131 / 156
12-ヒロイン症候群(シンドローム)
131.少女、召される。
しおりを挟む
宴の熱も夜半を過ぎれば鎮まる。
騒ぎ疲れた皆が寝静まる頃、水の精霊はひっそりと静まり返ったテラスで一人壁を背に寄りかかっていた。
足元の小石を蹴ると入れ替わるように薔薇の花びらが一枚ひらりと舞い込んでくる。続けて多少芝居がかった声が場に響いた。
「やぁ~ルゥちゃん。浮かない顔をしてどうしたんだい? 七百年ぶりの再会なんだ、喜び合おうじゃないか」
「お主は相変わらずよのぅ……あとそんなに経ってない。尺度がおかしい」
渦巻いた風の中から薄緑の髪をなびかせた優男が現れる。その右隣で炎が爆ぜ、左では土がせり上がる。少し遅れて男がそれぞれ出て来た。
再集結した四大精霊はそれぞれ顔を見合わせると懐かしそうに微笑んだ。
「『ゆかいなしもべ軍団』ここに再結成だね」
「主たるユーナは居らぬがな」
重々しく言った火の精霊にルゥリアがビクッと跳ねる。その様子をみたガザンは溜息をついたかと思うと少しだけ傷ついたように言った。
「そなた、まだ我が苦手なのか」
「ううううるさいっ、わらわは忘れぬぞ! あれだけ礼儀作法がどうとかグチグチグチグチ小言を言いおって、オカンか! そちはわらわのオカンか!!」
「やれやれ」
「あーれぇぇ、ノッくんひっさしぶり~ウン千年ぶり?」
「……シルミア、前々から思ってたけどきみ、わたしのこと嫌いだろう」
かつてと全く変わらないやりとりを交わした四柱は天を――明日ニチカに同行し昇ることになっている天界を仰いだ。その表情は皆一様に不安を含んでいて重苦しい。
精神的に幼いルゥリアはその不安を流すことが出来なかったようだ。沈黙を破りそれを口に出してしまう。
「のぅ……わらわは直接会うてはおらんのじゃが、イニのやつまさか」
その肩に優しく手を置いて制止したのはシルミアだった。諭すようにゆっくりと言う。
「ルゥちゃんやめよう。誰が聞いてるかわからない、それにまだ決まったわけじゃないよ」
どうかそうであってくれと祈るような響きだ。残る二人も平坦な口調で『事』を表出すことを避けた。
「彼奴がどういう動きに出るかは分からぬ、だがユーナは我らにとって必要な存在なのだ」
「わたしたちは見守るしかできないよね」
夜のしじまの中、ルゥリアは泣くのを我慢しているかのように下唇を噛みしめた。
夜明けは近い。
ニチカがこの世界で迎える最後の朝が、すぐそこまで迫っていた。
***
夜明け前の涼しい風が髪の毛をなびかせ前へと浚う。
髪を耳にかけながらニチカは東の明け空に目を向けた。
黒から濃紺、深い青、水色、白金へと降りていくグラデーションの中で、キラリと光る明け星が夜空に留められたブローチのように輝きを放つ。
これまでの旅で幾度と見てきた朝。けれどもこの光景だけは忘れられない物になるだろう朝。
(願わくばもう一度この景色を見れますように)
祈りの形に指を組みそっと願う。その祈るべき神の声が背後から響いた。
『ニチカ君、久しぶりだな。元気だったか?』
ゆっくりと振り向けばボンヤリと金色に輝くイニの姿が遠くにあった。そこに到るまでの両脇には四大精霊の皆々と、見送りの為に屋上に集まってくれた親しい人たちが並んでいる。
その中を進んだニチカはイニの前に来るとコクンと頷いて背筋を伸ばした。ベルトに付けていた魔導球を外し両手で胸の前に捧げ持つ。
「ここに居る4人の精霊様に掛け合って、チカラを貸して貰えることになったわ」
『……見事だ』
普段のふざけた雰囲気はどこへやら、神は厳かに頷き微笑んだ。
透けているその手をスッと振るとまるでエスカレーターのように天から斜めに光が降りて来る。
光は彼の横に着地したかと思うと白く半透明な台座を出現させた。
『最後の仕事だ。その魔導球を持ち四大精霊と共にこちらまで上って来て欲しい。そこでユーナを復活させよう』
「その台に乗ればいいの?」
『うむ。何も難しいことは無い』
そこでオズワルドの方を向いたイニは予想外の提案を彼にした。
『ニチカ君と精霊たちの他に一名くらいなら乗れそうだが、君も来るかね?』
何とか丸め込んで自分も同行させようとしていた男は面食らったように瞬きを一つした。不審そうに片方の眉を跳ね上げたが異を唱えることはせず無言で頷く。
「それじゃあみんな、元気でねっ」
トンと台座に乗ったニチカは振り向いて元気よく片手を上げた。それを合図にあちこちから送り出しの言葉やすすり泣きが上がる。
(最後は笑顔……最後は笑顔!)
