ひねくれ師匠と偽りの恋人

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

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11-リビングデッド・ハート

127.少女、約束する。

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 この男の当初の目的は安住の地探しだったはずだ。白魔も居なくなったことだし候補の一つに入れても良いのではないだろうか? 吹雪の助けにもすぐ行けることだし。

「あの地だったら魔女協会も来ないでしょ。当主を継がないにしても端っこに住むとか」

 そう続ければチラッとこちらに視線を寄越した後、前に向き直ってしまった。

「ホワイトローズでは色々ありすぎたからな。用がなければもう来ないさ」

 そっけなく言われた言葉にハッとする。確かにあの地にはリッカを殺した風花がまだ残っている。辛い思い出ばかりだろうに提案すること自体が間違いだった。

「……ごめん」

 それきり沈黙が降りる。雪鳥の羽音だけがしばらく続いて遠くの景色が少しずつ流れていた。

 ユキヒョウのスピードも素晴らしかったがこの鳥も負けていない。雪で出来ているため恐ろしく寒いのが難点だが、キラキラした結晶が羽ばたくたびに散り太陽の光を受けて幻想的な光景を見せてくれた。
 振り向けば長い尾がなびいている。ぼーっとそれを見ていたニチカはすぐ前から響いた声に向き直った。

「あの青いガキんちょは先に行ったってな」
「ルゥちゃんのこと?」
「るぅちゃんだぁ?」

 なんだその呼び方はと言いたげな師匠に苦笑いをする。最初はツンケンしていた彼女だったがめげずに話しかけているうちに顔を赤らめながら「敬語でなくともよい」と言ってくれたのだ。
 そんな彼女にサリューンの真水が浸食されていることを告げると顔まで青くしてすっ飛んでいった。一瞬の内に見事な白魚に姿を変え、凍えるような海に飛び込んで行った後ろ姿を思い出す。

「精霊ってこういう時便利だよね、ちょっと羨ましいかも」

 マントをかき合わせ震えながら少しだけ笑う。きっと向こう岸で待っていてくれることだろう。

「そういえばあの銃――もぎゃ!」

 話題を変えようとしたところで振り返った師匠に顔面をわしづかみにされる。何事かと思ったが彼は優雅に飛び続ける雪鳥に向かってこう話しかけた。

「いい加減盗み聞きはやめてくれないか。趣味が良いとは言えないぞ」

 鳥はこちらに顔を向けて緑の目でジッと見つめる。だがその色がすぅっと消えて行ったかと思うと氷のような透明に変わった。固まっていると鳥はぷいっと前を向き無関心で飛び続けた。

「き、聞かれてたの?」
「風花がこの鳥を操ってる時点で警戒するべきだったな。お前は相変わらず注意力がないというか警戒心がミジンコレベルというか」
「ミジンコってなに! これでも成長してるんだからっ」

 キーッと怒ると師匠は肩で笑いながら手を離してくれた。

 そのぬくもりが離れるのが少しだけ惜しいと思ってしまう。
 あとどのくらい側に居られるだろうか。冷たそうに見えて本当は暖かいその手にあと何回触れられるのだろう。触れて貰えるのだろう。

「……あの銃、置いてきてよかったのかな」

 その気持ちを気取らせないよういつも通りの声で言う。オズワルドは前を向いたまま「その事か」と何でもないことのように答えた。

「ディザイアなら出るときにちょいと細工をしてきた。あれはもうただのガラクタだ」
「細工?」

 懐から取り出した薄っぺらくて丸いものを渡される。片面に粘着性がありまるでシールのようだ。その表面には魔法陣らしきものの一部が描かれていた。

「これをあの銃の魔法陣に上から貼って上書きする。発動させようとしても闇のマナエネルギーが内部循環した後空気中に放散される。二度と使えない。終わり」
「えっ、えええ! なにそれすごい!」

 そんなお手軽な方法で無効化できるなんてと感動していると、師匠は更に驚きの事実を伝えた。

「何いってんだ、最初にやったのはお前だろ」
「え?」
「破れた魔法陣を復元させたあの紙だ。あれをヒントに作った」
「あぁ!」

 あの『渡し橋』だ。となるとこのシールも同じような仕組みなのか。一度こちらに移して逆走させるように本陣に戻す。アレンジは効いてるが似ている。

「な~んだ、じゃあ私のお手柄じゃない」
「何いってる、実用レベルにしたのは俺だ」
「そこは素直に褒めてよ」
「あんなグチャグチャな組み方してたくせに? だいたい線の引き方から成ってないんだよ。横着して大量にインクを付けるから――」
「あぁあぁ、また小言が始まるぅぅ~」

