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第8章 勇者の運命

7 刹那の最終攻防

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『一周目』の人生で、勇者としてファルセリアに召喚されたとき──。
 最初は、浮かれる気持ちがあったのは事実だ。

 平凡な高校生にすぎなかった俺が、ここでは選ばれた勇者。

 周囲が俺を讃えてくれる。
 特別な人間として扱ってくれる。

 正直、心地よかった。

 だけど、結局それらは幻想だった。

 魔王を倒した俺は用済みとなり、かつての仲間たちから──そして世界そのものから追われた。
 失意のうちに、俺は老衰で死ぬ寸前となり、そこで女神に救われた。

 だから『二周目』は違う人生にしたいと思った。

 特別な人間になんてならなくていい。
 平凡で構わない。

 いや、平凡で平穏な生活こそが素晴らしいものなんだと『一周目』を通じて学ぶことができた。

 だけど今、その『平凡で平穏な生活』を脅かす者がいる。
 この世界に侵攻してくる魔族や魔獣が──。

 そんなものは要らない。
 一匹たりとも、来なくていい。

 だから封じるんだ。
 俺自身のためだけじゃなく『二周目』で出会った友人たち──雫たちのためにも。

 みんなで平和に、笑顔で暮らせる場所を作るために。

「力をよこせ、夜天! 俺に! もっと──もっとだ!」

 叫ぶ。

 相棒たる聖剣に、ありったけの意思を込めて。
 心と魂のすべてを込めて。

「了解だ、彼方!」

 夜天の声が響き、手にした剣が虹色の光を放った。

「おおおおおおおおおおおおおっ!」

 タイミングを合わせ、ナダレが突進する。

雷撃彗星拳らいげきすいせいけん奥義──『究極きゅうきょく正拳蹴足連打せいけんしゅうそくれんだ』!」

 繰り出された拳と蹴りのコンビネーションは、今まで以上に鋭かった。

「これが最後の力だぁぁぁっ! おおおおおおおおおおおおおっ!」

 獰猛な雄叫びとともに、まさしく全身全霊の攻撃で『門番』を追いこむナダレ。

「【スロウ】! 【パワーダウン】! 【シールドダウン】!」

 アリアンが弱体化スキルを続けざまに解き放つ。
『門番』のパワーやスピードが、さらに防御力までが一気に弱まった。

 とはいえ、これほどの力を持つ高位魔族相手なら、効果はせいぜい数秒だろう。
 その刹那の時間で──決着をつける!

「砕けろっ!」

 ナダレが数十数百の拳や蹴りを、『門番』の胸元の一点に叩きこんだ。

 白い体表が砕け散り、後退する『門番』。
 体勢が完全に崩れている。

 今だ──!

「切り裂け、【退魔聖燐咆たいませいりんほう】!」

 俺は最後の力を振り絞り、スキルを放った。

 今まで何度となく跳ね返された一撃。
 だが、今回だけは──今回こそは。

「届け! そして断ち切れ!」

 俺の意思が、聖剣にさらなる力を与える。
 虹色の輝きが周囲の空間全体にあふれ出す。

「【退魔冥焔咆たいまめいえんほう】!」

 俺は二撃目を放った。
 一撃目に追いつき、二つの斬撃波がX字型になって『門番』に命中する。

 りぃぃぃぃ……んっ……。

 弱々しい鳴き声とともに、『門番』が倒れ伏した。
 俺の一撃で四つに切断された『門番』が。

「勝っ……た……」

 俺もその場に崩れ落ちる。

 もはや立ち上がる体力さえ残っていない。
 それはナダレも同じようだ。

「どうにか……やったな、彼方殿」
「……ふん」

 ニヤリと笑うナダレに、冷たく鼻を鳴らすアリアン。

 これで『門番』打倒は完了だ。



『門番』はかなりの経験値を有していたらしく、俺のレベルは170から一気に240にまで跳ね上がった。
 もちろん俺の固有スキル【経験値効率・極大】のおかげでもあるが。

『一周目』でのレベル700超だったころには及ばないものの、少しずつ近づいてきている感じだ。

「協力に感謝する、彼方殿。もちろんアリアン殿も」

 ナダレが俺たちに一礼した。

「さすがは勇者候補として選ばれるだけのことはある」
「礼はいい。互いに利があるから手を組んだだけだ」

 俺はそっけなく言った。
 彼らと馴れ合いたいとはまったく思わない。

「それより、さっさと『門』を閉じてしまおう。魔界から俺たちの世界に魔族や魔獣が来られないように」
「私たちの世界にも、です」

 アリアンが訂正した。
 俺をにらむ目つきは、よりいっそう鋭くなる。

「まあまあ」

 ナダレがなだめた。

 ──さて、ここからだ。
 俺はあらためて気合いを入れ直した。

 そう、まだ終わりじゃない。

『門番』との戦いは、前哨戦に過ぎない。

 俺はナダレとアリアンに冷たい視線を注ぐ──。
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