これはずっと前から決めていたことなのだ。みんなの記憶に残る最後の自分がブサイクな泣き顔になるなんて悲しいではないか。
すぅっと息を吸い込んだニチカは、流れる涙はそのままに精いっぱい笑った。
「行ってきます!」
台座が浮き上がりみんなが少しずつ小さくなっていく。
「ニチカぁぁーっ!!」
「ウルフィ……っ」
堪えきれなくなったウルフィが涙をボロボロと零しながら後を追いかけて来る。
屋上の端でようやく急ブレーキをかけた彼は涙を振り払ってちぎれそうなほど尻尾を振った。
「いってらっしゃい!」
「うん、うんっ!! またね!」
少女は最後まで手を振り続けた。
雲の向こうに魔法学校の城が消えた瞬間、師匠にしがみついて大声を上げて泣いた。別れがこんなにもツラい……。
「……」
「ルゥちゃん?」
少しずつ落ち着いて来た頃、水の精霊がニチカの服にしがみつく。その顔は泣くのを堪えているかのように歪んだものだった。
泣くだけ泣いて少しスッキリした少女はその震える小さな頭に手をやり撫でてやった。
「またすぐ戻ってくるから、泣かないで」
「ニチカ……許せよ」
「え?」
小さく呟いた言葉は周りの風の音にかき消されよく聞こえなかった。
やがて光の行く先に空中に浮かぶ巨大な白い建物が見えて来る。
はたしてイニとの取り引きを上手く成功させることが出来るのだろうか。
ニチカは胸の辺りでギュッと手を握り締めた。
***
まぁ正直あたしも少しなら良いかなぁって思ってたんだ
でもさ、どんどん調子に乗ってもう取り返しのつかないところまで来ちゃった
例えるなら舞台の上でクルクル回っている彼女を誰も居ない観客席で見つめている気分
かなしい かなしい
ほらもうすぐ
おわりだよ 目覚める時だよ
「(壊れないといいね ニチカ)」
この声《セリフ》すら戯曲の一部なのかな、なんて
ぼんやりと考えていた
***
「大丈夫かい?」
パッと意識が切り替わる。何かを観ていたような気がしたが心配そうに覗き込んで来るノックオックに笑い返した時点で『それ』は綺麗さっぱり忘れてしまった。
いつの間にか光のエスカレーターは天空の島へと到着していた。顔を上げれば美しい白い城を背にした精霊たちと師匠が怪訝そうにこちらを見ている。慌てて微笑んで台座から飛び降りた。
「ごめんなさい」
天界とはふわふわした雲の上に宮殿でも建っているのかとイメージしていたが実際には巨大な島が丸ごと一つ浮いていた。
足で踏みしめたのはしっかりとした大地で草と小さな花が揺れている。思わず裸足で走り出したくなるこの原っぱが、地上何千メートルだと誰が思うだろうか。
しかし島の端からおそるおそる覗き込んでみれば霞がかった雲のはるか下には広がる大地が見えて、ここは確かに雲の上なのだと再確認させられる。
高所恐怖症ではないが後ろからポンと叩かれただけで寿命が数年は縮みそうだ。ゆっくりと後ずさり、イタズラ顔でいつの間にか背後に立っていた師匠を睨みつける。
「これが天界……」
振り返り、改めてその大きさに圧倒される。
すぐ正面にはエルミナージュの面積を3倍ほどに大きくしたような城。ファザードに使われている石段も縦に長い柱も、目に入る全ての材質が大理石に似た白い石で作られている。チリ一つ染み一つ無くまさに神が住むのにふさわしい景観だ。
ひんやりとする石造りの正面ポーチを歩きながらシルミアが関心したように口を開く。
「ここが『永久《とこしえ》の神殿』か、僕も来たのは初めてだよ」
「そうなんですか?」
その発言に同意するように他の精霊たちも頷く。ガザンも辺りを物珍しそうに見回しながら重々しい声でこう続けた。
「我らの管轄は地上のみ。上が接触して来る事もなければ招かれることもこれまで無かったからな」
「わらわ達がチカラを貸したのはユーナであって天界では無かったからの」
そうルゥリアもぼやく。彼女はため息が出るほど美しい神殿にはさほど興味はないようで腕を組みながら足を踏み鳴らした。
