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81.Twitterでこんな人みたことある
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一瞬固まった農夫は、震えだした足で何度か転びながら逃げていった。まだ降りきっていない跳ね橋をよじ登るようにしてむこうの領域へと疾走していく。みんなが指さして笑う中、隣にやってきたルカだけは心配そうな声で呟いた。
「あの国は無法地帯だなんて、言いふらされたら困りますが……」
「大丈夫でしょ、それを言うには自分のした事もバラさなきゃいけないわけだし」
リカルドに言って法律制定のお知らせを向こうでも発表してもらう予定だしね。と続ける。実は草案はすでにできているので後はもう少し整えて発表するだけなのだ。その時『ゲコ』と言う鳴き声が背後から上がる。
「どうやら原因も対処できたようだの。こちらもひと段落ついた。蒸留水をたらふく飲ませたから後は出すもの出してゆっくりすれば回復するじゃろ」
「ありがとう先生、居てくれて本当に助かった」
一瞬でも疑ってごめんなさい、と苦笑いしながら伝えると、彼はその大きな口をニンマリと裂いて楽しそうにコロコロと笑った。村の人たちがあんな言い方するんだもんなぁ、実際はドク先生の助けを求めて呼んでただけだったのね。
「年寄りは脱水がちと心配だから城の救護室で数日様子を見るぞ、手首と鎧を数日貸しておくれな」
先生はそう言い残し城に帰っていく。ゴツゴツと曲がったその背中を見る目がこれまでとは違うものに変化していることに私は鼻を高くした。どうだ、彼を仲間に引き入れて正解だったでしょ?
しかし上下水道の完備か……これは本格的に街の施設づくりに本腰入れないと。
***
城に帰った私に嬉しい再会が待っていた。正面扉の前で待ち構えていた『彼』が、宝石みたいな青い瞳を輝かせながら両手を伸ばしてトタタ……と、駆けてくる。
「魔王様! お久しぶりでございますニャ!」
「あの時のっ」
そのままの勢いで抱きかかえた私は持ち上げてクルッと一回転する。メルスランドの首都で奴隷になっていたケットシ―君は、下ろしてあげると膝を着いて漢泣きを始めた。
「くぅぅ、こうしてまたお会いできる日が来ようとは、ミャーはこんなに幸せでよろしいのでしょうか! にゃううう! にゃううう!」
「あはは……相変わらずだなぁ」
おーいおいおいと泣き続ける彼に苦笑する。ブルーグレーの毛並みはあの時に比べて少し艶が出て来たようだ。見られていることに気が付いたのか、ピシッと居住まいを正したケットシ―は片膝を着いて前足を胸に当てた。
「申し遅れたニャ、その切は気が動転しており名乗る事すらせずにとんだご無礼を」
キリッとこちらを見上げる眼差しに不覚にもときめいてしまう。やだ、可愛いのにカッコいい……!
「ミャーはカギシッポ族が長・マニャーが長男、ナゴと申しますニャ。魔王軍改め、ハーツイーズ国の末席に加えて頂きたく、遅ればせながら馳せ参じたニャ」
「ナゴ君、ここまでの道のり本当にお疲れ様。あなたが走り回ってくれたおかげで、ケットシ―の仲間はほとんどこっちに来れたみたい」
ポツポツと部族ごとにやってきたケットシ―たちは、みな口を揃えてナゴ君の功績を称えていた。首輪の外し方を知り得た彼は、掴まっていた奴隷を解放するため各地を奔走し英雄となっていたのだ。
「これからよろしくね」
「ニャッ!」
誇らしげにピンッとひげを張るナゴ君。そこで私はようやく再会した当初から気になっていたことを尋ねることができた。
「ところでその、ブーツと服はどうしたの?」
「ニャ……」
実は彼、妙に目立つ衣装を着込んでいた。ピカピカに磨き上げられたブーツにやや華美で機能的とは言えなそうな礼服。まるで『長靴をはいた猫、謁見ver』なんだけど、どこか堅苦しそうに身をよじっている。耳を垂らしてテンションが落ちたところを見ると、どうやら本人の趣味で着ているわけでは無さそうだ。ナゴ君は途方に暮れたようにフリル付きのシャツを引っ張った。
「それがここに着くニャり――」
「見~つ~け~た~ぁぁぁあああ!!!」
「にぎゃーっ!!」
全身の毛を逆立てた猫が腰を抜かしへたり込む。声のした方を向いた私は目を見開いた。声の主は薄緑の髪の毛を三つ編みのおさげにした女の子だ。大きな丸眼鏡が特徴的で、シックなワンピースの上に清潔そうな白い前掛けをかけている。見た目だけなら大人しそうな少女なのだけど、動作が全てを台無しにしていた。にわかには信じられないと思うけど……その、四つん這いになってこちらに這って来ている。
「なんでぇぇどうして逃げるんですかぁぁ、お着替えしましょうよ~」
「ミャウウウ! 魔王様ぁぁ」
這いよるナニカは目を光らせながらナゴ君の周りをグルグルと回り出す。ところが「魔王」という単語を聞いた途端、彼女はピタッと動きを止めてこちらを見上げた。後ろで控えていたルカと私を交互に見やった後、いきなり口をバッと抑えて滂沱の涙を流し始める。
「尊い……」
「へ?」
そのまま蹲ってしまった彼女は何やらブツブツ呟きだす。耳を澄ますとものすごい早口な独り言が聞こえて来た。
「ムリムリムリムリ、直視できない新聞で見るよりオーラやばい、浄化される」
+++
手首です。い、いったいなんだったんでしょう…いきなりわたくしに白い帽子を被せて「白衣の天使!」とか仰って鼻血噴いてぶっ倒れましたけど…そのあとナゴさんを見つけて奇声をあげてタックルされていましたが…
「あの国は無法地帯だなんて、言いふらされたら困りますが……」
「大丈夫でしょ、それを言うには自分のした事もバラさなきゃいけないわけだし」
リカルドに言って法律制定のお知らせを向こうでも発表してもらう予定だしね。と続ける。実は草案はすでにできているので後はもう少し整えて発表するだけなのだ。その時『ゲコ』と言う鳴き声が背後から上がる。
「どうやら原因も対処できたようだの。こちらもひと段落ついた。蒸留水をたらふく飲ませたから後は出すもの出してゆっくりすれば回復するじゃろ」
「ありがとう先生、居てくれて本当に助かった」
一瞬でも疑ってごめんなさい、と苦笑いしながら伝えると、彼はその大きな口をニンマリと裂いて楽しそうにコロコロと笑った。村の人たちがあんな言い方するんだもんなぁ、実際はドク先生の助けを求めて呼んでただけだったのね。
「年寄りは脱水がちと心配だから城の救護室で数日様子を見るぞ、手首と鎧を数日貸しておくれな」
先生はそう言い残し城に帰っていく。ゴツゴツと曲がったその背中を見る目がこれまでとは違うものに変化していることに私は鼻を高くした。どうだ、彼を仲間に引き入れて正解だったでしょ?
