117 / 156
11-リビングデッド・ハート
117.少女、修繕する。
しおりを挟む
目の前の壁がすぅっと無くなり、気持ちを引き締める。
慎重に様子を伺い一歩踏み出すと、そこは一階の外れの廊下だった。
ここ数日ひそかにあちこち駆け回っていたので大体の構図は頭に入っている。ここからだと、そう遠くない場所に覚えのある裏通路への入り口があるはずだ。そこから自分の部屋へ戻れるだろう。
足音を立てないよう慎重に移動を始める。ところが最初の曲がり角を曲がったところで少女は固まった。
「――」
白く美しい髪をなびかせた女性、風花が少し先のドアからぬっと出てきたのだ。
悲鳴は上げなかった。上げられなかった。人間心底驚くと本当にフリーズするものなのだとこの時はじめて知った。
「……」
ついに見つかってしまった。どう言い逃れも出来はしないだろう。
観念して次の言葉を待っていたニチカは、はて、と違和感に気づいた。風花は声をかけるでもなくぼうっとした目で左右に顔を向けている。
(そうだ、目が見えないんだ)
これはいける。まだチャンスはある!
しかし視覚を失っている者は代わりに別の感覚が発達していると言う。さらに悪いことにこちらへ歩いて来た。ニチカはそうっと壁際に後ずさり背中をビタリとつける。
「……」
(ひぃぃぃ!!!)
目の前にやってきた風花がピタリと停止し、光のない緑の目でじぃぃーっとこちらを見つめてくる。本当に見えていないのか? 実は見えてるのではないか?
スッと白い手を掲げた彼女は、こちらに向かってゆっくりと手を伸ばしてきて――
(ぎゃあああああ!!)
カコッ
(へっ?)
もうダメだと思った瞬間、耳のすぐ横で何かを押し込む音が響いた。
ドッドッドと耳鳴りがする横で壁がスライドしパネルのような物が現れる。
目を剥いている内に、風花は慣れた様子で左上のマスから順に押さえていった。
「壱番グループ、異常なし。弐番グループ、異常なし。参番グループ……消耗七十五% 侵入者? ただの密漁。処理済。了解、エネルギーを補填します」
しばらく聞いて分かったのだが、どうやら風花はホワイトローズを警備しているあの雪鳥と通信しているようだった。あの美しくも恐ろしいガーディアンを操っていたのは彼女らしい。
「通信終了。引き続き警戒を怠らないように」
スッと壁から離れた風花は最後にこちらに一度振り向くと行ってくれた。一気に安堵感が押し寄せてフーッと息をつきズルズルと壁伝いに落ちる。
(もうダメかと思った……)
さて戻ろうとしたその時だった。
(ん?)
視界の端に青いものが見えたような気がして顔を向ける。
風花が去ったのとは逆の方向だ。立ち上がり壁からそうっと覗いたニチカは目を見開いた。
まず最初に目に入ったのは青い二つの輪。
上半分をとって耳のように大きくリングにしている髪型が特徴的な女の子が背中を向け歩いている。腰辺りまで伸びた青水晶のような髪がさらりと揺れる。
目を凝らした途端驚きの声をあげそうになった、女の子は大量の青いマナを引き連れていたのだ。それも尋常な量ではない、通路を埋め尽くすほどの数だ。
(見つけた――!!)
慌てて後を追うのだが、青い髪が消えた曲がり角へ飛び込んだ瞬間、目を瞬いた。
「消え……た?」
いや、まだマナの残滓が濃い。その辺りに居るかもしれないと小走りで後を追っていく。この辺りは今まで来た事のない場所だ。城の本宮からは少し離れた塔へと続く長い通路はひんやりとうす暗い。
(マズいかな? いやでも、ようやく見つけたんだから!)
いざとなれば窓から外に出てしまおうと判断し、突き当たりにあった古い両開きのタイプの扉の前に立つ。
そっと耳を当ててみるが中から音はしない。扉はここ最近開けた形跡はないようで床にはうっすらと埃が積もっていた。
(もう使ってない部屋なのかな?)