「にしても出迎えの一つもないとはどういうことじゃ。わらわは肌が渇いたぞ、泉はないのか」
その声に応えるかのように、正面の両開きの扉が少しだけ開く。だが待てど暮らせど誰かが出て来る気配は無かった。
「入ってこいって事かしら」
そこで一行は神殿内に足を踏み入れるのだが、中はガランとしていて人の気配がまるでしなかった。
正面の大階段には金色の翼が生えた厳めしい顔つきの老人の巨大な肖像画が飾られていてこちらを見下ろしてきている。
両脇にもズラリと老若男女の肖像画が並べられていることに気づく。例に漏れずどの人物も目玉が飛び出るような美形ばかりだ。イニにも言えることなのだが完璧すぎる美だ。どこか作り物めいた……
――来たか
騒ぎ疲れた皆が寝静まる頃、水の精霊はひっそりと静まり返ったテラスで一人壁を背に寄りかかっていた。
足元の小石を蹴ると入れ替わるように薔薇の花びらが一枚ひらりと舞い込んでくる。続けて多少芝居がかった声が場に響いた。
「やぁ~ルゥちゃん。浮かない顔をしてどうしたんだい? 七百年ぶりの再会なんだ、喜び合おうじゃないか」
「お主は相変わらずよのぅ……あとそんなに経ってない。尺度がおかしい」
渦巻いた風の中から薄緑の髪をなびかせた優男が現れる。その右隣で炎が爆ぜ、左では土がせり上がる。少し遅れて男がそれぞれ出て来た。
再集結した四大精霊はそれぞれ顔を見合わせると懐かしそうに微笑んだ。
「『ゆかいなしもべ軍団』ここに再結成だね」
「主たるユーナは居らぬがな」
重々しく言った火の精霊にルゥリアがビクッと跳ねる。その様子をみたガザンは溜息をついたかと思うと少しだけ傷ついたように言った。
「そなた、まだ我が苦手なのか」
「ううううるさいっ、わらわは忘れぬぞ! あれだけ礼儀作法がどうとかグチグチグチグチ小言を言いおって、オカンか! そちはわらわのオカンか!!」
「やれやれ」
「あーれぇぇ、ノッくんひっさしぶり~ウン千年ぶり?」
「……シルミア、前々から思ってたけどきみ、わたしのこと嫌いだろう」
かつてと全く変わらないやりとりを交わした四柱は天を――明日ニチカに同行し昇ることになっている天界を仰いだ。その表情は皆一様に不安を含んでいて重苦しい。
精神的に幼いルゥリアはその不安を流すことが出来なかったようだ。沈黙を破りそれを口に出してしまう。
「のぅ……わらわは直接会うてはおらんのじゃが、イニのやつまさか」
その肩に優しく手を置いて制止したのはシルミアだった。諭すようにゆっくりと言う。
「ルゥちゃんやめよう。誰が聞いてるかわからない、それにまだ決まったわけじゃないよ」
どうかそうであってくれと祈るような響きだ。残る二人も平坦な口調で『事』を表出すことを避けた。
「彼奴がどういう動きに出るかは分からぬ、だがユーナは我らにとって必要な存在なのだ」
「わたしたちは見守るしかできないよね」
夜のしじまの中、ルゥリアは泣くのを我慢しているかのように下唇を噛みしめた。
夜明けは近い。
ニチカがこの世界で迎える最後の朝が、すぐそこまで迫っていた。
***
夜明け前の涼しい風が髪の毛をなびかせ前へと浚う。
髪を耳にかけながらニチカは東の明け空に目を向けた。
黒から濃紺、深い青、水色、白金へと降りていくグラデーションの中で、キラリと光る明け星が夜空に留められたブローチのように輝きを放つ。
これまでの旅で幾度と見てきた朝。けれどもこの光景だけは忘れられない物になるだろう朝。
(願わくばもう一度この景色を見れますように)
祈りの形に指を組みそっと願う。その祈るべき神の声が背後から響いた。
『ニチカ君、久しぶりだな。元気だったか?』
ゆっくりと振り向けばボンヤリと金色に輝くイニの姿が遠くにあった。そこに到るまでの両脇には四大精霊の皆々と、見送りの為に屋上に集まってくれた親しい人たちが並んでいる。
