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第6話

盗賊と評判の悪い王子3

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「なんだと? この、クソガキが!! 税金巻きあげるだけ巻きあげといて、攻め込まれたら切り捨てやがって。要衝でもない、肥えた土地でもない場所は、盗られたって惜しくないか。十羽一からげの庶民なんざ、何人殺されようと、生き残ろうと、興味もないか!! 土地もなけなしの家財も失くして、どうやって生きていけっていうんだ。せっかく生き延びた奴が、それでどれほど死んでいったと思っている。金を生まない奴を、おまえたちは人間とすら見てねえ。狩るだけの獣と同じだと思ってやがる!! ふざけやがって!!」

 目からも口からも火を吹きそうに、カルディは怒鳴った。
 そのとおりだった。国は、いや、国をあずかる俺たちは、手の回らないものを、そうやって切り捨ててきた。それは、何もしてこなかった俺も同罪だ。

「だからって、俺を武王にさし出してどうする」
「面会の手土産だ。会って、この手で殺してやる!!」

 ぎりぎりと歯噛みして。目を怒らせて。気がふれたかと思うほどの形相で。
 そうだったのか。こいつは、三十年近くも、復讐を果たすために生きてきたのだ。盗賊に身を落としても。己の誇りを捨てても。ただ、それだけのために。
 そこに、やっと、かつての友の姿を見出す。 

「無謀だな」
「黙れ! てめえに言う資格はないっ」
「あるさ。俺だってあいつはぶっとばしたいんだよ」

 他国を侵略しては無益な殺生を繰り返す大阿呆に、いつか煮え湯を飲ませてやらなきゃ気がすまないと思っていた。
 あいつがナヤトレイを襲わなければ、俺は魔法使いになんかならなかった。そして、カナポリを襲わなければ、数百人も蒸発させて殺したりしないですんだのだ。

「なあ。俺におまえたちの身柄を預からせてもらえないか」

 カルディは、黙って怒りに滾る目で、俺を睨みつけていた。

「俺は次の守護魔法使いになる。でかい争い事が起これば、必ずかり出される身だ。いつとは約束できないが、必ずぺリウィンクルの武王とはやりあう。それを、俺の下で待たないか」
「盗賊を飼おうってのか。ろくな噂を聞かないあんたに、そんなことができるのか」
「できるかできないかじゃなくて、そうするだけ・・・・・・だ。まあ、もうちょっと紳士に見える格好はしてもらわなきゃならないが。ノミだらけのそれより着心地いいのを用意する」
「国王の犬になるのはごめんだ」

 カルディは唾を吐き捨てた。

「じゃあ、今ここで死ぬか?」

 俺たちは睨みあった。
「何もできないまま、無駄死にするか? 仲間も巻き込んで? 果たしたい目的があるんだろ? だったら、俺を利用しろ。俺もあんたをこき使うが、そこは持ちつ持たれつだ。そうだろ、ナヤトレイのカルディ?」

 しばらく俺の腹の中をさぐるように見た後、カルディは心底忌々しそうに鼻を鳴らした。

「あんたを王子だの殿下だのって、呼ぶのだけはしたくねえ」
「かまわない。呼び捨てにしろ。どうせあんたにそんな呼び方されたら、虫唾が走るに決まってる」
「かわいくねえガキだな」

 俺は笑った。昔、殴りあった後と同じこと言ってやがる。俺はこいつより二つ年下だったのだ。

「上がって来いよ、ほら」

 手を貸してやろうと、穴の中へ伸ばす。

「いらねえ。どいてろ」

 カルディは自力で力強く土の壁を登って、地上へと出てきた。
 じろりと俺を横目で見て、チッと舌打ちをもらし、さっさとしろよ、と言う。

「説得するから、あの妙な蓋、どけろ」

 俺はゆっくりと左から右へと腕を薙いで解除すると、カルディに顎をしゃくってみせた。
 カルディはあからさまに面白くないという顔をして、仲間たちを呼び集めに行ったのだった。
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