精霊なら扉を開けずにそのまま素通りで中に入っていけるはずなので、先ほどの女の子が水の精霊の可能性がさらに高まる。
冷たい鉄輪を掴んだニチカは、扉を少しだけ開けて慎重に中を覗いた。
……青く沈んだ部屋だ。
かつては誰かの居住空間だったのだろう。荒れ果てた室内は塔の一階部分をそのまま使っていたようで丸いワンフロアになっていた。
手前に埃まみれの青いラグが敷かれ、奥にはクモの巣の張った白いソファとネコ足テーブルが置かれている。その上には上品なカップとソーサーが虚しく一客だけ転がっていた。
「あの……突然お邪魔してすみません。水の精霊さまは、居らっしゃいますか」
部屋の中央まで進み、小声で問いかける。返事は――ない。
壁に取り付けられた青い水晶がぼんやりと光り、時おりジジッと点滅しては部屋を照らしている。ニチカは部屋のあまりの静けさに底冷えするような恐ろしさを感じた。
そう、この部屋にはまったくといって言いほど生気がなかった。もし自分が死んで埋められたら、土の下はこうではないかと思わせるような静けさだ。静かすぎると感じた本宮でさえ暖かみを感じ恋しく思えてくる。
恐怖で足が竦みそうだったが、床にキラキラとした青い光が落ちていることに気づいて気持ちを奮い立たせた。目を凝らさなければわからないほど微かなものだったが、確かにマナの片鱗だ。
その後を追っていくと、部屋の隅の小さな扉へと消えているようだ。先ほどの扉よりは幾分軽いそれを引っ張ると、地下への小さな折り返し階段が見えて来た。
地下と聞くと恐ろし気だが、階段の踊り場に取り付けられていた明かりは暖かなオレンジ色で、背後の青い死の部屋を見た後ではホッとしてしまった。
ここまで来たのだからと杖を構え、三段+三段のささやかな階段を下りる。
そこにも小さな扉があり、『ぼくのへや!!!』と元気な字のプレートが下げられていた。
ぼく。この城にそんな小さな子が居ただろうかと思いながら扉を押し開ける。感応型魔法なのか部屋の中がじわぁっと明るくなっていった。
「うわ……」
見えてきた部屋の全景に思わず息を呑む。そこはぎっしりと本が詰められた棚がいくつも並ぶ書庫だった。
本棚だけでは収まらない本が床にまであふれ出し、そこかしこに崩れそうなタワーを建設している。その内のいくつかを手に取った少女はタイトルを読んでみた。
『マナエネルギーの仕組みとその起源』
『人体の仕組み』
『人心掌握のすべて』
『今日のお料理』
『魔導理論』
『高等魔法陣』
ありとあらゆる分野の専門書が無造作に転がっている。パラパラとめくっただけでめまいがしてそっと閉じて戻した。
この高度な知識の海と、表書きにあった『ぼくのへや!!!』の幼さがどうにもちぐはぐで違和感を覚える。
首を傾げながらも進むと、部屋の突き当りに大きな机が見えてきた。
どっしりと構えたマホガニーのデスクの上には、ペンチやらルーペやら細々とした道具が無造作に転がっていた。
机の上に散らばっている羊皮紙にはぎっしりと文字が書き込まれていて、相当熱心に研究していたことが伺える。その内容は暗号化されているのか支離滅裂な文章で読み解くことは難しそうだ。
「ん?」
その時、ふいに目の前を青い蝶が横切りどこかへ飛んでいく。
無意識にそちらを追ったニチカは、奥まったところにある書架の下段、一番左に収められた分厚い本にマナがスゥッと吸い込まれていくのを見た。
「なに? この本、光ってる……」
本自体が青白く発光しているようで、人差し指を引っ掛けコトンと引き出す。タイトルが無く表紙も無地だ。
さすがに警戒心が働いたが、持ち前の好奇心には勝てなかった。おそるおそる伸ばした杖で、ギリギリのところから本を開ける。
