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第2章 守りたい場所

6 EX創生

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 EXランク創生物。

 今まで俺がスキルで作ってきたものは、ランク1から5まで分かれている。
 最高ランクの5は神造級──つまり神様が作った武器とか装置とかだ。

 じゃあ、このEXランクというのはなんだ。

 それ以上、ってことなのか。
 あるいは──。



『EXランク創生物(特殊フィールド系)候補』

現在のEXポイント:2

 浄化の領域:EXポイント2を消費し、特殊フィールド【浄化の領域】を生み出す。効果範囲・中。効果時間・666秒。また、効果時間は持越し可。

 聖癒せいゆまゆ:EXポイント5を消費し、特殊フィールド【聖癒の繭】を生み出す。効果範囲・超。効果時間・888秒。また、効果時間は持越し可。

 覇王はおう攻陣こうじん:EXポイント10を消費し、特殊フィールド【覇王攻陣】を生み出す。効果範囲・小。効果時間・1111秒。また、効果時間は持越し可。



 俺の疑問に答えるように、空中に説明の文字が浮かぶ。

 だけど──なんだこれ?
 説明を見ても、今一つ具体性がなくて分からない。

 もう一回念じてみたけど、それ以上の詳細な説明は表示されなかった。

「どうした、手詰まりか?」

 アグエルが俺に向かって右手をかざす。
 光弾を放つ構えだ。

 もう『ヤタノカガミ』も他の神造級武具も作れない。
 かといって、ランク4以下の武器を作ったところで対抗できるとは思えない。

 なら、ここはEXランクの創生物に賭けてみるか。
 他に有効な手段がない以上、迷っていても仕方ない。

 一か八か、だ。

EX創生発動エクストラクリエイション──」

 俺はスキル発動のためのキーワードを告げた。
 刹那、



 純白の輝きが──あふれる。



「うっ……!?」

 まるで太陽が炸裂したような、鮮烈な輝き。
 温かくて、癒されるような光。

 それは天空にまで立ちのぼり、まばゆい光の柱と化した。
 さらに周囲にも白い輝きが広がっていく。

 辺りが白一色に覆われた。

「創世神クラスの神気だと……!? 馬鹿な!」

 アグエルが叫ぶ。

 一体、これから何が起きるんだ。

 できるなら……堕天使を退け、村を守るような効果を発揮してほしい。
 そう願ったけど、それ以上の変化は起きなかった。

 攻撃でも、防御でもない。
 ただ白い空間が広がっているだけだ。

 俺のスキルは発動しなかったのか?
 不発だったんだろうか?

「何をしたのか知らんが、これで終わりだ!」

 アグエルが光弾を放つ。

「くっ……」

 迫りくる光弾を、俺は見つめることしかできなかった。

 もはや、なすすべがない。
 ノエルも、マキナも、動けない。

 このまま吹き飛ばされる──。

「えっ……!?」

 突然、光弾が消滅した。

 きれいさっぱり。
 純白の空間の中に溶けるように、消えてしまったのだ。

「なんだ……!? 俺の攻撃が、かき消された……!」

 アグエルの、戸惑った声。

「このっ……!」

 さらに光弾を放つ堕天使。
 だが、何度撃っても同じだった。

「まさか、空間変異か……!? 人間ごときが、神に比肩する能力を!」

 アグエルが愕然と叫ぶ。
 と、

「そこの村人くん、フォロー感謝っ!」

 上空から竜騎士が突っこんできた。
 青い髪をショートヘアにした活発そうな女の子だった。

「攻撃さえ封じれば──後は私が、愛と正義の一撃を叩きこんであげるっ! ひっさーつっ!」

 高らかに叫び、剣をかかげる竜騎士少女。

「『竜咆斬ヴィレーザソード』!」

 振り下ろした剣から、輝く刃が射出された。

「このっ……!」

 アグエルは赤い光壁を作り出し、防御する。

 だが──、

 ばぢっ、ばぢぃぃぃっ!

