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第5章 勇者の試練
4 変わらぬ魂
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「今日一日、お前の生活を見させてもらった」
夜天が言った。
「楽しそうに過ごしていたな」
「まあ、オカ研のみんなと過ごすのは楽しいよ」
と、うなずく俺。
「私は魂を感知する能力がある。お前の笑顔や楽しそうな雰囲気は演技などではなかった。心の底から、友と過ごす時間を楽しんでいた」
すべてを見透かすような眼光は──実際に、俺の魂を見透かしていたわけか。
「アトロポス様から断片的に聞いただけだが、『一周目』の人生はそうではなかったのだろう? この世界では虐げられ、異世界でも魔王を倒した後は迫害された」
と、夜天。
「報われない人生だ」
「まあ……な」
苦い記憶に、俺はわずかに表情を歪めた。
「だが、その苦しみの果てになお──お前の魂は曇らなかった」
「夜天……?」
「ふたたび人生をやり直し、お前の心にはなお人を思う心が残っていた。苦しんでいる者を救い、傷つけられようとしている者を助け、立ち向かう──優しさと勇気を失わなかった」
夜天が微笑む。
何度か見た、皮肉げな笑みじゃない。
嬉しそうな、笑顔だった。
「気に入ったぞ、彼方。お前を私の主として認めよう」
「案外あっさりOKしてくれたな……」
試練なんて言うから、正直もっと手こずるかと思っていた。
「ここからは実戦訓練だ」
「……えっ?」
「私を使いこなしてみせろ、彼方」
その言葉とともに、夜天の体が無数の光の粒子となって弾けた。
次の瞬間、俺の手には一振りの長剣が握られていた。
まっすぐに伸びた黄金の刀身。
竜の顔と翼を象った黒い柄。
勇者の聖剣──『夜天』。
「懐かしいな」
久々に握った夜天は、両手にしっくりとフィットした。
もともと俺は右手で『夜天』を、左手でもう一振りの勇者の剣『煌牙』を操っていたが、こうして『夜天』だけを両手持ちで使うこともある。
そのときの感触や感覚が、まるで昨日の出来事のように鮮やかによみがえってきた。
まさしくこれこそ、俺の愛剣だ。
「──って、実戦訓練とか言っていたな。何をする気だ?」
「見るがいい」
聖剣から夜天の声が響く。
どうやら剣状態でも意志の疎通ができるらしい。
と、前方がもやのように霞み、スクリーン状になって映像が映し出された。
「あれは──」
俺は息をのんだ。
オカ研の部室に雫、凪沙さん、月子の三人がいる。
そして白い騎士のような無数のシルエットが彼女たちに向かって剣を振りかぶっている。
神殿で見た、神のしもべ──『神操兵』。
「雫たちが──!」
「守ってみせろ。お前の力で」
夜天が言った。
もちろん、これは作り物の世界だ。
雫たちだって本物じゃない。
だけど、彼女たちそっくりの姿をした人たちが襲われそうになっている映像を見て、平静ではいられなかった。
「くそっ、こんな実戦訓練なんて──」
俺は罵声混じりに外へ出た。
夜天を手に、俺は学校にたどり着く。
門が閉まっていたが、聖剣で真っ二つにした。
そのままオカ研の部室まで駆け上がる。
「彼方くん!」
「来てくれた」
「先輩、こいつ強いよ。気を付けて」
雫、凪沙さん、月子がそれぞれ言った。
全員、無事のようだ。
と、神操兵の一体が雫に向かって剣を振り上げる。
「させるか!」
俺はすかさず夜天を振るった。
首を斬り飛ばし、胴体だけになったそいつを他の神操兵に向かって蹴りつける。
奴らはわずかに後退した。
だけど、今度は数体まとめて襲いかかってくる。
正面から二体、左右から一体ずつ。
振り下ろされた剣を、俺は夜天を振るって弾き返す。
「重い……っ!」
さすがに数に任せて押されると、きつい。
「このタイプの神操兵は中位魔族に匹敵する戦闘能力を持っている。気を抜くな、夜天」
「……アドバイスどうも」
俺は剣を構え直した。
まあ、それくらいの相手じゃないと実戦訓練とは言えないか。
しかし、一体一体なら勝てる相手でも、集団となると──。
どこまで、やれるか。
俺の脳裏に『一周目』の異世界で経験してきた戦いがダブった。
──村を襲う無数の魔族。
──逃げ惑う人々。
──それを守るために剣を振る俺。
──当時のレベルではとても敵わない、強大な敵。
──絶望的な数の軍勢。
それでも俺は、人を守るために──剣を振った。
振り続けた。
「夜天、俺に力を貸してくれ」
ここは作り物の世界だけれど。
外に出れば、今度は本物の雫たちを──俺が大切に想う人たちを守るための戦いが待ち受けているかもしれない。
だから、そのための力をここで手に入れる。
手に入れてみせる。
「了解だ」
俺の声に応え、夜天の刀身がまばゆい輝きを放った。
