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第四章 またまた転
寝耳に水
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「千世様」
声のした方を見れば、池の向こうに八島さんがいた。私は石橋を一目散に駆けていって、勢いあまって彼の胸にとびこんだ。どん、と体が当たり、ふわりと抱き留められる。
ああ、安心する。いやいや、違う違う、安心している場合じゃなかった。手に触れた服をギュッとつかんで、彼を見上げた。
「カイちゃん、カイちゃんがっ、」
「あの獣が、何か粗相をいたしましたか」
「そうじゃなくて、急に人の姿になっちゃったんです~。お洋服を用意してあげてください~」
それで私が見ちゃった記憶を忘れてしまえば、万事解決。と思ったのだけど、八島さんは考えこんで、少し首をひねった。
「それはあれに、常に人型であるように望むということですか?」
「いえ、あの、私じゃなくて、カイちゃんがそうしたいならなんですけど、……ええと、カイちゃんの種族は、大きくなったら人型でいるのが自然なんじゃないんですか?」
「そのようなことはないと思いますが。古来より、狸も狐も猫も鶴も、正体が明かされれば本性に戻って逃げると伝わっておりますし」
狸、狐、猫、鶴? 私は記憶の底をさらって、考え考え尋ねた。
「ええと、それはもしかして、狐と狸の化かしあいとか、化け猫とか、鶴は……、鶴女房のことでしょうか?」
「はい」
……ええっ!? 昔話って実は実話だったの!?
「日本の野生動物って、すごかったんですね!」
「確かに、獣の姿では、人の目では彼岸のものも此岸のものも区別がつかないでございましょうから」
あ、なんだ、そういうオチか。
自分の早とちりに苦笑した。けれど、そうだったのか、と納得する。そのへんにいる猫も鳥も狸も狐も、どうよく見たって化けそうにないと思っていたのだ。
あれは、彼岸の動物だったらから化けられたということなんだろう。そして、いざまさかの時に獣に戻るというのは、彼岸の動物でも、本性は人ではなくて、獣だからだということなんじゃないだろうか。
鶴女房が、どう考えても翼で機を織るより人間の手でやった方が簡単なのに、わざわざ鶴の姿に戻って機を織っていたというのは、そういうことなのだろう。先に抜いておいた羽を使えばいいのにと、子供心にも、ものすごくじれったく思ったものだ。
そうしなかったのは、本性でなければ使えない、神通力みたいなのがあるからなのかもしれない。カイも、明らかに獣姿の方が強そうだし。
ということは、今までと変わらない姿でいてくれるのかな。
辿り着いた考えに、なんだか心底ほっとした。
だって、人の姿になってしまったら、犬小屋に住まわせておくわけにはいかないし、そうすると、あんなに広いお屋敷なんだし、家族の一員なんだから、当然あの中にお部屋を用意してあげるわけで。そうしたら、若い男性が常時お屋敷の中をうろうろするようになるってことになる。……正直なところ、それはちょっと嫌だなって、思ってしまった。
もちろん中身はカイちゃんなんだって理解しているし、あの子のことは大好きだ。だけど、八島さんには及ばないとしても、じゅうぶんに眼福なイケメンで、しかもとっても強そうだったから、反射的に緊張するっていうか、かまえちゃうっていうか。……人懐っこい子犬だってわかってはいるんだけどね。
あ。でも、よく考えたら、それが一番不安かもしれない。人の姿になっても、さっきみたいに獣姿の時と変わらず、抱きついてぺろぺろしたり、迂闊に居眠りしていたら添い寝してきたり。ヘタすると寝室にももぐりこんできそうだし、それどころか裸になって、ちせーって大喜びでお風呂にも乱入してきそうだし!
