上 下
99 / 135
第5章 勇者の試練

4 変わらぬ魂

しおりを挟む
「今日一日、お前の生活を見させてもらった」

 夜天が言った。

「楽しそうに過ごしていたな」
「まあ、オカ研のみんなと過ごすのは楽しいよ」

 と、うなずく俺。

「私は魂を感知する能力がある。お前の笑顔や楽しそうな雰囲気は演技などではなかった。心の底から、友と過ごす時間を楽しんでいた」

 すべてを見透かすような眼光は──実際に、俺の魂を見透かしていたわけか。

「アトロポス様から断片的に聞いただけだが、『一周目』の人生はそうではなかったのだろう? この世界では虐げられ、異世界でも魔王を倒した後は迫害された」

 と、夜天。

「報われない人生だ」
「まあ……な」

 苦い記憶に、俺はわずかに表情を歪めた。

「だが、その苦しみの果てになお──お前の魂は曇らなかった」
「夜天……?」
「ふたたび人生をやり直し、お前の心にはなお人を思う心が残っていた。苦しんでいる者を救い、傷つけられようとしている者を助け、立ち向かう──優しさと勇気を失わなかった」

 夜天が微笑む。

 何度か見た、皮肉げな笑みじゃない。
 嬉しそうな、笑顔だった。

「気に入ったぞ、彼方。お前を私の主として認めよう」
「案外あっさりOKしてくれたな……」

 試練なんて言うから、正直もっと手こずるかと思っていた。

「ここからは実戦訓練だ」
「……えっ?」
「私を使いこなしてみせろ、彼方」

 その言葉とともに、夜天の体が無数の光の粒子となって弾けた。

 次の瞬間、俺の手には一振りの長剣が握られていた。

 まっすぐに伸びた黄金の刀身。
 竜の顔と翼を象った黒い柄。

 勇者の聖剣──『夜天』。

「懐かしいな」

 久々に握った夜天は、両手にしっくりとフィットした。

 もともと俺は右手で『夜天』を、左手でもう一振りの勇者の剣『煌牙こうが』を操っていたが、こうして『夜天』だけを両手持ちで使うこともある。
 そのときの感触や感覚が、まるで昨日の出来事のように鮮やかによみがえってきた。

 まさしくこれこそ、俺の愛剣だ。

「──って、実戦訓練とか言っていたな。何をする気だ?」
「見るがいい」

 聖剣から夜天の声が響く。
 どうやら剣状態でも意志の疎通ができるらしい。

 と、前方がもやのように霞み、スクリーン状になって映像が映し出された。

「あれは──」

 俺は息をのんだ。

 オカ研の部室に雫、凪沙さん、月子の三人がいる。
 そして白い騎士のような無数のシルエットが彼女たちに向かって剣を振りかぶっている。

 神殿で見た、神のしもべ──『神操兵』。

「雫たちが──!」
「守ってみせろ。お前の力で」

 夜天が言った。

 もちろん、これは作り物の世界だ。
 雫たちだって本物じゃない。

 だけど、彼女たちそっくりの姿をした人たちが襲われそうになっている映像を見て、平静ではいられなかった。

「くそっ、こんな実戦訓練なんて──」

 俺は罵声混じりに外へ出た。



 夜天を手に、俺は学校にたどり着く。

 門が閉まっていたが、聖剣で真っ二つにした。
 そのままオカ研の部室まで駆け上がる。

「彼方くん!」
「来てくれた」
「先輩、こいつ強いよ。気を付けて」

 雫、凪沙さん、月子がそれぞれ言った。

 全員、無事のようだ。
 と、神操兵の一体が雫に向かって剣を振り上げる。

「させるか!」

 俺はすかさず夜天を振るった。

 首を斬り飛ばし、胴体だけになったそいつを他の神操兵に向かって蹴りつける。

 奴らはわずかに後退した。

 だけど、今度は数体まとめて襲いかかってくる。
 正面から二体、左右から一体ずつ。
 振り下ろされた剣を、俺は夜天を振るって弾き返す。

「重い……っ!」

 さすがに数に任せて押されると、きつい。

「このタイプの神操兵は中位魔族に匹敵する戦闘能力を持っている。気を抜くな、夜天」
「……アドバイスどうも」

 俺は剣を構え直した。

 まあ、それくらいの相手じゃないと実戦訓練とは言えないか。

 しかし、一体一体なら勝てる相手でも、集団となると──。
 どこまで、やれるか。

 俺の脳裏に『一周目』の異世界で経験してきた戦いがダブった。



 ──村を襲う無数の魔族。
 ──逃げ惑う人々。
 ──それを守るために剣を振る俺。
 ──当時のレベルではとても敵わない、強大な敵。
 ──絶望的な数の軍勢。



 それでも俺は、人を守るために──剣を振った。
 振り続けた。

「夜天、俺に力を貸してくれ」

 ここは作り物の世界だけれど。
 外に出れば、今度は本物の雫たちを──俺が大切に想う人たちを守るための戦いが待ち受けているかもしれない。

 だから、そのための力をここで手に入れる。
 手に入れてみせる。

「了解だ」

 俺の声に応え、夜天の刀身がまばゆい輝きを放った。

 同時にスキル【武器格闘】を発動。

 俺は勇者の聖剣を手に、神操兵たちに斬りかかる──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです

青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。 その理由は、スライム一匹テイムできないから。 しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。 それは、単なるストレス解消のため。 置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。 そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。 アイトのテイム対象は、【無生物】だった。 さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。 小石は石でできた美少女。 Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。 伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。 アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。 やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。 これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。 ※HOTランキング6位

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...