同時にスキル【武器格闘】を発動。
俺は勇者の聖剣を手に、神操兵たちに斬りかかる──。
夜天が言った。
「楽しそうに過ごしていたな」
「まあ、オカ研のみんなと過ごすのは楽しいよ」
と、うなずく俺。
「私は魂を感知する能力がある。お前の笑顔や楽しそうな雰囲気は演技などではなかった。心の底から、友と過ごす時間を楽しんでいた」
すべてを見透かすような眼光は──実際に、俺の魂を見透かしていたわけか。
「アトロポス様から断片的に聞いただけだが、『一周目』の人生はそうではなかったのだろう? この世界では虐げられ、異世界でも魔王を倒した後は迫害された」
と、夜天。
「報われない人生だ」
「まあ……な」
苦い記憶に、俺はわずかに表情を歪めた。
「だが、その苦しみの果てになお──お前の魂は曇らなかった」
「夜天……?」
「ふたたび人生をやり直し、お前の心にはなお人を思う心が残っていた。苦しんでいる者を救い、傷つけられようとしている者を助け、立ち向かう──優しさと勇気を失わなかった」
夜天が微笑む。
何度か見た、皮肉げな笑みじゃない。
嬉しそうな、笑顔だった。
「気に入ったぞ、彼方。お前を私の主として認めよう」
「案外あっさりOKしてくれたな……」
試練なんて言うから、正直もっと手こずるかと思っていた。
「ここからは実戦訓練だ」
「……えっ?」
「私を使いこなしてみせろ、彼方」
その言葉とともに、夜天の体が無数の光の粒子となって弾けた。
次の瞬間、俺の手には一振りの長剣が握られていた。
まっすぐに伸びた黄金の刀身。
竜の顔と翼を象った黒い柄。
勇者の聖剣──『夜天』。
「懐かしいな」
久々に握った夜天は、両手にしっくりとフィットした。
もともと俺は右手で『夜天』を、左手でもう一振りの勇者の剣『煌牙』を操っていたが、こうして『夜天』だけを両手持ちで使うこともある。
そのときの感触や感覚が、まるで昨日の出来事のように鮮やかによみがえってきた。
まさしくこれこそ、俺の愛剣だ。
「──って、実戦訓練とか言っていたな。何をする気だ?」
「見るがいい」
聖剣から夜天の声が響く。
どうやら剣状態でも意志の疎通ができるらしい。
と、前方がもやのように霞み、スクリーン状になって映像が映し出された。
「あれは──」
俺は息をのんだ。
オカ研の部室に雫、凪沙さん、月子の三人がいる。
そして白い騎士のような無数のシルエットが彼女たちに向かって剣を振りかぶっている。
神殿で見た、神のしもべ──『神操兵』。
「雫たちが──!」
「守ってみせろ。お前の力で」
夜天が言った。
もちろん、これは作り物の世界だ。
雫たちだって本物じゃない。
だけど、彼女たちそっくりの姿をした人たちが襲われそうになっている映像を見て、平静ではいられなかった。
「くそっ、こんな実戦訓練なんて──」
俺は罵声混じりに外へ出た。
夜天を手に、俺は学校にたどり着く。
門が閉まっていたが、聖剣で真っ二つにした。
そのままオカ研の部室まで駆け上がる。
「彼方くん!」
「来てくれた」
「先輩、こいつ強いよ。気を付けて」
雫、凪沙さん、月子がそれぞれ言った。
全員、無事のようだ。
と、神操兵の一体が雫に向かって剣を振り上げる。
「させるか!」
俺はすかさず夜天を振るった。
首を斬り飛ばし、胴体だけになったそいつを他の神操兵に向かって蹴りつける。
奴らはわずかに後退した。
だけど、今度は数体まとめて襲いかかってくる。
正面から二体、左右から一体ずつ。
振り下ろされた剣を、俺は夜天を振るって弾き返す。
「重い……っ!」
さすがに数に任せて押されると、きつい。
「このタイプの神操兵は中位魔族に匹敵する戦闘能力を持っている。気を抜くな、夜天」
「……アドバイスどうも」
俺は剣を構え直した。
まあ、それくらいの相手じゃないと実戦訓練とは言えないか。
しかし、一体一体なら勝てる相手でも、集団となると──。
どこまで、やれるか。
俺の脳裏に『一周目』の異世界で経験してきた戦いがダブった。
──村を襲う無数の魔族。
──逃げ惑う人々。
──それを守るために剣を振る俺。
──当時のレベルではとても敵わない、強大な敵。
──絶望的な数の軍勢。
それでも俺は、人を守るために──剣を振った。
振り続けた。
「夜天、俺に力を貸してくれ」
ここは作り物の世界だけれど。
外に出れば、今度は本物の雫たちを──俺が大切に想う人たちを守るための戦いが待ち受けているかもしれない。
だから、そのための力をここで手に入れる。
手に入れてみせる。
「了解だ」
俺の声に応え、夜天の刀身がまばゆい輝きを放った。
同時にスキル【武器格闘】を発動。
俺は勇者の聖剣を手に、神操兵たちに斬りかかる──。
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