その姿がはっきりと脳裏に浮かんで、ぞわっとした。犬の姿なら可愛くても、人の姿じゃ単なる痴漢……は言い過ぎかな、中身はカイちゃんだし、えーと、セクハラ、だよね。こう考えると、見た目って大きい。
……というか、あのイケメンもカイの姿なんだってわかっちゃったら、もう、もふもふしながら一緒に寝たいとは思えなくなっちゃったなあ……。
「千世様」
ちょっと背中がすうっとして、八島さんの片腕が前へと動いてきた。彼の服をつかんでいる私の手の上から、そっと包みこんでくる。あたたかく優しい感触に、ほわりと胸の中もあたたかくなった。
「なんですか?」
だから私は、安心しきって、考え事から彼に視線を戻した。いつもの優しい笑みがあるんだろうと思って。けれど。
「どうか、お許しを」
そこにあったのは、何を考えているのかわからない強いまなざしと、静かで、決してその言を違えられないとわかる声で。
私は戸惑って、瞬きを繰り返した。彼から、こんなに強く何かを求められたことがなかった。なのに、何を許してほしいと言っているのかもわからない。
まごついているうちに、包まれた手がゆるやかに持ち上げられて、逆らうことも思いつかず、つられて目で追う。
自分の手が、ゆっくりと、彼の口元に近づいていく。見守る先で、彼が瞳を閉じる。まるで、他のすべての感覚を遮断して、唇に触れたものだけを感じようとしているかのように。
指に柔らかい感触。触れているのは彼の唇。見ているモノと、脳まで届いた感覚が一致した瞬間、そこに、ずくりとした強烈な熱が生まれた。
思わず息を吞んで身を竦める。同時に、彼の柔らかい唇に食まれ、ちろり、と口の内側に入った場所を舐められた。ちろり、ちろりと、舌が指の背を渡っていく。そのたびに震えがはしり、疼きが体のすみずみまで熱を灯して奔り抜けていく。
……息が、うまく、できない。
私はあえいで、すすりあげるようにして息を吸った。その息が、燃えるように熱くなった体の中をめぐって、呻きとも悲鳴ともつかない声となって、こぼれ落ちた。
「ぃや……」
か弱い拒絶を示す声に、自分で驚いた。八島さんがどう思うかと、あわてて見上げれば。
「お嫌なのですか?」
真摯に私の真意を問う声が降ってくる。瞳が交わり、そこにある色に、キシリと胸の奥が痛んだ。……そう。彼はいつも、私の気持ちを優先してくれようとする。たとえそれが、どんなに憂いと痛みを秘めたまなざしを伴っていたとしても。
私は反射的に横に首を振って、違うと示した。そんな瞳をさせたくなかった。嘘をついて、さらに彼の憂いを深くするなんてできなかった。……だって、本当は嫌なんかじゃなかった。ただ、身を焼くような疼きが、耐え難かっただけで……。
「では、私も獣の姿になれば、その唇で触れてくださいますか?」
私は驚きに目を見開いた。びっくりしていろんなものが吹き飛んで、勢い込んで聞く。
「八島さんも、人の姿が本性じゃないんですか!?」
「いいえ。私はこれが本性です」
「でも、今、獣の姿って」
「望めば、どのような姿にも変わることができます」
あ、と思い出す。そうだった。彼の種族は、様々な神器に姿を変えたのだった。
「そのままでいいです。そのままでいてください」
「でしたら、このままの姿でも、私にも唇で触れてくださいますか?」
「ど、どうして、そういうことになるんですか!?」
八島さんは数瞬押し黙った。その瞳に、少し恨みがましい色がのったように見えるのは、気のせいだろうか。
「……カイには、好きに舐めさせ、唇を寄せるではありませんか」
「え、だ、だって、カイは犬じゃないですか」
「正確には犬ではありません。犬の一種ではありますが。此岸にて、いわゆる人狼と呼ばれるものです」
「えええ!?」
じ、人狼っていったら、満月の晩に狼になる、あれ!? あれの正体は、彼岸の犬、じゃなくて、狼だったの!?
うわああああ、私ったら、今までなんてことを……!! それはつまり、男の人に(仮の姿だけど!)舐めさせたり(手だけだけど!)、じ、自分からチュー(犬の鼻の頭にのつもりだったんだけど!)しようとしてたってこと!? ぎゃああああああっ。なんて積極的な迫りっぷり!
