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 開放的な大きな窓には蔦模様の窓枠がはめられている。深い緑に植物模様の重厚なカーテンが掛かっており、脇に寄せられて金のタッセルでくくられていた。部屋の柱にも金の蔦の装飾が這い……、以下略。

 本館の応接間に来ております。茶会の会場です。……緊張に身震いする。一緒に会場の最終確認をしていたシュリオスに、すぐに気付かれてしまった。

「セリナ、どうしましたか?」
「なんでもありませんわ」

 どうしましたか、ではありませーん! と思ったけれど、ニコリと返す。
 こんな、きらきらしくて歴史と権威を感じるお部屋に入るだけでも緊張するのに、本日はシュリオスと私が主催なのです!! まだ結婚してもいないのに!! 女主人でもないのよ!! どうしてこうなったのおおおお!?

 いえ、わかってはいるの。王女が公爵家を正式に訪問すると大事になるから、近々義理の姉妹になる『私』と親交を結ぶために、お忍びでいらっしゃるという形を取ることになったのだ。

 フレドリック様に会いに来たことにすればいいのに、と思ったけれど、それだと他の方々が顔を出した場合、恋人の逢瀬を邪魔することになるわけで。後に面会の噂が広まった場合、社交シーズンが終わったのに王女との面会を取り付けようと、王女の邪魔をした不届き者ということになってしまって、外聞がよろしくない。
 その点、私とお茶をするだけなら、お互い公爵家の婚約者を持つ者同士、たとえ飛び入りがあっても、交友を広めるのはむしろ良いことで、これ以上の適役はいない。

 つまり、私がヴィルへミナ殿下をおもてなしせねばならない。殿下を訪ねてきた方々も。これが緊張しないでいられましょうか!

 落ち着くのよ、私。自信なさげに振る舞うのが一番いけないと教わったではないの。大丈夫、今の私は、身支度は完璧(公爵家が揃えてくれて、公爵家の侍女が着付けてくれたのですもの)、このお部屋は二番目に格の高い応接室だし(別に国王・法王クラス専用があるんですって……)、お茶やお菓子もマデリナ様監修で、手落ちはない。
 あとは、二間続きのこの応接間を行き来して、殿下が指し示した者を案内するだけ。それさえできれば、役割は果たせる。

 そう、このお部屋は二間続きになっている。殿下がお過ごしになるこのお部屋と、一部壁にさえぎられたあちらのお部屋。あちらはその他大勢が集うことになっている。
 開口部から見える人々の中から、殿下が興味を引かれた者をこちらに招く。殿下は貴い御方。下々からお声を掛けて煩わせることなど許されないので。

 今日いらっしゃる方々はお知り合いが多い。気心が知れているから、呼びに行くにしても気楽だし、間違えて紹介するなんてこともありえない。私が知らない方々については、シュリオスが請け負ってくれるし。

「うん、なんとかなるわ」

 つい口に出して頷くと、シュリオスの腕に添えている手に手を添えられた。思わず見上げる。

「やっとこちらを見てくれましたね」

 優しい笑みと冗談めかした口調に心が温まる。眼鏡はしていても、雰囲気でどんなお顔をしているのかわかる。

「私がいます。頼ってください」
「はい。シュリオスがいてくれて心強いです」

 昨夜も、殿下は明朗快活な気性で細かいことは気にしないおおらかな性格だとか、若者だけの気楽な茶会ですとか、ある意味無礼講だから気負わなくていいとか、不安が和らぐよう言葉を尽くしてくれていた。
 ただ、最終的に、「不届き者は私が責任を持って制裁しますから、思うままに振る舞っていいのですよ」と言いだしてしまって……。

 シュリオスが有言実行な人なのは知っている。未来の公爵夫人が侮られたら、放っておけないのもわかる。でも、私の失敗で将来有望な方々の未来を握りつぶされたら、申し訳ないにも程がある。
 もっとも、いらっしゃる方で不届きなことをするような人は、いそうにない。皆様、気が良くて親切な紳士淑女ばかりだもの。

 それに、お友達のお顔を久しぶりに見られるだけでも嬉しい。皆様に楽しんでいただけるといいのだけれど。
 そのためにも、念入りに準備をしなければ!

「こちらはいいと思うのですけれど、シュリオスから見てどうですか?」
「問題ないと思います」
「では、次はあちらを」

 絨毯や部屋の境目で足の引っ掛かりそうな所をチェックしながら、続き部屋へと向かった。
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