その中を進んだニチカはイニの前に来るとコクンと頷いて背筋を伸ばした。ベルトに付けていた魔導球を外し両手で胸の前に捧げ持つ。
「ここに居る4人の精霊様に掛け合って、チカラを貸して貰えることになったわ」
『……見事だ』
普段のふざけた雰囲気はどこへやら、神は厳かに頷き微笑んだ。
透けているその手をスッと振るとまるでエスカレーターのように天から斜めに光が降りて来る。
光は彼の横に着地したかと思うと白く半透明な台座を出現させた。
『最後の仕事だ。その魔導球を持ち四大精霊と共にこちらまで上って来て欲しい。そこでユーナを復活させよう』
「その台に乗ればいいの?」
『うむ。何も難しいことは無い』
そこでオズワルドの方を向いたイニは予想外の提案を彼にした。
『ニチカ君と精霊たちの他に一名くらいなら乗れそうだが、君も来るかね?』
何とか丸め込んで自分も同行させようとしていた男は面食らったように瞬きを一つした。不審そうに片方の眉を跳ね上げたが異を唱えることはせず無言で頷く。
「それじゃあみんな、元気でねっ」
トンと台座に乗ったニチカは振り向いて元気よく片手を上げた。それを合図にあちこちから送り出しの言葉やすすり泣きが上がる。
(最後は笑顔……最後は笑顔!)
これはずっと前から決めていたことなのだ。みんなの記憶に残る最後の自分がブサイクな泣き顔になるなんて悲しいではないか。
すぅっと息を吸い込んだニチカは、流れる涙はそのままに精いっぱい笑った。
「行ってきます!」
台座が浮き上がりみんなが少しずつ小さくなっていく。
「ニチカぁぁーっ!!」
「ウルフィ……っ」
堪えきれなくなったウルフィが涙をボロボロと零しながら後を追いかけて来る。
屋上の端でようやく急ブレーキをかけた彼は涙を振り払ってちぎれそうなほど尻尾を振った。
「いってらっしゃい!」
「うん、うんっ!! またね!」
少女は最後まで手を振り続けた。
雲の向こうに魔法学校の城が消えた瞬間、師匠にしがみついて大声を上げて泣いた。別れがこんなにもツラい……。
「……」
「ルゥちゃん?」
少しずつ落ち着いて来た頃、水の精霊がニチカの服にしがみつく。その顔は泣くのを堪えているかのように歪んだものだった。
泣くだけ泣いて少しスッキリした少女はその震える小さな頭に手をやり撫でてやった。
「またすぐ戻ってくるから、泣かないで」
「ニチカ……許せよ」
「え?」
小さく呟いた言葉は周りの風の音にかき消されよく聞こえなかった。
やがて光の行く先に空中に浮かぶ巨大な白い建物が見えて来る。
はたしてイニとの取り引きを上手く成功させることが出来るのだろうか。
ニチカは胸の辺りでギュッと手を握り締めた。
***
まぁ正直あたしも少しなら良いかなぁって思ってたんだ
でもさ、どんどん調子に乗ってもう取り返しのつかないところまで来ちゃった
例えるなら舞台の上でクルクル回っている彼女を誰も居ない観客席で見つめている気分
かなしい かなしい
ほらもうすぐ
おわりだよ 目覚める時だよ
「(壊れないといいね ニチカ)」
この声《セリフ》すら戯曲の一部なのかな、なんて
ぼんやりと考えていた
***
「大丈夫かい?」
パッと意識が切り替わる。何かを観ていたような気がしたが心配そうに覗き込んで来るノックオックに笑い返した時点で『それ』は綺麗さっぱり忘れてしまった。
いつの間にか光のエスカレーターは天空の島へと到着していた。顔を上げれば美しい白い城を背にした精霊たちと師匠が怪訝そうにこちらを見ている。慌てて微笑んで台座から飛び降りた。
「ごめんなさい」
天界とはふわふわした雲の上に宮殿でも建っているのかとイメージしていたが実際には巨大な島が丸ごと一つ浮いていた。
足で踏みしめたのはしっかりとした大地で草と小さな花が揺れている。思わず裸足で走り出したくなるこの原っぱが、地上何千メートルだと誰が思うだろうか。