幸いにも開けて爆発するようなことはなく、中の文章が見えてきた。どうやら手書きの日記のようで乱雑な走り書きで文字が綴られている。これもまたデスクの主が書いたようで暗号化されていて読めない。
「よっぽど読まれたら恥ずかしいことでも書いてあるのかな」
もうすっかり警戒を解いたニチカは床に膝を着き、ペラペラとめくっていく。よどみなく動いていた手があるページでぴたりと止まる。
ちょうど真ん中辺りのページ。両面を使って大きく描かれていたのは奇妙な魔法陣だった。
「破られてる?」
少女の言う通り、そのページだけ右隅が破り取られビリビリにされている。口に手を当てた少女はついいつものクセで残った陣からその意味を読み取ろうとした。
「今まで習ってきた攻撃魔法の魔法陣とは違うみたい。4大元素の印は全くなくて、変わりに見たこともないマークが当てられている。だけど基本的な順路は変わらない? もしこの破れてる部分を補えたら――」
うずっ
好奇心が顔を出すのを感じた。俄然楽しくなってきた少女は解を求めて思考を巡らせる。
「要は途切れてるここからここへ道を作ってあげればいいんでしょ? そうだ!」
先ほどのデスクへ引き返し、まっさらな羊皮紙一枚とペンを持ってくる。ビリッと適度な大きさに切った紙の上にサラサラと筆を走らせた。
「ここの流れからいったんこの羊皮紙に流れを移して、橋みたいにこっちへ渡して上げればいいんだ。うん、理論的には合ってるはず」
あーだこーだと試行錯誤し、ついに完成した『渡し橋』を嬉しそうに掲げ満足そうにうなずく。少しだけ発動させても良い物かと不安がよぎったが、ここまで来て実行しないのは女が、いや魔女の弟子がすたる。
「そ、それにこのくらいの問題解けないようじゃ、いつまでたっても師匠を見返してやれないもんね」
まぁ攻撃性のあるような物ではなさそうだったし大丈夫だろう。何かのヒントになるかもしれないし。
わくわくしながら橋を本の魔法陣に重ねたニチカは、そっと魔力を流し込んでみた。
「おぉぉ!?」
本を包んでいた青白い光は輝きを増したが、しばらくするとゆっくりと収束し暗くなっていった。
「あれ?」
失敗かな? と、思った次の瞬間、目の前が真っ白になるほどの光が爆発し、思わず両腕で目を覆う。それでも強烈な光はまぶた越しに網膜を突き刺した。
「うわっ!?」
慎重に様子を伺い一歩踏み出すと、そこは一階の外れの廊下だった。
ここ数日ひそかにあちこち駆け回っていたので大体の構図は頭に入っている。ここからだと、そう遠くない場所に覚えのある裏通路への入り口があるはずだ。そこから自分の部屋へ戻れるだろう。
足音を立てないよう慎重に移動を始める。ところが最初の曲がり角を曲がったところで少女は固まった。
「――」
白く美しい髪をなびかせた女性、風花が少し先のドアからぬっと出てきたのだ。
悲鳴は上げなかった。上げられなかった。人間心底驚くと本当にフリーズするものなのだとこの時はじめて知った。
「……」
ついに見つかってしまった。どう言い逃れも出来はしないだろう。
観念して次の言葉を待っていたニチカは、はて、と違和感に気づいた。風花は声をかけるでもなくぼうっとした目で左右に顔を向けている。
(そうだ、目が見えないんだ)
これはいける。まだチャンスはある!
しかし視覚を失っている者は代わりに別の感覚が発達していると言う。さらに悪いことにこちらへ歩いて来た。ニチカはそうっと壁際に後ずさり背中をビタリとつける。
「……」
(ひぃぃぃ!!!)
目の前にやってきた風花がピタリと停止し、光のない緑の目でじぃぃーっとこちらを見つめてくる。本当に見えていないのか? 実は見えてるのではないか?
スッと白い手を掲げた彼女は、こちらに向かってゆっくりと手を伸ばしてきて――
(ぎゃあああああ!!)
カコッ
(へっ?)
