧感が放出されている。

「邪魔者は、すべて消します」

 輝きが、あふれる。
 アリアンの体の内側から、白と黒の二色の輝きが。

「まさか、『クラスチェンジ』か──」

 俺はうめいた。
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