「し、知らなかったんです、犬だって思ってたんです、本当です、信じてください~~っっ」
「ええ。承知しております。ですから、ああいった獣の姿になれば、」
「なったって、今さらできませんっ。だって、本性は人の姿じゃないですかっ。カイちゃんにだって、もうできませんよっ。人の姿にもなれるって、わかったからです!」
八島さんは黙った。まじまじと人の顔を見ている。……この表情の意味を知っている気がするぞ。これまでに何度か、困惑させられた時と同じだ。たぶんきっと、人の常識とはかけ離れたことを考えているに違いない。
かけ離れ過ぎているせいで、何を考えているのかまったく見当つかないっていうのが、また困りものだった。できたらスルーしてしまいたいけれど、このまま常識の食い違いを放置しておく方が、後々困る。私は八島さんが口を開くのを、戦々恐々として待った。
「ならば、どうすれば愛を教えていただけますか?」
ほらきたーっ!!
って、え?
「あ、愛?」
「人は愛を交わすのに、舐めさせたり、唇で触れると聞き及んでおります。以前、愛を教えていただけないかとお願いいたしましたが、未だ是とも否ともお返事をいただいておりません。カイにこれ以上与えないと仰るのならば、今一度私にお願いいたしたく存じます」
「う、ええ?」
私は真っ赤になった。人は愛を交わすのに舐めさせたり唇で触れたりって、そ、そうかもしれないけど、それはかなり深い仲の人たちことで、しかも人前ではしないよ、赤裸々に言わないでーっ!! て言うか、愛を教えるのに、いきなりそれからって、違うでしょーーーっっ!!!
わかってない、この人。いや、人じゃない、人外だった。この人外、ぜんぜんまったくまるっきり、愛ってものがなんだか、なんにもわかってない!!
衝撃の事実に気付いて、私は内心、頭を抱え込んだ。
声のした方を見れば、池の向こうに八島さんがいた。私は石橋を一目散に駆けていって、勢いあまって彼の胸にとびこんだ。どん、と体が当たり、ふわりと抱き留められる。
ああ、安心する。いやいや、違う違う、安心している場合じゃなかった。手に触れた服をギュッとつかんで、彼を見上げた。
「カイちゃん、カイちゃんがっ、」
「あの獣が、何か粗相をいたしましたか」
「そうじゃなくて、急に人の姿になっちゃったんです~。お洋服を用意してあげてください~」
それで私が見ちゃった記憶を忘れてしまえば、万事解決。と思ったのだけど、八島さんは考えこんで、少し首をひねった。
「それはあれに、常に人型であるように望むということですか?」
「いえ、あの、私じゃなくて、カイちゃんがそうしたいならなんですけど、……ええと、カイちゃんの種族は、大きくなったら人型でいるのが自然なんじゃないんですか?」
「そのようなことはないと思いますが。古来より、狸も狐も猫も鶴も、正体が明かされれば本性に戻って逃げると伝わっておりますし」
狸、狐、猫、鶴? 私は記憶の底をさらって、考え考え尋ねた。
「ええと、それはもしかして、狐と狸の化かしあいとか、化け猫とか、鶴は……、鶴女房のことでしょうか?」
「はい」
……ええっ!? 昔話って実は実話だったの!?