 耳障りなスパークとともに、その光壁に無数の亀裂が入った。
 押しているのは、竜騎士だ。

「ち、力が抜けていく……なぜだ……!?」
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」

 さらにもう一撃。

 竜騎士が放った二発目の『竜咆斬ヴィレーザソード』が光壁を粉々に砕き、アグエルの体を貫いた──。



「やったか……?」

 俺は息を飲んで、アグエルを見据える。
 胸元を光刃で貫かれ、倒れた堕天使は、しかし、

「はあ、はあ、はあ……」

 荒い息をつきながら、なおも立ち上がった。

 黒い甲冑はボロボロになり、裂け目から光の粒子がまるで血のようにこぼれ落ちている。
 見た感じ、かなりのダメージを負っているみたいだ。

 それでも、まだ戦えるのか。

「……いえ、カイル様。様子が変です」

 と、ノエル。

「えっ……?」

 俺は呆然と目の前の堕天使を見つめた。

 いや、堕天使──なのか?

 その姿がかすみ、変化していく。

 黒い甲冑はまるでタキシードみたいなデザインに変化し、胸元にはネクタイ。
 さらに、その顔は先ほどまでの怒りや闘志が完全に消え、穏やかなアルカイックスマイルを浮かべている。

 邪気なんてまったくない。
 堕天使というより、まるで天使のような──。

「おお、生まれ変わったようです。気分爽快です!」

 アグエルが歓喜の叫びを上げた。

「え、えっと……」
「あ、わたくし、心を入れ替えました。もう悪ではありません。正義です。いい奴です」
「自分で自分をいい奴とか言われると、イマイチ信用しづらいんだが」
「まったく……なぜ人間を殺し、町を破壊しようと思ったのか……自分で自分に腹が立ちます。これからは心を入れ替え、清く正しく生きていく所存です」

 キリッとした顔で宣言する、タキシード(?)姿のアグエル。
 一体、何がどうなってるんだ……!?

「あなたの作りだした空間が、わたくしを浄化してくれたのです。身も心も、魂も──いやぁ、素晴らしい」

 俺の作りだした空間?
 まさか。

「【浄化の領域】って──そういうこと、なのか?」

 俺はようやく悟った。

 今生み出したEXランク創生物の正体を。

 周囲を満たす、この白く輝くフィールド。
 それ自体が創生物。

 おそらくは、

「邪悪な存在を浄化し、聖なる存在に変えてしまう空間──?」
「これからのわたくしは天使として、人の役に立てるようがんばるつもりです」

 ぐっと親指を立て、やたら爽やかな笑みを浮かべるアグエル。
 まさかの変わりように、俺は呆然としていた。



 ──何はともあれ、アグエルが無害化したようなので、俺は【浄化の領域】を解除した。

 説明を見ると、効果時間は次回以降に持ち越しできるらしい。
 さっき400秒ちょっと使ったため、残りは215秒と表示されていた。

 また今回みたいな敵が出てきたら、使ってみよう。

「すごいです、カイル様! やっぱり絶対無敵です! 熱血最強です!」

 ノエルがはしゃいでいる。

「おおげさだよ、ノエル」
「……えっ? 今『ノエル』って……?」

 さっきの竜騎士の声だ。

 青い竜が着地し、彼女は地面に降り立った。
 俺からノエルへと視線を移し、呆然とした表情になる。

「うそっ!? ノエル様じゃないですかっ!」
「ん?」

 振り向くノエル。

「あー! サーシャちゃん!」
「ご無沙汰しております! 覚えておいででしたか……!」

 竜騎士少女──サーシャはノエルの元へ駆け寄り、深々と頭を下げた。

「サーシャちゃん、竜騎士になったんだねー」
「はい! ノエル様が国を去ってから、一年ほど後に……」

 どうやら二人は知り合いのようだ──。
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