もうダメだと思った瞬間、耳のすぐ横で何かを押し込む音が響いた。
ドッドッドと耳鳴りがする横で壁がスライドしパネルのような物が現れる。
目を剥いている内に、風花は慣れた様子で左上のマスから順に押さえていった。
「壱番グループ、異常なし。弐番グループ、異常なし。参番グループ……消耗七十五% 侵入者? ただの密漁。処理済。了解、エネルギーを補填します」
しばらく聞いて分かったのだが、どうやら風花はホワイトローズを警備しているあの雪鳥と通信しているようだった。あの美しくも恐ろしいガーディアンを操っていたのは彼女らしい。
「通信終了。引き続き警戒を怠らないように」
スッと壁から離れた風花は最後にこちらに一度振り向くと行ってくれた。一気に安堵感が押し寄せてフーッと息をつきズルズルと壁伝いに落ちる。
(もうダメかと思った……)
さて戻ろうとしたその時だった。
(ん?)
視界の端に青いものが見えたような気がして顔を向ける。
風花が去ったのとは逆の方向だ。立ち上がり壁からそうっと覗いたニチカは目を見開いた。
まず最初に目に入ったのは青い二つの輪。
上半分をとって耳のように大きくリングにしている髪型が特徴的な女の子が背中を向け歩いている。腰辺りまで伸びた青水晶のような髪がさらりと揺れる。
目を凝らした途端驚きの声をあげそうになった、女の子は大量の青いマナを引き連れていたのだ。それも尋常な量ではない、通路を埋め尽くすほどの数だ。
(見つけた――!!)
慌てて後を追うのだが、青い髪が消えた曲がり角へ飛び込んだ瞬間、目を瞬いた。
「消え……た?」
いや、まだマナの残滓が濃い。その辺りに居るかもしれないと小走りで後を追っていく。この辺りは今まで来た事のない場所だ。城の本宮からは少し離れた塔へと続く長い通路はひんやりとうす暗い。
(マズいかな? いやでも、ようやく見つけたんだから!)
いざとなれば窓から外に出てしまおうと判断し、突き当たりにあった古い両開きのタイプの扉の前に立つ。
そっと耳を当ててみるが中から音はしない。扉はここ最近開けた形跡はないようで床にはうっすらと埃が積もっていた。
(もう使ってない部屋なのかな?)
精霊なら扉を開けずにそのまま素通りで中に入っていけるはずなので、先ほどの女の子が水の精霊の可能性がさらに高まる。
冷たい鉄輪を掴んだニチカは、扉を少しだけ開けて慎重に中を覗いた。
……青く沈んだ部屋だ。
かつては誰かの居住空間だったのだろう。荒れ果てた室内は塔の一階部分をそのまま使っていたようで丸いワンフロアになっていた。
手前に埃まみれの青いラグが敷かれ、奥にはクモの巣の張った白いソファとネコ足テーブルが置かれている。その上には上品なカップとソーサーが虚しく一客だけ転がっていた。
「あの……突然お邪魔してすみません。水の精霊さまは、居らっしゃいますか」
部屋の中央まで進み、小声で問いかける。返事は――ない。
壁に取り付けられた青い水晶がぼんやりと光り、時おりジジッと点滅しては部屋を照らしている。ニチカは部屋のあまりの静けさに底冷えするような恐ろしさを感じた。
そう、この部屋にはまったくといって言いほど生気がなかった。もし自分が死んで埋められたら、土の下はこうではないかと思わせるような静けさだ。静かすぎると感じた本宮でさえ暖かみを感じ恋しく思えてくる。
恐怖で足が竦みそうだったが、床にキラキラとした青い光が落ちていることに気づいて気持ちを奮い立たせた。目を凝らさなければわからないほど微かなものだったが、確かにマナの片鱗だ。
その後を追っていくと、部屋の隅の小さな扉へと消えているようだ。先ほどの扉よりは幾分軽いそれを引っ張ると、地下への小さな折り返し階段が見えて来た。
地下と聞くと恐ろし気だが、階段の踊り場に取り付けられていた明かりは暖かなオレンジ色で、背後の青い死の部屋を見た後ではホッとしてしまった。
ここまで来たのだからと杖を構え、三段+三段のささやかな階段を下りる。
そこにも小さな扉があり、『ぼくのへや!!!』と元気な字のプレートが下げられていた。
ぼく。この城にそんな小さな子が居ただろうかと思いながら扉を押し開ける。感応型魔法なのか部屋の中がじわぁっと明るくなっていった。
