上 下
25 / 104
第4話

新しい二つ名2

しおりを挟む
 ぐでぐでとベッドに逆戻りしながら、俺はルシアンに催促した。

「ルシアン、メシ~」
「ああ、うん。用意させてる。もうちょっと待って」

 ルシアンは何か言いたげな顔で、ベッドの脇に突っ立っている。

「座れば?」
「……うん」

 たぶん看病用の椅子だろう、おとなしくそこに座るが、顔色が冴えない。無理に突っついても口を割るような奴じゃないので、俺は別の話題をふった。

「被害は出たのか?」
「ううん」
「庭は」
「大丈夫。俺が割ったテーブルセットだけ」
「そうか。よかった。ありがとうな、ルシアン。あれを始末するの、大変だっただろう」

 被害もなく、俺も還元してないなんて。

「どうやったんだ?」
「別に。ブラッドを探しただけ」

 ああ、まあ、そうかもしれない。還元されなければ、ただの人間が一人と、ちょっと活性化した空間だけだ。
 それにしても、腹が減った。メシまだかな。ひもじいな。

「……あのさ、ブラッド」
「なに」
「あの女のこと、そんなに真剣なの」
「ああ?」

 まだ言ってやがる。

「あのな、あの人は母親だろ。それ以上でもそれ以下でもねーよ」
「だって、ジョシュアから奪おうとしたって聞いた」
「ちがうだろ。ジョシュアを焚きつけて、あの人を迎えに来させようとしたんだろ。それで俺がやっつけられれば、あの人だって、ジョシュアを見直すだろ。それでハッピーエンドじゃんか」

 ルシアンは、え、と声を漏らしたきり、動かなくなった。俺を穴があくほど見つめている。

「それ本気で言ってるの?」
「本気って、おまえ、なんだと思ってたんだよ。途中で邪魔するしさ。俺を手伝ってくれるつもりじゃなかったのかよ。それにだいたい、いくらなんでも、兄弟喧嘩としてもあれはやりすぎだろ。大惨事になるところだったじゃねーか」

 俺が十日も目が覚めなかったっていうのは、魔力が枯渇しかかって、戻るのにそれだけ時間がかかったってことだろう。下手すれば死んでるところだ。一人で小石かなんかに生まれ変わってたら、どうしてくれるつもりだ。
 ぶつぶつと文句を垂れ流していると、

「ブラッドってさあ」

 ルシアンが心底呆れたという声を出す。

「女心に物凄くうといよね」

 俺は絶句した。その通りだ。反論できない。だけど、どうして今そんなことを言われなきゃならない。

「なに言ってやがる」
「普通さ、女は好きな男を倒した男を恨んだり怒ったり嫌ったりはしても、好きになったりはしないと思うよ」
「ええ? 強い男のがいいだろ、普通・・
「だったら、滅ぼされた国の女は皆、滅ぼした国の男を好きになるわけ? 普通・・それって、悲劇に分類されるよね」

 う。言われてみれば。
 てことは、俺のしたこと、初めから終わりまで、見当違いの、骨折り損の、くたびれもうけ?
 うあああああ。
 俺はがっくりとシーツに顔を伏せた。

「ブラッドって、いつも軽々と俺の想像超えるよね」

 なぜかとても上機嫌にルシアンは笑った。

「さすがブラッド。兄さんはやっぱりすごいなあ」

 それって、全然褒めてねーだろっ。

「いいからはやく、メシ、持ってこーい!!」

 俺は自棄になって叫んだ。


 
 こうして俺は『悪霊憑き』の二つ名も手に入れた。
 その悪霊は魔法使いを狙っていて、鉄杭で刺し殺したあげく、凍らせ、地中に埋めて、花を手向けるそうだ。そして、どんな結界も破るので、狙われたら最後逃げることはかなわず、また、怒らせると口から火柱を吹くという。

 火柱なんて吹けねーよ!! どいつもこいつも怯えた視線で人の口元見やがって!! いっそ、やれるもんなら、やってみてーよ!!



 ネニャフル王国国王の甥、英雄の息子、類稀なる魔法の才能を持ったブラッド・アウレリエ。
 彼の受難は、まだまだ続く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...