しかし上下水道の完備か……これは本格的に街の施設づくりに本腰入れないと。
***
城に帰った私に嬉しい再会が待っていた。正面扉の前で待ち構えていた『彼』が、宝石みたいな青い瞳を輝かせながら両手を伸ばしてトタタ……と、駆けてくる。
「魔王様! お久しぶりでございますニャ!」
「あの時のっ」
そのままの勢いで抱きかかえた私は持ち上げてクルッと一回転する。メルスランドの首都で奴隷になっていたケットシ―君は、下ろしてあげると膝を着いて漢泣きを始めた。
「くぅぅ、こうしてまたお会いできる日が来ようとは、ミャーはこんなに幸せでよろしいのでしょうか! にゃううう! にゃううう!」
「あはは……相変わらずだなぁ」
おーいおいおいと泣き続ける彼に苦笑する。ブルーグレーの毛並みはあの時に比べて少し艶が出て来たようだ。見られていることに気が付いたのか、ピシッと居住まいを正したケットシ―は片膝を着いて前足を胸に当てた。
「申し遅れたニャ、その切は気が動転しており名乗る事すらせずにとんだご無礼を」
キリッとこちらを見上げる眼差しに不覚にもときめいてしまう。やだ、可愛いのにカッコいい……!
「ミャーはカギシッポ族が長・マニャーが長男、ナゴと申しますニャ。魔王軍改め、ハーツイーズ国の末席に加えて頂きたく、遅ればせながら馳せ参じたニャ」
「ナゴ君、ここまでの道のり本当にお疲れ様。あなたが走り回ってくれたおかげで、ケットシ―の仲間はほとんどこっちに来れたみたい」
ポツポツと部族ごとにやってきたケットシ―たちは、みな口を揃えてナゴ君の功績を称えていた。首輪の外し方を知り得た彼は、掴まっていた奴隷を解放するため各地を奔走し英雄となっていたのだ。
「これからよろしくね」
「ニャッ!」
誇らしげにピンッとひげを張るナゴ君。そこで私はようやく再会した当初から気になっていたことを尋ねることができた。
「ところでその、ブーツと服はどうしたの?」
「ニャ……」
実は彼、妙に目立つ衣装を着込んでいた。ピカピカに磨き上げられたブーツにやや華美で機能的とは言えなそうな礼服。まるで『長靴をはいた猫、謁見ver』なんだけど、どこか堅苦しそうに身をよじっている。耳を垂らしてテンションが落ちたところを見ると、どうやら本人の趣味で着ているわけでは無さそうだ。ナゴ君は途方に暮れたようにフリル付きのシャツを引っ張った。
「それがここに着くニャり――」
「見~つ~け~た~ぁぁぁあああ!!!」
「にぎゃーっ!!」
全身の毛を逆立てた猫が腰を抜かしへたり込む。声のした方を向いた私は目を見開いた。声の主は薄緑の髪の毛を三つ編みのおさげにした女の子だ。大きな丸眼鏡が特徴的で、シックなワンピースの上に清潔そうな白い前掛けをかけている。見た目だけなら大人しそうな少女なのだけど、動作が全てを台無しにしていた。にわかには信じられないと思うけど……その、四つん這いになってこちらに這って来ている。
「なんでぇぇどうして逃げるんですかぁぁ、お着替えしましょうよ~」
「ミャウウウ! 魔王様ぁぁ」
這いよるナニカは目を光らせながらナゴ君の周りをグルグルと回り出す。ところが「魔王」という単語を聞いた途端、彼女はピタッと動きを止めてこちらを見上げた。後ろで控えていたルカと私を交互に見やった後、いきなり口をバッと抑えて滂沱の涙を流し始める。
「尊い……」
「へ?」
そのまま蹲ってしまった彼女は何やらブツブツ呟きだす。耳を澄ますとものすごい早口な独り言が聞こえて来た。
「ムリムリムリムリ、直視できない新聞で見るよりオーラやばい、浄化される」
+++
手首です。い、いったいなんだったんでしょう…いきなりわたくしに白い帽子を被せて「白衣の天使!」とか仰って鼻血噴いてぶっ倒れましたけど…そのあとナゴさんを見つけて奇声をあげてタックルされていましたが…
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