「うわ……」
見えてきた部屋の全景に思わず息を呑む。そこはぎっしりと本が詰められた棚がいくつも並ぶ書庫だった。
本棚だけでは収まらない本が床にまであふれ出し、そこかしこに崩れそうなタワーを建設している。その内のいくつかを手に取った少女はタイトルを読んでみた。
『マナエネルギーの仕組みとその起源』
『人体の仕組み』
『人心掌握のすべて』
『今日のお料理』
『魔導理論』
『高等魔法陣』
ありとあらゆる分野の専門書が無造作に転がっている。パラパラとめくっただけでめまいがしてそっと閉じて戻した。
この高度な知識の海と、表書きにあった『ぼくのへや!!!』の幼さがどうにもちぐはぐで違和感を覚える。
首を傾げながらも進むと、部屋の突き当りに大きな机が見えてきた。
どっしりと構えたマホガニーのデスクの上には、ペンチやらルーペやら細々とした道具が無造作に転がっていた。
机の上に散らばっている羊皮紙にはぎっしりと文字が書き込まれていて、相当熱心に研究していたことが伺える。その内容は暗号化されているのか支離滅裂な文章で読み解くことは難しそうだ。
「ん?」
その時、ふいに目の前を青い蝶が横切りどこかへ飛んでいく。
無意識にそちらを追ったニチカは、奥まったところにある書架の下段、一番左に収められた分厚い本にマナがスゥッと吸い込まれていくのを見た。
「なに? この本、光ってる……」
本自体が青白く発光しているようで、人差し指を引っ掛けコトンと引き出す。タイトルが無く表紙も無地だ。
さすがに警戒心が働いたが、持ち前の好奇心には勝てなかった。おそるおそる伸ばした杖で、ギリギリのところから本を開ける。
幸いにも開けて爆発するようなことはなく、中の文章が見えてきた。どうやら手書きの日記のようで乱雑な走り書きで文字が綴られている。これもまたデスクの主が書いたようで暗号化されていて読めない。
「よっぽど読まれたら恥ずかしいことでも書いてあるのかな」
もうすっかり警戒を解いたニチカは床に膝を着き、ペラペラとめくっていく。よどみなく動いていた手があるページでぴたりと止まる。
ちょうど真ん中辺りのページ。両面を使って大きく描かれていたのは奇妙な魔法陣だった。
「破られてる?」
少女の言う通り、そのページだけ右隅が破り取られビリビリにされている。口に手を当てた少女はついいつものクセで残った陣からその意味を読み取ろうとした。
「今まで習ってきた攻撃魔法の魔法陣とは違うみたい。4大元素の印は全くなくて、変わりに見たこともないマークが当てられている。だけど基本的な順路は変わらない? もしこの破れてる部分を補えたら――」
うずっ
好奇心が顔を出すのを感じた。俄然楽しくなってきた少女は解を求めて思考を巡らせる。
「要は途切れてるここからここへ道を作ってあげればいいんでしょ? そうだ!」
先ほどのデスクへ引き返し、まっさらな羊皮紙一枚とペンを持ってくる。ビリッと適度な大きさに切った紙の上にサラサラと筆を走らせた。
「ここの流れからいったんこの羊皮紙に流れを移して、橋みたいにこっちへ渡して上げればいいんだ。うん、理論的には合ってるはず」
あーだこーだと試行錯誤し、ついに完成した『渡し橋』を嬉しそうに掲げ満足そうにうなずく。少しだけ発動させても良い物かと不安がよぎったが、ここまで来て実行しないのは女が、いや魔女の弟子がすたる。
「そ、それにこのくらいの問題解けないようじゃ、いつまでたっても師匠を見返してやれないもんね」
まぁ攻撃性のあるような物ではなさそうだったし大丈夫だろう。何かのヒントになるかもしれないし。
わくわくしながら橋を本の魔法陣に重ねたニチカは、そっと魔力を流し込んでみた。
「おぉぉ!?」
本を包んでいた青白い光は輝きを増したが、しばらくするとゆっくりと収束し暗くなっていった。
「あれ?」
失敗かな? と、思った次の瞬間、目の前が真っ白になるほどの光が爆発し、思わず両腕で目を覆う。それでも強烈な光はまぶた越しに網膜を突き刺した。
「うわっ!?」
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる