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第8章 勇者の運命
3 レグルド
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──学校に突然やって来たのは、高位魔族の少年だった。
「レグルド……?」
「ここが人間の世界か。魔界とは随分違うんだな」
レグルドがニヤリと笑う。
「……何しに来たんだ」
自然と警戒態勢になった。
「おいおい、怖い顔すんなよ。俺様は別に侵略行為に来たわけじゃねーからな」
レグルドは肩をすくめ、笑った。
魔族とは思えない、妙に朗らかな笑顔だ。
──ちなみに一周目の人生では、こんな魔族と出会ったことも、戦ったこともない。
あるいはベルクたちの誰かがこいつと戦い、倒したのかもしれないが……。
「観光だよ、観光。てめーが俺様たちに協力してくれたら、最終的に魔界とこの世界は行き来できなくなるからな。今のうちに見ておこうと思ったのさ」
何が狙いなんだ、こいつ?
俺はますます警戒心を強めた。
「案内してくれよ、勇者様」
「俺は勇者じゃない」
「ああ、候補だよな」
「勇者候補って呼ばれ方も好きじゃないな」
思わず顔をしかめる俺。
というか、勇者という言葉自体に嫌悪感を覚えるほどだ。
俺にとっては『一周目』の人生を思い起こさせる言葉だからな。
「じゃあ名前で呼べばいいのか。確かナツセ・カナタ……だったよな」
「好きに呼べよ」
「じゃあ、カナタ」
レグルドがニッと笑った。
「さっそくだが、俺様を案内しろ」
「態度がでかいな」
「そうか? 俺様はいつもこんなもんだぞ」
「じゃあ、普段から態度がでかいんだろ」
「心外だな。魔王ヴィルガロード様は俺様の態度を咎めたことはない」
と、不満げに口を尖らせるレグルド。
そういう仕草も、いちいち子どもっぽい。
案外、外見通りにかなり年少の魔族なのかもしれない。
「まあ、幹部連中の中には俺様をたしなめる奴らもいるけどな。『暗黒神官』ランサムとか『雷撃将軍』ミィドとかよ」
その二人の魔族の名前には覚えがあった。
『一周目』の魔王討伐戦で、俺たち勇者パーティの前に立ちはだかった強敵たちだ。
「そういえば、レグルドも幹部なのか?」
「ん? ああ、そうだぜ。『魔獣騎士』レグルド──それが俺様の称号であり役職だ」
魔獣騎士──。
やはり、『一周目』にはそんな称号を持つ幹部はいなかった。
俺が知っている歴史とは少しズレているのか。
あるいは──。
最初から、ズレていたのか。
結局レグルドの望み通り、町を案内することにした。
奴の言うとおり、ここで人間に危害を加えても魔族側に利はない。
そのあたりを冷静に判断するだけの知性は持ち合わせているように見えた。
何よりも──。
(全力で暴れられたら、どのみち太刀打ちできない)
今の俺のレベルでは、おそらくレグルドには勝てないだろう。
もう少し力を上げるまで、懐柔じみた対応も必要だ。
「なんだよ、難しい顔して」
レグルドが俺を見た。
「せっかくの観光だ。楽しもうぜ」
「……お前は楽しそうだな」
「まあ、魔界は見渡すかぎり真っ暗で、殺風景な世界だからな。それがいいって連中もいるけど、俺様の性には合わねー」
と、レグルド。
「こっちの世界のほうがずっと面白いし、いくら見ていても飽きねーな」
「そういうものなのか」
「そういうもんだ。あーあ、どうせなら魔族じゃなく人間に生まれたかったぜ、俺様は」
魔族らしからぬ感想を漏らすレグルドに、俺は思わず噴き出した。
「なんだよ。今のは真剣な本音だぞ」
「あ、悪い」
「人間に憧れる魔族がいたっていいだろうによ、ぶつぶつ……自分が人間だからって、勝ち誇ってるだろ、てめー」
拗ねたようなレグルド。
「だから悪かったって」
俺もつい、人間を相手に話すような感覚でこいつと接してしまう。
……妙な展開になってしまったけど、しばらくこいつの観光に付き合ってやるとするか。
「レグルド……?」
「ここが人間の世界か。魔界とは随分違うんだな」
レグルドがニヤリと笑う。
「……何しに来たんだ」
自然と警戒態勢になった。
「おいおい、怖い顔すんなよ。俺様は別に侵略行為に来たわけじゃねーからな」
レグルドは肩をすくめ、笑った。
魔族とは思えない、妙に朗らかな笑顔だ。
──ちなみに一周目の人生では、こんな魔族と出会ったことも、戦ったこともない。
あるいはベルクたちの誰かがこいつと戦い、倒したのかもしれないが……。
「観光だよ、観光。てめーが俺様たちに協力してくれたら、最終的に魔界とこの世界は行き来できなくなるからな。今のうちに見ておこうと思ったのさ」
何が狙いなんだ、こいつ?
俺はますます警戒心を強めた。
「案内してくれよ、勇者様」
「俺は勇者じゃない」
「ああ、候補だよな」
「勇者候補って呼ばれ方も好きじゃないな」
思わず顔をしかめる俺。
というか、勇者という言葉自体に嫌悪感を覚えるほどだ。
俺にとっては『一周目』の人生を思い起こさせる言葉だからな。
「じゃあ名前で呼べばいいのか。確かナツセ・カナタ……だったよな」
「好きに呼べよ」
「じゃあ、カナタ」
レグルドがニッと笑った。
「さっそくだが、俺様を案内しろ」
「態度がでかいな」
「そうか? 俺様はいつもこんなもんだぞ」
「じゃあ、普段から態度がでかいんだろ」
「心外だな。魔王ヴィルガロード様は俺様の態度を咎めたことはない」
と、不満げに口を尖らせるレグルド。
そういう仕草も、いちいち子どもっぽい。
案外、外見通りにかなり年少の魔族なのかもしれない。
「まあ、幹部連中の中には俺様をたしなめる奴らもいるけどな。『暗黒神官』ランサムとか『雷撃将軍』ミィドとかよ」
その二人の魔族の名前には覚えがあった。
『一周目』の魔王討伐戦で、俺たち勇者パーティの前に立ちはだかった強敵たちだ。
「そういえば、レグルドも幹部なのか?」
「ん? ああ、そうだぜ。『魔獣騎士』レグルド──それが俺様の称号であり役職だ」
魔獣騎士──。
やはり、『一周目』にはそんな称号を持つ幹部はいなかった。
俺が知っている歴史とは少しズレているのか。
あるいは──。
最初から、ズレていたのか。
結局レグルドの望み通り、町を案内することにした。
奴の言うとおり、ここで人間に危害を加えても魔族側に利はない。
そのあたりを冷静に判断するだけの知性は持ち合わせているように見えた。
何よりも──。
(全力で暴れられたら、どのみち太刀打ちできない)
今の俺のレベルでは、おそらくレグルドには勝てないだろう。
もう少し力を上げるまで、懐柔じみた対応も必要だ。
「なんだよ、難しい顔して」
レグルドが俺を見た。
「せっかくの観光だ。楽しもうぜ」
「……お前は楽しそうだな」
「まあ、魔界は見渡すかぎり真っ暗で、殺風景な世界だからな。それがいいって連中もいるけど、俺様の性には合わねー」
と、レグルド。
「こっちの世界のほうがずっと面白いし、いくら見ていても飽きねーな」
「そういうものなのか」
「そういうもんだ。あーあ、どうせなら魔族じゃなく人間に生まれたかったぜ、俺様は」
魔族らしからぬ感想を漏らすレグルドに、俺は思わず噴き出した。
「なんだよ。今のは真剣な本音だぞ」
「あ、悪い」
「人間に憧れる魔族がいたっていいだろうによ、ぶつぶつ……自分が人間だからって、勝ち誇ってるだろ、てめー」
拗ねたようなレグルド。
「だから悪かったって」
俺もつい、人間を相手に話すような感覚でこいつと接してしまう。
……妙な展開になってしまったけど、しばらくこいつの観光に付き合ってやるとするか。
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