召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

文字の大きさ
56 / 216

47.チームカラーをお選びください

しおりを挟む
 渇いた匂いと日差しの合間に男たちの怒号が響き渡り、その場に立っているだけでビリビリと肌が震えるようなそんな空気に圧倒される。

 目を見開いた私の前で、両サイドから突進してきた兵がぶつかり合った。そのまま彼らは殴りあいの乱闘を始め、あっという間に辺りは熱気に包まれる。

 あまりの気迫にヘタりこみそうになるのを踏ん張りつつ、私はかき消されそうになる騒音の中なんとか声を張り上げた。

「なにこれ、戦争!?」
「模擬戦だ、武器なし・殴り合いのみ可。敵陣営の旗を先に取った方の勝ち。負けたら筋トレDコース五セット追加」

 横で腕を組んだラスプが平然と答える。なるほど陣取り合戦ってことね。


 ここは村から少し離れたところにある草原。自警団に志願してくれた彼らは農作業の無い空き時間を使ってここで鍛錬しているそうだ。

「うおぁぁぁぁああああ!!!」
「だらああああああ!!!」
「もらったあああ!」
「てめェら! 地獄のDコースは何としても回避するぞ!!」
「応ッッ!!」

 ガラ悪ぅ……確かに、これは知らない人から見たら本気で戦争やってると思われても仕方ない迫力だ。人やゴブリンやスライムやらが入り乱れてすさまじいことになっている。っていうかこれほどまでに回避したがる【地獄のDコース】っていったい……。

 他にはどんなメニューをやってるのか聞こうと私は横に居る警備隊長さんの方に顔を向ける。と、彼はすぅっと息を吸い込んだ。

「? ラス――」


「全員、止め!!! 注目!!!!」


 まるで大砲のような怒号に、それまで乱闘をしていた兵たちがピタッと動きを止めこちらにピシッと向きなおる。

 よし。と、頷いたラスプは腰に手を当てながらこちらに振り返った。

「どうだ? 号令一つで動きの統率は取れるよう訓練して……おい、どうした」

 驚きのあまり腰が抜けたこちらの首根っこを掴んで、隊長は私を強制的に立たせる。だ、だだだって、びっくりして、音で脳みそひっぱたかれたような、そんな感覚、いぎ、あが

 まだ耳の奥がキーンとなりながらも何とか立つ。再び陣取り合戦を始めた自警団を見つめながら、私は総評を下した。

「お、おぅけい、このたんきかんで、じゅうぶんだと、おもいまふ」
「……大丈夫か? 舌回ってねぇぞ」
「うぁー、あ、あ、あー」

 何度か声を出し、いつもどおりの声が出ることを確認。よし

 ぶるっと頭を振ってから、私はこの合戦を見て思いついた事を提案してみた。

「誤解を避けるためにみんなでお揃いの物をつけるってどう?」
「おそろい?」

 片眉を跳ね上げて怪訝な顔をするラスプに、私は自分の腕や額に布を巻くようなジェスチャーをしてみせる。

「そう、たとえば余ってる布をみんなで着けて「僕たちはみんな同じ軍の物です、喧嘩してるわけじゃありません」ってアピールするの。村の女の人たちに言ったら用意してもらえるんじゃない?」
「けどよ、バンダナ着けてるヤツなんて珍しくもないぞ。ほらアイツも、そっちも」

 彼の言う通り、いまだ衝突を続けている人たちの中にはすでに着用している者も少なくない。

 ここで口の端をつり上げてみせた私は、指を二本ピッと突き立てて続けた。

「だからね、二つ色を組み合わせて自警団のシンボルカラーを作ろう。さすがに二色の組み合わせで偶然かぶるっていうのはなかなか無いでしょ?」

 本当はおそろいの制服でもあれば良いんだけど、とりあえずは間に合わせでね。


 その後、村の女の人たちに事情を伝えると快く引き受けてくれた。手に入れやすい白×必要数を揃えられそうな色の布を用意してくれるとの事だ。

「これで誤解される心配は少なくなったと思うよ」
「ふーん、相変わらずおもしろい事考えるよな、これも元いた世界の知識か?」

 試作の白と緑色の布を手に取りながらラスプがそう尋ねる。私は白と青を組み合わせながら頷いた。あ、この組み合わせ爽やかでいいんじゃない? 悪いことしなさそう。

「運動会って言う、身体能力をチームで競うイベントがあってね、仲間を見分けやすくするために同じ色のハチマキを着けるの。そこからヒントを得た感じかな」
「ウンドウカイ? 面白そうだな、今度訓練に取り入れてみるか」

 魔族が入り乱れたらすごい運動会になりそうだなぁ、と苦笑しながら、ここでの用件は済んだのでライムの関所まで送ってもらう。

「コイツを送ってくるから、戻るまでに決着つけておけ」
「了解しました! あの隊長、お戻りになられましたら、自分見て頂きたい型があるのですが……」
「あぁ戻ったらな。後は頼んだぞ」
「はいっ」

 軽く手をあげて歩き出した彼に、私はニヤつきながら話しかけた。

「なかなかサマになってるじゃないですかぁ~隊長さん」
「うるせぇ変な顔すんな。……アイツらは善意で集まってきてくれたんだ。預かった以上は責任持って見るべきだろ」

 うん、やっぱり自警団の隊長はラスプに任せて正解だった。


 途中畑を見張ってるわーむ君に手を振りながら歩いていると、村人たちの顔つきが何となく明るくなっているように感じる。少なくともライムのおねだり襲撃事件の時のような悲愴さはない。まっくらで前も後ろも見えなかった足元に、少しだけ道が見えて来たような感覚なんだろう。

「村を出ていった若いヤツらも、戻って来てくれればいいんだけどな」
「それはまだまだ時間が掛かるよ、でもそうなってくれたら嬉しいよね」

 全員が故郷を捨ててまで出て行きたかった訳ではないはずだ。

(帰る場所、か)

 私のふるさとは、もちろん日本の住み慣れたあの我が家だ。それは間違いない。

 だけどいつか向こうに帰った時、この世界も恋しいと思うようになるんだろうか? このお城と、土地と、みんなの事を。

◇◆◇

【手首ちゃんの一言コーナー】

手首です。なんだか本編ではお久しぶりな気がしますわね
ところで自警団のウワサを小耳に挟んだのですが、どうやら【地獄のDコース】のDとは、デス(death)の頭文字なんだとか…ぶるぶる
ですがよく考えたら我が城には本物のデス様がいらっしゃいましたよね。きつーい特訓メニューとグリ様はどうやったって結び付けられません、よねぇ?
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...