しかし島の端からおそるおそる覗き込んでみれば霞がかった雲のはるか下には広がる大地が見えて、ここは確かに雲の上なのだと再確認させられる。
高所恐怖症ではないが後ろからポンと叩かれただけで寿命が数年は縮みそうだ。ゆっくりと後ずさり、イタズラ顔でいつの間にか背後に立っていた師匠を睨みつける。
「これが天界……」
振り返り、改めてその大きさに圧倒される。
すぐ正面にはエルミナージュの面積を3倍ほどに大きくしたような城。ファザードに使われている石段も縦に長い柱も、目に入る全ての材質が大理石に似た白い石で作られている。チリ一つ染み一つ無くまさに神が住むのにふさわしい景観だ。
ひんやりとする石造りの正面ポーチを歩きながらシルミアが関心したように口を開く。
「ここが『永久《とこしえ》の神殿』か、僕も来たのは初めてだよ」
「そうなんですか?」
その発言に同意するように他の精霊たちも頷く。ガザンも辺りを物珍しそうに見回しながら重々しい声でこう続けた。
「我らの管轄は地上のみ。上が接触して来る事もなければ招かれることもこれまで無かったからな」
「わらわ達がチカラを貸したのはユーナであって天界では無かったからの」
そうルゥリアもぼやく。彼女はため息が出るほど美しい神殿にはさほど興味はないようで腕を組みながら足を踏み鳴らした。
「にしても出迎えの一つもないとはどういうことじゃ。わらわは肌が渇いたぞ、泉はないのか」
その声に応えるかのように、正面の両開きの扉が少しだけ開く。だが待てど暮らせど誰かが出て来る気配は無かった。
「入ってこいって事かしら」
そこで一行は神殿内に足を踏み入れるのだが、中はガランとしていて人の気配がまるでしなかった。
正面の大階段には金色の翼が生えた厳めしい顔つきの老人の巨大な肖像画が飾られていてこちらを見下ろしてきている。
両脇にもズラリと老若男女の肖像画が並べられていることに気づく。例に漏れずどの人物も目玉が飛び出るような美形ばかりだ。イニにも言えることなのだが完璧すぎる美だ。どこか作り物めいた……
――来たか
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ご愛妾様は今日も無口。
ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」
今日もアロイス陛下が懇願している。
「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」
「ご愛妾様?」
「……セレスティーヌ様」
名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。
彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。
軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。
後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。
死にたくないから止めてくれ!
「……セレスティーヌは何と?」
「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」
ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。
違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです!
国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。
設定緩めのご都合主義です。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる