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第2章 守りたい場所

5 守りたい場所

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 俺は戦場に到着した。

 周囲の家屋はほとんど粉々に吹き飛び、炎に包まれている。
 住民の姿が見えないのは、すでに避難を終えたということだろうか。

 前方には黒い堕天使が、それと対峙するようにエルフの少女ともう一人、竜に乗った少女がいた。
 冒険者だろうか?

 どうやら二人で協力して戦っていたようだ。

「カイル……」

 はあ、はあ、と荒い息をつくマキナ。

 美しい銀髪も白い肌も、痛々しい血がにじんでいた。
 傷だらけだ。

 だけど、その瞳に宿る闘志はまったく萎えていない。

「よくがんばったな」

 俺は彼女に微笑んだ。

「後は任せてくれ」
「報告の映像で見たぞ。貴様が煉獄れんごく騎士きしを倒した男か──」

 黒い堕天使が俺に向き直った。

 よく見ると、さっきとは少しデザインが違う。
 より凶悪な印象に変わっていた。

「見たところ、平凡な身体能力しか持っていないようだな。魔力もまったく感じない。だが──」

 アグエルは俺をジッと見つめた。

「……見えるぞ、貴様に宿る神の力が。それも創造神に連なる、最高位のスキルだ。なぜ人間ごときがこんな力を持っている」
「友だちからもらったんだよ」
「ふん、神々は気まぐれだからな。まあ、俺も元は天使だったから、そういう事例はいくつも見てきたが──」

 鼻を鳴らすアグエル。

「力の由来などどうでもいいか。俺は、俺が新たに手に入れた力を存分に試すことができれば、満足だ」
「じゃあ、試してみろ」

 手持ちのポイントは183000。
 それを確認し、俺はスキルを発動した。

 こいつは最低でもSSSランクの強さを持っている。
 最初から神造級武具を食らわせ、一撃で倒すのが上策だろう。

 俺自身の戦闘スキルは、あくまでもEランク冒険者のそれだからな。
 長期戦にはしたくない。

「──行け。そして、貫け」

 51000ポイントを消費し、生み出す。
 まばゆい輝きを放つ二本の直刀を。

「『燐光りんこうの双剣フラガラッハ』」

 以前、煉獄騎士を倒したランク5の創生武具だ。
 一撃必殺の威力と、自動追尾機能を併せ持つ強力無比な武器。

 フラガラッハは黄金の軌跡を描き、アグエルへと向かっていく。

「ふははははは! 知っているぞ、煉獄騎士を殺した武器だろう!」

 アグエルの全身から黄金のオーラが立ちのぼった。

「拒絶せよ!」

 雄たけびとともに、真紅に輝く六角形のフィールドがその前面に出現する。

 同時に、飛来する双剣が──フラガラッハが突然その軌道を乱した。
 がらん、とその場に転がる二本の直刀。

「えっ……!?」

 自動追尾機能が作動しない──。

「燐光の双剣フラガラッハ。魔を滅するための聖なる剣。その能力は魔の気配を探知し、世界の果てまでも追っていく自動追尾」

 アグエルが笑いながら説明する。

「俺は元天使だからな、聖なる武器の特性なんて全部知ってるんだよ。今のは、俺の中に残る『聖性』を抽出し、魔の気配を覆い隠した」

 地面に転がったフラガラッハを拾い、背後に放り投げるアグエル。

「だから、フラガラッハは俺を追尾できない。聖なる気配をまとった俺を傷つけることすら、な」
「こいつ──」

 武器の相性に合わせた戦法を取ってくるとは。
 戦い慣れしている……!?