 大げさに耳を塞いで縮こまる真似をしたニチカは、プッと噴き出し声を立てて笑い出した。ひとしきり笑った後なみだを拭いながら礼を言う。

「約束守ってくれてありがと」
「約束は契約……」だからって言うんでしょ?」

 被せるようにセリフを横取りした弟子に、オズワルドは不機嫌丸出しの表情で振り返る。少女はそれにますます笑い転げた。

「笑うなっ、俺の思考を読もうだなんて生意気な」
「あはははっ、読まなくったって予想できるよ。もう知ってるもの」

 手を着いて乗り出した少女は素直な感情そのままに笑う。

「負けず嫌いなところも、本当は努力家なところも、そっけなく見えて優しいところも、ぜんぶぜんぶ」

 面食らったような顔をしていた師匠はブスッとした表情になりそっぽを向いた。さすがのポーカーフェイスで頬を染めるようなことは無かったが。

「お前の観察眼のなさには呆れる」
「むだむだ、ぜーんぶお見通しなんだから。それだって照れ隠しでしょ」
「……」
「事実だからってっ、ちょ、やめ、髪乱れるってば!」

 ――ずっとこんな時間が続けばいいのに。

 そう思ったのは果たしてどちらだったのか。
 ひとしきり髪の毛を乱してから手を離す。目が合って空気が変わった。急に真剣な顔をした男はその頬に触れようとそっと手を伸ばした。

 だがピクッと動きを止める。辺りを警戒するように見回し始める師匠にニチカも何事かと気配を探る。

 嫌な雰囲気だ。あわ立つようなねとりとした空気が皮膚に張り付き落ち着かない。
 それまで順調に飛んでいた雪鳥がスピードを落としホバリングする。

 そして『それ』は唐突に現れた。

 目の前で黒い粒子が急に収束したかと思うと渦を巻き、圧倒的な威圧感と共に巨大な黒光りする竜が出現していた。ニチカはその上に乗っていた白いフードの人物と目が合いギクリとした。ファントムだ。

「……」

 だが彼はこれまでのように攻撃するでもなく挑発するでもなくただひたすら哀しげにこちらを見下ろしていた。やがてその口から気落ちしたような声が漏れ出す。

「四大精霊が魔導球につながり、そして僕のしかけた七つの大罪も全て破壊された」

 暗く沈んだ瞳に浮かぶのは憐れみ? いや、諦めにも似た感情だろうか。彼はそっと目を伏せると悲しげに首を振った。

「もういいよ、僕の負けだ。精霊の女神でもなんでも好きにするといい」

 そのままうながすように黒竜の背を叩いた。

「行こうヴァドニール。最初から適いっこなかったんだ。闇は光には勝てない、世界がそれを赦さない、たぶんそういうことなんだろうね」

 軽くはばたいた竜が黒い風を巻き起こし方向転換する。こちらをもう見ようともしない彼が最後に残したセリフがやけに耳に残った。

「僕はもう要らないってハッキリ分かったから」

 そしてその姿が青い空に消えていく。
 身体を強ばらせていた師弟は雪鳥が再び進みだすのを機にようやく力を抜いた。すさまじいプレッシャーに噴き出た汗が冷たかった。

「なんだったんだ、いったい」
「諦めてくれたのかな? 結局あの子のことは最後まで分かんなかったな」
「あのアホ神は何も言ってなかったのか」
「前に聞いたときは『今は言うことができない』って」

 今なら話してくれるだろうか。しこりを残すのはあまり好きではないので聞いてみよう。



 それからは大きなトラブルも無く順調に空の旅は続く。じきに中央大陸が見えてきてもおかしくはない頃合だ。

「うぅ、寒い」

 ただ、だいぶ南下してきたとは言え吹き付ける風が冷たい。小さくクシャミするとオズワルドが小さく笑った。

「気持ちいい風じゃないか」
「雪国育ちと比べないで。さっきから思ってたけどずるいわよ、こっちはスカートなんだから」

 しばらくジト目で睨んでいた少女は、もぞもぞと移動して来たかと思うと男の前に陣取った。すっぽりと包まれるように男の腕を肩にかけ背中を預ける。

「は~、あったかい。体温は人から貰うのが一番だなぁ」
「おいこら、俺で暖を取るな」
「良いじゃない。可愛い弟子が寒がってるのよ」

 ニチカは振り仰ぎイタズラっぽく笑う。
 だが再び前を向くと黙り込んでしまう。しばらくして小さな声で付け足した。

「これで最後かもしれないんだし」
「……」

 その言葉の意味を察したのだろう。オズワルドは何も言わずに少しだけ腕に力をこめた。

 先ほどまで痛いだけだった風が心地良い。
 雪鳥の頭ごしに広がる空はどこまでも澄んでいて淡い薄雲が長く伸びている。
 誰にも邪魔されない静寂の中でニチカはその一言を告げた。


「私、元の世界に帰るね」


 迷っていた気持ちも口に出してしまえばハッキリと明確な形を取る。
 振り向くことはせず前を向いたまま考えていた事を伝えた。

「一度帰って、またこっちの世界に戻ってこれるよう頑張ってみる。イニに叶えてもらう願い事をそれにしようかって考えてるの」

 かの神は『なんでも一つだけ願いを叶えてあげよう』と約束してくれた。
 当初は未だ腹に巣食うフェイクラヴァーズを取り除いてくれるよう頼むつもりだったがそれよりも大切なものができてしまった。

「最初はね、こんなわけの分からない世界に落とされて早く帰りたいって思ってた」

 少女は思い出すように指を折り折り過去の災難を数え始める。

「ワケの分からない内にオオカミに追っかけられたでしょ、ヘンな種には寄生されるでしょ、何をしたら良いのかもわからなかったし……そうそう名前も知らない男の人にいきなりファーストキスを奪われたりもしたっけ」
「それに関しては謝らないと言ったはずだ」
「分かってるって、今となっては感謝してます」
「ならいい」
「だけどあの時はホントに『誰でも良いからこの記憶を切り取ってくれ~』って思ってたのよ」
「えっ」

 男の間抜けな声に笑い出しそうになる。
 右の指だけでは足りなくなって左手も合わせて思い出を数えていく。
 通りかかった光のマナたちが面白そうにその指先に宿った。

「強引に弟子入りして、魔女協会に追っかけられて、空飛ぶ生き物にも乗れたし和国の綺麗なお姫様にも会えた。ちょっとだけ淡い恋もして、魔法学校に入学して空も飛んで……たくさんの素敵な人たちに出会えた!」

 両の手で数え切れなくなった段階でパッと空に放つ。輝く蝶たちはきらめきながら風の中に溶けていった。

「ほらね、私この世界に大切なものが出来すぎたの。だから絶対戻ってこなくちゃ」

 身体をひねった少女は一点の曇りのない笑顔で言った。晴れ晴れとした表情に冷たい手で心臓を鷲掴みされたような感覚が走る。

 どうしてもその笑顔に重ねてしまう物があった。かつて自分を想うがために嘘をついた優しすぎる映し身の存在。

 ――大丈夫。私もすぐに追いかけるから

 彼女も最期はこんな顔をしていなかっただろうか?
 そんな気もないのに安心させるため最高の笑顔を作り……そしてその直後紅い華となり二度と帰らなかった。

「? オズワ――」

 腕の中の小さな身体を引き寄せ抱きしめる。
 鼓膜を震わす甘い声が、ふわりと香る優しい匂いが、手の届かないところへ行ってしまう。

 行くな。
 行かせない。
 二度と会えなくなるくらいなら無理矢理にでも。

 ふいに粗暴な考えが湧き上がり、結局自分はそういうやり方でしかコイツを捕らえられないのかと心の底で自嘲する。
 だが構うものか。蝶を捕らえたらカゴに入れるものだ。そうして愛でて、壊れるほど愛して、元の世界なんて思い出さないくらいに――




「ふ、ふふっ、ずるいなぁ」

 すぐ間近で聞こえた声に揺り戻される。
 顔を見なくとも分かった、ニチカは泣いていた。泣きながら笑っていた。

「こんなことされたら、勘違いしちゃいそうだよ」

 その言葉に張り裂けそうなほどの締め付けが胸を襲う。
 勘違いなどではない。たぶんきっと、抱いている想いは同じはずだ。
 だがそれを言葉にすることは躊躇《ためら》われ男はますます少女をきつく抱きしめる。

 告げたところで少女の帰還の意思は変わらない。
 一度言い出したら聞かないまっすぐな若木のような少女のことだから。

「きっとね、このままこの世界に残り続けたら後悔すると思うの。自分はあっちの世界で失踪したままなのかって」

 そんなのスッキリしないでしょ、とニチカは続ける。

「元の世界できちんと整理ができたらまたこっちに来るから」

 そんなもの誰が保証できるんだ。
 あぁ、これはエゴだ。彼女の気持ちを無視してまで自分はその一言を言おうとしている。
 伝えるのはおそらく容易い。たった一言、吐き出す息に声を乗せればいいだけ。それはきっと少女を悪戯に引き止め苦しめることになるだろう。

 だが、
 それでも、
 たとえこれがエゴだとしても――

「、――」
「約束するよ」

 ところが息を吸い込んだ瞬間先回りされてしまった。
 行き場を失った言葉が己の中に還りじわりと溶ける。

 そっと身体を離したニチカは笑っていた。

「戻ってきたら、あなたに一番最初に伝えたいことがあるの」

 なみだ目でも綺麗に笑った。

「だからね、必ず帰って来るよっ」

 想いを告げない代わりに、それを約束にしようというのか。
 ……敵わない。

 ふ、と困ったように笑みを浮かべたオズワルドはそっと手をやり涙をぬぐってやった。

「フェイクラヴァーズ用のキャンディー、たくさん作らないとな」

 柔らかな髪の感触を覚えていられるように何度も梳く。
 そっと引き寄せ抱え込むように耳元でささやいた。

「必ず帰ってこい。俺もお前に伝えたいことがある」


 対岸が見えて来る。
 たどり着くまでの最後のわずかな時間、二人の間に言葉は無かった。


 言葉などいらなかった。
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