異世界執事

伊簑木サイ

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第八章 そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。(R18バージョン)

同じ気持ちで

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 洗い場で、八島さんの膝の上に乗せられたまま手早く汗を流され、ちゃぷんと湯船に入る。……抱っこされながら。
 ……なんで一緒に入っているのかな。いや、もちろん、八島さんと一緒に入りたくないってわけじゃないよ。ただ、うっかりすると、た、たくましい裸の胸、が目に入っちゃう、し! 何にも着けてないお尻、が直に彼の足の上に乗っかってる、しで! しかも明るくて私の体も見えちゃってる、わけで、いろいろ、本当にいろいろと、いたたまれないんです……。
 ……いたたまれないって言えば、来る途中で、八島さんたらトイレにまで寄ってくれたんだよね……。どうぞ、とトイレの前で降ろされた時には、猛烈にいたたまれなかった……。行ったけどね! だって、寝起きだもんっ!! 
 ふと、いたたまれないつながりで、あれ? と気になる。昨日はたしか、ドレッシングルームから寝室まで一歩だった。でも今日は、縁側を歩いてきたぞ。なぜだろう。一歩だったら少しは恥ずかしくなかったのに。あ、もしかして、

「八島さん、八島さん、寝室には一歩で行けても、寝室から出るには、あの障子からしか出られないようになってるんですか?」
「いいえ、そのようなことはございませんが」
「じゃあ、なんで今日は一歩で来なかったんですか!?」
「私が異界渡りをする分には、さして影響はございませんが、未だ天仙にとどまる千世様は、生気を消耗いたします。お疲れと空腹が重なっていらっしゃいましたので、今朝は差し控えました。私の霊気をお分けしてもよかったのですが、そうするとまたお体が敏感になって、もう一、二度は交わらないとお気が済」
「わあああああっ、よくわかりました、すみません、すみません、もういいですーーーーーっ!!」

 慌てて八島さんの説明をさえぎる。うわーん、藪蛇だった、恥ずかしー!

「とりあえず、これで上がりましょうか」

 ザバリとお風呂から抱き上げて、脱衣所まで連れて行ってくれる。そこでかいがいしくバスローブを羽織らせてくれたり、お水を飲ませてくれたりするんだけど、八島さん、裸のままなんですけど、目のやり場に困るんですけどーーっっ!!

「あのっ、八島さんも着替えてきてくださいっ」
「ですが」
「ごはんっ、はやく食べたいから、先に用意しててもらえると嬉しいです!」
「……かしこまりました。お着替えは」
「自分でやれます、大丈夫です、とにかく八島さんはご飯をお願いします!」
「ですが」
「いいんです、いいんです、ちゃちゃっと自分でやって、ダイニングルームへ行きますから!」

 髪を拭いていた手が止まった。肩と背中に腕がまわって、ふんわりと抱き寄せられる。

「本当にお一人でおできになりますか?」

 耳元で囁かれ、ビシャーッと背筋を快感が奔り落ちていった。洗ったばかりのあそこがトロっと潤んで、腰砕けになってしまう。

「ふらついておられるようですが」

 ほらね、とでもいうように、にこおっと目が蕩けそうな優しげなまなざしで微笑みかけられる。
 わざとやってるくせに、『ふらついておられるようですが』、じゃなーい! と怒りたいのに、笑顔の威力に気持ちが削がれてしまい、への字になりかけた唇が引き攣る。
 それに、絶妙に、きゅっと抱きすくめてくる感じが心地よくて、体が自然に、はにゃーんと八島さんに寄り添ってしまうのだ。

「そんなお可愛らしいお顔をされると、霊気を注ぎ込んで、今すぐまたあなたを堪能したくなってしまいます、……千世様」

 欲望に掠れた声で呼ばれて、頭の中で、危険、と書かれたアラームが大きく鳴り響いて真っ赤に回りだした。
 このまま流されていたらまずい。昨夜から一度も服を着ることもご飯を食べることもなく、ベッドに逆戻りって、そんな乱れた生活はいけない。……っていうか、触れられれば触れられるほど感じ方がどんどん深く激しくなってく気がするのに、体の熱が冷めきってないこの状態でなだれこんだら、今度こそ絶対どこかおかしくなってしまう……。
 ぶるっときた。……神経が焼き切れそうなさっきまでの快楽を思い出して。

「やっぱり、今すぐ抱っこで連れてってもらえますかっ、八島さん!」
「かしこまりました。……その前に、少々失礼して」

 八島さんが離れ、私の背後の棚の前で何かしている。

「お待たせいたしました。……これならば、私を見ていただけますか?」

 再び目の前に戻ってきた彼は、バスローブを着ていた。わあ、真っ白いもふもふでおそろいだ。合わせ目から見える色気したたる鎖骨が目に毒だけど、重要な部分は隠れているので問題ない。

「やはりそうだったのですね。脱ぐようにご所望されても、ご覧になるのは恥ずかしがられるのですね」

 がちん、と私はかたまった。カーッと顔に血がのぼってくる。
 私ったら、昨夜はなんて大胆なことを口にしてしまったのーっ!!!

「ああ、なるほど、脱ぐように仰られたのは、見るためでなく、触られるためだったのですか。……けれど、目をそらされてばかりは寂しゅうございます。今度はこんな布一枚でも纏ったままで、……は、お嫌なのですか」

 わあっ、なんでバレるの!? 布一枚でも嫌、裸で抱き合うのがいいって思ったのは、一瞬だけだったのにーーーーーっ!!!
 熱い顔を覆って、へなへなと座り込む。
 もうやだ、どうして私、恥ずかしいことばかり考えちゃうんだろう!?

「千世様」

 頭が柔らかいものにくっつき、背中も温かいものに覆われた。どうやら八島さんに抱きしめられたようだった。

「私も、隔てるものなくあなたに触れたいと思っておりました。これからも、そう千世様が望んでくださるなら、これほど嬉しいことはございません」

 あ。八島さんも同じ気持ちでいてくれたんだ。
 地面にめり込んで隠れてしまいたいと思っていた心が、ふわりとほどける。顔を覆っていた手をはずして、目の前のバスローブをきゅっと掴んで、頬を寄せた。

「朝食を召し上がられたら、また何も纏わぬまま触れてもいいですか?」
「はい」

 私はなんだか嬉しくて、ふわふわした気持ちで後先考えずに頷いた。
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