(自称)愛の女神と巫女姫と護衛騎士

伊簑木サイ

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17 女神の神罰

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 女神のまとう光が強さを増す。切っ先をラズウェルに向け、女神は高らかに宣言した。
「くたばれ、阿呆!!」
 そして、腰を落とし、左へ剣を傾けたかと思うと、右へ一閃、目にもとまらぬ速さで振り抜いた。
 ガオン、とくうが唸った。
 ド、ド、ド、ド、と重低音を響かせて衝撃波が広がり、川面を割って対岸へ到達する。
 筏は宙を舞って木端微塵となり、大量の水や衝撃波とともにドレクサス軍へ襲いかかった。
 ドウンッ。
 凄まじい爆発音が響き渡る。水飛沫にあたりが煙った。
 その時には、走りだした女神は川端で踏みきり、ぴょーんと空を飛んでいた。ネイドが止める間もなかった。コートとドレスの裾と黒髪をなびかせ、一キロはありそうな川幅を飛び越えた彼女は、ようやく落ち着きかけた水煙の中、ラズウェルに斬りかかった。
 ドガァッ。土煙をあげ、ラズウェルを中心に半径五十メートルほど地面が沈む。
 ネイドには、ラズウェルが盾をあげ、防いだのが見えた。しかしそれは一刀両断され、兜を半分ほど割ったところで人体と神馬がひしゃげて、地の底へと叩きつけられていった。
 女神はその反動を利用して、宙で後ろに一回転し、クレーターの縁に降り立った。高く剣を振り上げ、無言で渾身の一刀を振り下ろす。
 ドッゴォォンッッ!!
 衝撃音は、耳で音を拾ったというより体で聞いたという方が正しい。文字通り地が裂け、集っていた人馬が人形か何かのように飛び散った。
 女神は最早用はないとばかりにドレクサスに背を向け、軽々とイステア側へと飛んだ。その後の抉れた地面を、地形が変わってしまったそこを、ルフスタンの水が覆っていく。
 幸運にも生き残った軍勢は、悲鳴をあげて逃げだした。
 ネイドは声もなく、空を飛ぶ金色の淡い光をまとった華奢な体を目で追っていた。それが途中で、ぐらりと傾いだ。
「フェスティア女神!」
 彼は女神が降りてくる地点をめざして駆けだした。
 女神の手からはいつの間にか剣が失われ、まとう光が心なしか弱くなっている。女神の見せた動きは、とても人間の体に耐えられるものとは思えなかった。ネイドは嫌な予感に心臓を握りつぶされそうな不安を感じながら、必死に走った。
 彼が女神の真下に辿り着いた時、女神は宙に浮いたままそこに留まっていた。意識がはっきりしていないようだ。
「女神よ!!」
 呼びかけると、緩慢に頭が動いて、恐る恐るという感じで下を覗きこんでくる。
 ばちり、と視線があった。
「ネイド、様?」
 不安げな呟きが聞こえた。
「巫女姫なのですか!? 大丈夫ですか!?」
 まさかと思いつつ呼びかけると、え? え? と不安そうにキョロキョロとあたりを見回しはじめた。
「降りてこられますかっ?」
「え? あ、え、えーと、」
 その時だった。夕暮れ時の強い川風が吹き、巫女姫のコートとスカートの裾を、盛大にめくりあげた。
 黒いストッキングをはいた足が、腿まであらわになる。特に、真下にいるネイドには、黒い下着に包まれた丸いお尻まで丸見えだった。
「きゃああああっ!?」
 ネイドはたじろいで二、三歩下がった。ちょうど、裾を押さえようと慌てて下を向いた巫女姫と、また目が合う。
 巫女姫は、その瞬間、真っ赤になった。ネイドはその前から赤かった。……つまり、見えてしまったのを隠せなかったのだ。
「い、いやあああああああっ」
 すべてを悟った巫女姫は、悲鳴をあげて、反射的にくうを蹴った。ネイドから姿を隠したい一心で。
 ところがその一蹴りは、未だ女神の力の残滓を宿していたために、ぴよーんと彼女の体を空高くに舞い上げた。
 そうして。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 巫女姫の姿は悲鳴の尾を引きながら、アルス山の方向に小さくなっていったのだった。
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