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第三章 大河サラン視察
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その後、ソランたちは大河に沿って川上へと向かい、一号取水場の北西にある小高い山に築かれたエニュー砦に入った。
馬を預け、警備隊長と挨拶を交わし、すぐに物見台に案内された。
素晴らしい景色だった。左手には大河。眼下に支流である水路がゆるやかにくねりながら、少し高い地に築かれた三つの塔を持つ王都へと、きらめきながら流れていく。あたりは深い秋色に染まり、平和と豊穣が地平線の果てまでおおっていた。
目の端にハレイ山脈を認め、頂の雪が、傾いた日に金色に輝くのを見た時、ソランはこみ上げてくる熱いものに、息を止めた。
神々は遥か昔に遠く去り、最早この地上にいない。それでも神々の残した息吹は確かに息づき、世界に恩寵をもたらしている。それは日常に隠された、まごうことなき奇跡だった。
――今日の一日が与えられたことに感謝いたします。
ソランは、女神と、初めて女神以外の神々にも、心の中で祈りを捧げた。
どのくらいそうしていたのだろう。ソランの頭に、ぽんぽんと二度手がのせられた。いたわりのこもったそれに、顔を向ける。殿下の緑色の瞳が、光の加減で山脈と同じ金色に見えた。クシャリと髪をかき混ぜられる。
「泣かんでもよいだろう」
言われてもわからずにきょとんとしていると、頭の上にあった手が下りてきて、少々荒っぽく頬を拭われた。
「え? あれ?」
自分でもびっくりして、慌てて両手で顔を拭く。でも、涙は付いてこなかった。一粒二粒零れ落ちただけらしい。それでも恥ずかしくて、ソランは真っ赤になった。
「まあ、わからんでもないがな。守らねばと思わされる」
殿下は目の前の風景に視線を戻した。
ソランはすぐ隣にある、殿下の横顔に見入った。瞳は強い力を宿し、冒しがたい威厳が全身から放たれている。
――嗚呼。
唐突に心が震えた。
――この人の盾となり剣となりたい。
心臓が高鳴り苦しかった。ソランは血が逆流するような感覚の中で確信していた。
私はずっと、この方を探していたのだ。暁の中、追い求めていたのは、他の誰でもなく、この方、だったと。
馬を預け、警備隊長と挨拶を交わし、すぐに物見台に案内された。
素晴らしい景色だった。左手には大河。眼下に支流である水路がゆるやかにくねりながら、少し高い地に築かれた三つの塔を持つ王都へと、きらめきながら流れていく。あたりは深い秋色に染まり、平和と豊穣が地平線の果てまでおおっていた。
目の端にハレイ山脈を認め、頂の雪が、傾いた日に金色に輝くのを見た時、ソランはこみ上げてくる熱いものに、息を止めた。
神々は遥か昔に遠く去り、最早この地上にいない。それでも神々の残した息吹は確かに息づき、世界に恩寵をもたらしている。それは日常に隠された、まごうことなき奇跡だった。
――今日の一日が与えられたことに感謝いたします。
ソランは、女神と、初めて女神以外の神々にも、心の中で祈りを捧げた。
どのくらいそうしていたのだろう。ソランの頭に、ぽんぽんと二度手がのせられた。いたわりのこもったそれに、顔を向ける。殿下の緑色の瞳が、光の加減で山脈と同じ金色に見えた。クシャリと髪をかき混ぜられる。
「泣かんでもよいだろう」
言われてもわからずにきょとんとしていると、頭の上にあった手が下りてきて、少々荒っぽく頬を拭われた。
「え? あれ?」
自分でもびっくりして、慌てて両手で顔を拭く。でも、涙は付いてこなかった。一粒二粒零れ落ちただけらしい。それでも恥ずかしくて、ソランは真っ赤になった。
「まあ、わからんでもないがな。守らねばと思わされる」
殿下は目の前の風景に視線を戻した。
ソランはすぐ隣にある、殿下の横顔に見入った。瞳は強い力を宿し、冒しがたい威厳が全身から放たれている。
――嗚呼。
唐突に心が震えた。
――この人の盾となり剣となりたい。
心臓が高鳴り苦しかった。ソランは血が逆流するような感覚の中で確信していた。
私はずっと、この方を探していたのだ。暁の中、追い求めていたのは、他の誰でもなく、この方、だったと。
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