「日本の野生動物って、すごかったんですね!」
「確かに、獣の姿では、人の目では彼岸のものも此岸のものも区別がつかないでございましょうから」
あ、なんだ、そういうオチか。
自分の早とちりに苦笑した。けれど、そうだったのか、と納得する。そのへんにいる猫も鳥も狸も狐も、どうよく見たって化けそうにないと思っていたのだ。
あれは、彼岸の動物だったらから化けられたということなんだろう。そして、いざまさかの時に獣に戻るというのは、彼岸の動物でも、本性は人ではなくて、獣だからだということなんじゃないだろうか。
鶴女房が、どう考えても翼で機を織るより人間の手でやった方が簡単なのに、わざわざ鶴の姿に戻って機を織っていたというのは、そういうことなのだろう。先に抜いておいた羽を使えばいいのにと、子供心にも、ものすごくじれったく思ったものだ。
そうしなかったのは、本性でなければ使えない、神通力みたいなのがあるからなのかもしれない。カイも、明らかに獣姿の方が強そうだし。
ということは、今までと変わらない姿でいてくれるのかな。
辿り着いた考えに、なんだか心底ほっとした。
だって、人の姿になってしまったら、犬小屋に住まわせておくわけにはいかないし、そうすると、あんなに広いお屋敷なんだし、家族の一員なんだから、当然あの中にお部屋を用意してあげるわけで。そうしたら、若い男性が常時お屋敷の中をうろうろするようになるってことになる。……正直なところ、それはちょっと嫌だなって、思ってしまった。
もちろん中身はカイちゃんなんだって理解しているし、あの子のことは大好きだ。だけど、八島さんには及ばないとしても、じゅうぶんに眼福なイケメンで、しかもとっても強そうだったから、反射的に緊張するっていうか、かまえちゃうっていうか。……人懐っこい子犬だってわかってはいるんだけどね。
あ。でも、よく考えたら、それが一番不安かもしれない。人の姿になっても、さっきみたいに獣姿の時と変わらず、抱きついてぺろぺろしたり、迂闊に居眠りしていたら添い寝してきたり。ヘタすると寝室にももぐりこんできそうだし、それどころか裸になって、ちせーって大喜びでお風呂にも乱入してきそうだし!
その姿がはっきりと脳裏に浮かんで、ぞわっとした。犬の姿なら可愛くても、人の姿じゃ単なる痴漢……は言い過ぎかな、中身はカイちゃんだし、えーと、セクハラ、だよね。こう考えると、見た目って大きい。
……というか、あのイケメンもカイの姿なんだってわかっちゃったら、もう、もふもふしながら一緒に寝たいとは思えなくなっちゃったなあ……。
「千世様」
ちょっと背中がすうっとして、八島さんの片腕が前へと動いてきた。彼の服をつかんでいる私の手の上から、そっと包みこんでくる。あたたかく優しい感触に、ほわりと胸の中もあたたかくなった。
「なんですか?」
だから私は、安心しきって、考え事から彼に視線を戻した。いつもの優しい笑みがあるんだろうと思って。けれど。
「どうか、お許しを」
そこにあったのは、何を考えているのかわからない強いまなざしと、静かで、決してその言を違えられないとわかる声で。
私は戸惑って、瞬きを繰り返した。彼から、こんなに強く何かを求められたことがなかった。なのに、何を許してほしいと言っているのかもわからない。
まごついているうちに、包まれた手がゆるやかに持ち上げられて、逆らうことも思いつかず、つられて目で追う。
自分の手が、ゆっくりと、彼の口元に近づいていく。見守る先で、彼が瞳を閉じる。まるで、他のすべての感覚を遮断して、唇に触れたものだけを感じようとしているかのように。
指に柔らかい感触。触れているのは彼の唇。見ているモノと、脳まで届いた感覚が一致した瞬間、そこに、ずくりとした強烈な熱が生まれた。
思わず息を吞んで身を竦める。同時に、彼の柔らかい唇に食まれ、ちろり、と口の内側に入った場所を舐められた。ちろり、ちろりと、舌が指の背を渡っていく。そのたびに震えがはしり、疼きが体のすみずみまで熱を灯して奔り抜けていく。
……息が、うまく、できない。
私はあえいで、すすりあげるようにして息を吸った。その息が、燃えるように熱くなった体の中をめぐって、呻きとも悲鳴ともつかない声となって、こぼれ落ちた。
