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6-フライアウェイ!

67.少女、ダイブする。

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 ニチカが悲鳴を響かせる三分前、街中を爆走する少女の姿をランバールは離れた防護壁の上から見つめていた。その隣でちょこんと腰掛け、足をブラブラさせていたファントムが歓声をあげる。

「っひゃーやるやるゥ! こんなことならレース券買っとくんだったなぁ、あのコ飛び入りだったし超大穴だったんだよねー」

 だが彼は人差し指を幼い仕草で唇にあてたかと思うと、無邪気な声はそのままに言い放つ。

「でもま、落ちるって分ってるから結局買わないんだけどさ」
「……」

 ランバールは冷静にニチカを見ていた。彼の中にためらいや後悔はなかった。共に旅をし、会話をかわした少女とて、両親を恨む気持ちの前では存在しないにも等しい。

 やがて時計塔の真下にたどり着いたニチカを見て、ファントムが楽しそうにその意図を読み取る。

「あは、見て。あのコ爆弾抱えてるよ、あれで魔水晶を壊すつもりなんだろうけど、まさか直前で落ちるとは思ってないだろうね」

 壁面をすべるように上がっていく姿に、ランバールは上げかけた手をピクリと止めた。共犯者がニヤニヤと笑いながら覗き込む。

「どうしたの? まさか情が湧いたなんて、言わないよねぇ?」
「まさか」

 改めて手を前方に掲げたランバールは、標的に向けてギュッと握りつぶすような動作をする。途端に視線の先のホウキは空中分解し少女は落下を始めた。

「さぁ、約束は果たした。オレの両親の居所を教えろ」

 落ち行く少女などにはもう目もくれず、ランバールは白いフードに詰め寄る。だが、ファントムはクスッと笑ったかと思うと、懐からいびつな形のアクセサリーを取り出した。ふっと息を吹きかけたかとおもうと金属片はサラサラと崩れていく。

「!?」
「ごめん、ウソ。ほんとはキミの両親なんて顔も形も知らないし、このいかにも曰くありげなアクセサリーはキミが持ってるのをちょっと真似て作っただけ」
「テメェ!」

 騙されたのだと気づいた瞬間、ランバールは反射的に掴みかかっていた。だが軽い身のこなしで回避したファントムは心底楽しそうに笑い声をあげた。

「アハハハハッそれなりに楽しかったよ。それじゃあね、バイバーイ」
「待て!」

 煙のようにかき消える少年をつかもうとするが、むなしく石材を叩くだけに終わる。

「っ……そ……!!」

 ランバールは即座に怒りのエネルギーを頭の回転に回す。今この瞬間だけは他の誰よりもファントムが憎かった。裏切ったアイツに最大限の報復をするには――

「ッハ、オレの性格の悪さを見誤ったな。ファントム」

 凶悪な笑みを浮かべた復讐者は、段差を乗り越え高い壁から飛び降りた。

***

「いっ、いやああああ!!!」

 パニックに陥ったニチカは、無駄とわかっているのに塔の側面につかまろうとする。二、三枚爪が剥がれたが、そんな痛みすら厭わぬほどに気持ちが動転していた。

(死ぬ――!)

 そう思った瞬間、空中でガクッと何かに抱き留められた。地面への衝突を覚悟していた少女は驚いて目を開ける。

「オズワルド!」

 歯を食いしばってニチカを抱えなおした彼はホウキに乗っていた。少女が地上に置いてきたものだ。

「うわああああん!! ししょー!!」

 涙目で抱き着こうとすると、オズワルドはすさまじい形相で叫んだ。

「早く捨てろ!!」
「へっ?」

 一瞬なんのことを言われてるのかと思ったが、手元で膨らんでいく爆弾を見て青ざめる。

「うわっ、うわぁ!!」
「投げろ!」
「どこに!?」
「どこでもいい!! お前と心中なんて死んでもごめんだ!!」

 しかし下にはわらわらと観衆が集まってきている。上に向かって投げても、タイミングが合わなければ落ちてきて爆発だ。

「あと何秒!? っっ!!」

 叫んだニチカの間近を、何かがヒュンッと通過した。爆破寸前の爆弾をかすめ取った人物は、どこか虚ろな瞳でこちらを見ていた。師弟は揃ってその名を呼ぶ。

「ランバール!」
「ラン君! それ危ないの、早く捨てて!!」

 だが青年は小さく「ごめん」と呟いたかと思うとホウキを方向転換させた。止める間もなく時計塔の先端めがけて突っ込んでいく。そして



 少女が叫びながら手を伸ばした先で、青年もろとも風のオーブが爆破された。
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