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第6章 勇者の戦い

8 過ぎ去りし友情、その結末

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 なぜ雫の声とともに、聖剣が力を増したのか。
 剣だけじゃなく、俺まで力が上がったのか。

 いずれも謎だったが、その解明は後回しだ。

 今は、奴との決着をつけるのが先だった。

 ──こいつのことだから、たぶん最後はみっともないあがきを見せるんだろう。
 内心でため息をつき、いちおうの『準備』をしつつ、俺は歩みを進めた。

「ここまでだ、ベルク」

 倒れたベルクを見下ろした。
 深々と胸元を切り裂かれ、四肢は焼け焦げている。

「ぐ……ぁぁ……」

 苦しげなうめき声を上げながら、俺を見上げるベルク。

 もはや戦闘不能であることは明らかだった。

 だが、このまま放置はできない。
 これで改心するような奴ではないだろう。

 後々の憂いを断つために。
 俺にとって大切な人たちにこれ以上、危険が及ばないように。

「終わりにさせてもらう」

 俺は夜天を振り上げた。

「ひ、ひいぃぃ」

 ベルクが情けない悲鳴を上げた。

「た、頼む、助けてくれえええええ」

 ぴくり。

 半ば無意識に、俺は力が抜けるのを感じた。

 自分の中に、わずかでも迷いがあるのは驚きだった。

 心の片隅で、俺はまだベルクを信じたかったのかもしれない。
 いや、友だちだと思いたかったのかもしれない。

 ──なんて、未練がましい。

 だけど、俺にとって生まれて初めてできた友だちであることに変わりはない。

 その想いが、結局は幻想に過ぎなかったのだとしても。
 その想いが、結局は踏みにじられてしまったのだけれど。

 それでも、俺は──こいつのことを、一度は親友だと思っていた。

 叶うなら──親友に、なりたかった。

「ベルク、俺は」

 ヴン……!

 そのとき、奴の手元が鈍い光を放った。
 光は輝く弾丸となり、突き進んでいく。

 雫に、向かって。

「お前──」
「はははははははっ! この俺に屈辱を味わわせやがって! 今度はテメェが悔しがる番だ!」

 ベルクが哄笑する。

 スキル【光弾】。
 近距離攻撃を主体とする騎士系ジョブにおいて、珍しい遠距離攻撃手段。

 威力はそれほど強くなく、鎧で武装した戦士には傷もつけられないだろう。
 だけど──生身の人間相手なら、別だ。

 雫を貫くくらいの威力は優にあるだろう。

「この不意打ちのタイミングで反応できるか? できねーよな、カナタぁっ!」

 ベルクが愉快げに叫んだ。
 光弾は雫の眼前まで迫り、

「……結局、そうなるのか」

 俺が放った石つぶてがそれを迎撃した。

「えっ……?」

 呆けたような声を漏らすベルク。

「不意打ち? お前がやりそうなことは、お見通しだ」

 ──友だち、だったからな。

 内心のつぶやきに、あらためて寂しさがこみ上げる。
 あらためて、胸が痛くなる。

 やっぱり、こいつは俺が知っている通りのベルクで。

 たぶん、俺が二周目でも勇者を選んでいれば、こいつと友だちになれたんだろう。
 そして──最後は裏切られたんだろう。

 そんなIFルートが容易に想像できる。

「だから、最初から備えていた」

 スキル【射撃】。
 俺はあらかじめ、その発動準備をしていた。
 おかげで即座に放つことができた。

 一瞬、ベルクを斬るのを逡巡したせいで、スキル発動がぎりぎりのタイミングになってしまったのは、猛省すべきポイントだが。

 ともあれ、最後の悪あがきはこれで終わりだ。

「雫、向こうに行ってくれないか」
「えっ……?」
「──頼む。こいつとの決着をつけたい」

 戸惑ったような雫に、頭を下げる俺。

「……分かりました、彼方くん」

 俺の頼み通り、雫は去っていった。

 場に残されたのは俺とベルクだけだ。

 そう、これで決着だ。
 今度こそ。
 未練も、全部断ち切る。

「い、今のは、その……ま、魔が差したんだ。本気じゃない。頼むよ、カナタ……いや、カナタ様! 俺は、こんなことで死ぬわけには──」
「最後まで、我が身だけが可愛いか」

 俺は夜天を振りかぶった。

「さよならだ、ベルク」

『一周目』の、そして『二周目』での──すべての因縁を思い浮かべ、俺は静かに夜天を振り下ろす。

「ゆ、許してくだ、さ──ぎゃああ……ぁぁ……っ!」

 ベルクは脳天から両断され、真っ二つになってその場に転がった。
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