「ぃや……」
か弱い拒絶を示す声に、自分で驚いた。八島さんがどう思うかと、あわてて見上げれば。
「お嫌なのですか?」
真摯に私の真意を問う声が降ってくる。瞳が交わり、そこにある色に、キシリと胸の奥が痛んだ。……そう。彼はいつも、私の気持ちを優先してくれようとする。たとえそれが、どんなに憂いと痛みを秘めたまなざしを伴っていたとしても。
私は反射的に横に首を振って、違うと示した。そんな瞳をさせたくなかった。嘘をついて、さらに彼の憂いを深くするなんてできなかった。……だって、本当は嫌なんかじゃなかった。ただ、身を焼くような疼きが、耐え難かっただけで……。
「では、私も獣の姿になれば、その唇で触れてくださいますか?」
私は驚きに目を見開いた。びっくりしていろんなものが吹き飛んで、勢い込んで聞く。
「八島さんも、人の姿が本性じゃないんですか!?」
「いいえ。私はこれが本性です」
「でも、今、獣の姿って」
「望めば、どのような姿にも変わることができます」
あ、と思い出す。そうだった。彼の種族は、様々な神器に姿を変えたのだった。
「そのままでいいです。そのままでいてください」
「でしたら、このままの姿でも、私にも唇で触れてくださいますか?」
「ど、どうして、そういうことになるんですか!?」
八島さんは数瞬押し黙った。その瞳に、少し恨みがましい色がのったように見えるのは、気のせいだろうか。
「……カイには、好きに舐めさせ、唇を寄せるではありませんか」
「え、だ、だって、カイは犬じゃないですか」
「正確には犬ではありません。犬の一種ではありますが。此岸にて、いわゆる人狼と呼ばれるものです」
「えええ!?」
じ、人狼っていったら、満月の晩に狼になる、あれ!? あれの正体は、彼岸の犬、じゃなくて、狼だったの!?
うわああああ、私ったら、今までなんてことを……!! それはつまり、男の人に(仮の姿だけど!)舐めさせたり(手だけだけど!)、じ、自分からチュー(犬の鼻の頭にのつもりだったんだけど!)しようとしてたってこと!? ぎゃああああああっ。なんて積極的な迫りっぷり!
「し、知らなかったんです、犬だって思ってたんです、本当です、信じてください~~っっ」
「ええ。承知しております。ですから、ああいった獣の姿になれば、」
「なったって、今さらできませんっ。だって、本性は人の姿じゃないですかっ。カイちゃんにだって、もうできませんよっ。人の姿にもなれるって、わかったからです!」
八島さんは黙った。まじまじと人の顔を見ている。……この表情の意味を知っている気がするぞ。これまでに何度か、困惑させられた時と同じだ。たぶんきっと、人の常識とはかけ離れたことを考えているに違いない。
かけ離れ過ぎているせいで、何を考えているのかまったく見当つかないっていうのが、また困りものだった。できたらスルーしてしまいたいけれど、このまま常識の食い違いを放置しておく方が、後々困る。私は八島さんが口を開くのを、戦々恐々として待った。
「ならば、どうすれば愛を教えていただけますか?」
ほらきたーっ!!
って、え?
「あ、愛?」
「人は愛を交わすのに、舐めさせたり、唇で触れると聞き及んでおります。以前、愛を教えていただけないかとお願いいたしましたが、未だ是とも否ともお返事をいただいておりません。カイにこれ以上与えないと仰るのならば、今一度私にお願いいたしたく存じます」
「う、ええ?」
私は真っ赤になった。人は愛を交わすのに舐めさせたり唇で触れたりって、そ、そうかもしれないけど、それはかなり深い仲の人たちことで、しかも人前ではしないよ、赤裸々に言わないでーっ!! て言うか、愛を教えるのに、いきなりそれからって、違うでしょーーーっっ!!!
わかってない、この人。いや、人じゃない、人外だった。この人外、ぜんぜんまったくまるっきり、愛ってものがなんだか、なんにもわかってない!!
衝撃の事実に気付いて、私は内心、頭を抱え込んだ。
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