「強力な武器をただぶつけるだけでは勝てんぞ。煉獄騎士ならともかく、この俺には!」

 告げて、光弾を放つアグエル。

「くっ……何か防ぐものを!」

 俺はとっさに『防御』をイメージした。
 次の瞬間、前方に八角形の鏡のようなものが出現し、アグエルの光弾を跳ね返す。

 創生物ランク5──『清冽なる聖盾ヤタノカガミ』。
 消費ポイントは62000。

 敵意ある攻撃なら、物理魔法を問わず反射する能力を持った聖なる盾。
 俺のイメージに合わせ、スキルが最適な武具を作ってくれたらしい。

「まだまだぁっ!」

 アグエルはなおも光弾を連発してきた。

 すべて跳ね返すものの、ヤタノカガミがだんだんとぼやけ、薄れていく。
 霊体である神造級武具は、長時間この世界に留めておくことができないのだ。

「このままじゃ押しこまれる──」

 俺はもう一つヤタノカガミを作り出した。

 残りのポイントが70000から8000まで減る。

「このーっ!」

 と、上空から竜騎士が堕天使に斬りかかった。

「無駄だ!」

 だけど、向こうもアグエルの光弾群に近づけないらしい。
 一発の攻撃力も連射性能も、高すぎる──。

「しかも、これ以上ヤタノカガミを作ることはできないし……」

 いや、ヤタノカガミだけじゃない。
 このポイントだとランク5の神造級武具はもう作れない。

 リストを呼び出して確認したが、一番消費ポイントが少ない『聖槍グングニール』でも50000必要だった。
 とても、足りない。

「カイル様……」

 ノエルが心配そうに俺を見ている。

「もう攻撃の手立てがない」

 説明する俺。
 ランク5の創生物は強力だけど、消費ポイントが高すぎる。
 しかも時間制限があるし。

 かといってポイントを温存していたら、一気に押しこまれてしまう。

「後は、奴が元の世界へ帰るまで逃げるしかないか」

 竜騎士は味方みたいだけど、連携したところで堕天使に対抗するのは難しいだろう。
 と、

「手詰まり、といったところか?」

 アグエルがにやりと笑った。

「煉獄騎士を倒した男も、俺には敵わないということだな。いや、俺が強くなりすぎてしまったのか。神に起因する力は、こころの在り様によって出力や効果が劇的に変わるからな」

 神に起因する力……か。
 それは、もしかしたら俺のスキルも──?

「俺は『怒り』によって、己の力を覚醒させた。まだまだ俺は強くなれる……くくく、嬉しいぞ。いずれは神や邪神さえも超えてみせる」

 アグエルは悦に入ったように演説していた。

神養成学校カミスクールで落ちこぼれて天使にしかなれず、さらに堕天使へと落ちていった俺が、神クラスになるのだ! はーっはっはっはっ! あのとき俺を見下した神ども、天使ども! いずれ俺が倒してやるからな!」

 事情はなんとなく想像できるが、なんだか暗い情念を燃やしているみたいだ。

 それにしても──邪神の配下は、やっぱりとんでもない強敵である。

 こんな連中が来るたびに、村を焼き払われ、多くの人たちが恐怖におびえるのか。
 追い払う手だてはないのか。

「俺が、この村を守る手立ては──ないのか」

 逃げるのは、手段の一つだ。
 だけど──。

 もっと強い力が欲しい。
 もっと強い武器が欲しい。

 幸せに過ごすために、この力を使いたいけれど。
 必要なのは、戦う力だ。

 俺の──そして、みんなの平和や幸せな生活を守るために。

 敵を、砕く力。

「そんな、力を……!」

 俺は願った。

 心を込め、こころを込めて。

 ただ強く──どこまでも強く、願う。



『EXランク創生物候補』



 突然、空中にそんな文字が現れた。

「EXランク? あ、そういえば……」

 以前にランク5の創生物『イージスガード』を作った際、EXポイントというものを得られた。
 ランク5の創生物を三つ作成するごとに得られ、EXランクの創生物を作成するための専用ポイントだ──と説明文にあった。

 俺が今までに作ったランク5の創生物は神造級武具の『グングニール』、『フラガラッハ』二本、『ヤタノカガミ』二つ、そして『イージスガード』。

 つまり、EXポイントをちょうど二回得ているはずだ──。
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