15 / 46
【4】夜会に参加しました。
2
しおりを挟む
お父様、お母様、そんな微妙だったり微笑ましげだったりする目で見ないで! シュリオス様とはなんでもないのですよ! 婚約者のいらっしゃる方です! 祖母君の年若い友人を迎えに来てくださっただけです! お二人だってわかっていらっしゃるはずでしょおおおーーーっ!?
「さあ、行きましょう」
ええと、ええと、腰を抱かれて、手を繋いだままだと、あなた様の肘に手を添えられないのですが!? 本格的なエスコートって、こういうものだったかしら!? マナーの先生はどう言っていたのだったか……。
考えたいのに、手をにぎにぎされて、手繰り寄せていた記憶の何もかもが霧散する。
指から伝わる感覚が! なんだか艶めかしい!
あわあわして反射的に見上げたら、悪戯そうに笑っていた。
んもー! 人の悪さを発揮していますね!? この方は、もおおおおーー!!
あわあわプンプンしているうちに、流れるように馬車に乗り込んでいた。
バタンと扉が閉められ、はっとする。
狭い馬車の中で、二人きり!? あれ!? 今まで私、この方とどんなふうに話していたのだったかしら!?
気の利いた会話ー! 話題ー! 話題ー! 思い浮かばないー! 焦るー!
ドッキンドッキン心臓が鳴って、頭の中が真っ白になる。ど、どうすればいいのかしら……。
「セリナ嬢?」
話しかけてくださった、ありがたいー!
とはいえ、とっさのことで、か細い声しか出てこない。
「……はい」
「ああ、よかった。急に静かになって動かないから、本当に花になってしまったかと思いましたよ」
うっ。どうして、殺し文句しか吐かないの!? ほら、また、カーッと顔が熱くなってきて、どぎまぎしてしまうではないのー!
「じょ、冗談ばかり、おやめください……」
兄だったら、靴の踵で足を踏んでやるのに!
「冗談ではないですよ。冗談に聞こえるのなら、私の言い方が悪いのですね。……正直に告白すると、今夜のあなたは可憐すぎて、私も気持ちがうわずってしまって」
口元を押さえて、顔が少し横を向いたのは、照れて目をそらしたのかしら?
そんな態度を取られると、私も、もじもじしてしまう……。
彼の手が下ろされ、顔がまたこちらを向く。
「こんなに美しいレディを前にして、うまく賞賛の言葉が浮かんでこないなんて、紳士にあるまじき無作法ですね。申し訳ありません」
いえ、いえ、いえ、いえ、もうそれが殺人的な褒め言葉ですがー!?
ああっ、そんなにしょんぼりしないでください! 大きい方がしょんぼりすると、かわいい、……んんっ、いけない、いけない、どうしていつもかわいいなんて思ってしまうのかしら、こんなに立派な紳士に対して。でも、放っておけなくなる……。
思わず身を乗りだして、膝の上の彼の手を握る。
「そんなことはありません! こんなに褒めていただいたことはありませんもの。私こそうまく受け止められなくて申し訳ございません。褒められ慣れていなくて、照れくさくて……」
ああ、私のほうが無作法だった! 褒められるのも淑女の義務の一つ。冗談ばかりなんて言いながら、本気に取って、照れている私のほうが、駄目だったー!
あ、いいえ、シュリオス様は本気で褒めてくださっているのだった。だからこそ照れてしまったのだ。えーと、えーと、だから……?
彼の手を握っていることが、にわかに恥ずかしくなる。飛び退くように手を引っ込める。その手を、はっしと掴み取られた。
ひゃっ!?
口から心臓が転げ落ちるかと思った瞬間、彼の手がゆるんで、私は急いで自分の手を胸元に抱え込んだ。
「そうですね、身を乗りだして手を取り合っているのは、何かあったときに危ないですね。ですが、到着したら、今度は私があなたの手を取る許しをもらえますか? 今夜はずっと離さずにエスコートすると誓いますから」
ドレスを贈ってくださって(ラーニア様と連名ですが)、お迎えにまで来てくださって、エスコートを断るなんて、するわけがありません!
それに、初めての公爵家の夜会で、知り合いもいなければ、二人で壁際にいるはずだった兄もおらず、本当のところはとても心細いので、できるかぎり気を配ってくださるというのなら、こんなにありがたいことはない。
「はい。よろしくお願いいたします」
兄が共に行かないと知ってからの怒濤の展開から、ようやくほっとする瞬間が来た。
その後はリラックスできて、ここ何日か会わなかった間にあったことを、和やかに語り合っているうちに、ジェダオ家に到着した。
「さあ、行きましょう」
ええと、ええと、腰を抱かれて、手を繋いだままだと、あなた様の肘に手を添えられないのですが!? 本格的なエスコートって、こういうものだったかしら!? マナーの先生はどう言っていたのだったか……。
考えたいのに、手をにぎにぎされて、手繰り寄せていた記憶の何もかもが霧散する。
指から伝わる感覚が! なんだか艶めかしい!
あわあわして反射的に見上げたら、悪戯そうに笑っていた。
んもー! 人の悪さを発揮していますね!? この方は、もおおおおーー!!
あわあわプンプンしているうちに、流れるように馬車に乗り込んでいた。
バタンと扉が閉められ、はっとする。
狭い馬車の中で、二人きり!? あれ!? 今まで私、この方とどんなふうに話していたのだったかしら!?
気の利いた会話ー! 話題ー! 話題ー! 思い浮かばないー! 焦るー!
ドッキンドッキン心臓が鳴って、頭の中が真っ白になる。ど、どうすればいいのかしら……。
「セリナ嬢?」
話しかけてくださった、ありがたいー!
とはいえ、とっさのことで、か細い声しか出てこない。
「……はい」
「ああ、よかった。急に静かになって動かないから、本当に花になってしまったかと思いましたよ」
うっ。どうして、殺し文句しか吐かないの!? ほら、また、カーッと顔が熱くなってきて、どぎまぎしてしまうではないのー!
「じょ、冗談ばかり、おやめください……」
兄だったら、靴の踵で足を踏んでやるのに!
「冗談ではないですよ。冗談に聞こえるのなら、私の言い方が悪いのですね。……正直に告白すると、今夜のあなたは可憐すぎて、私も気持ちがうわずってしまって」
口元を押さえて、顔が少し横を向いたのは、照れて目をそらしたのかしら?
そんな態度を取られると、私も、もじもじしてしまう……。
彼の手が下ろされ、顔がまたこちらを向く。
「こんなに美しいレディを前にして、うまく賞賛の言葉が浮かんでこないなんて、紳士にあるまじき無作法ですね。申し訳ありません」
いえ、いえ、いえ、いえ、もうそれが殺人的な褒め言葉ですがー!?
ああっ、そんなにしょんぼりしないでください! 大きい方がしょんぼりすると、かわいい、……んんっ、いけない、いけない、どうしていつもかわいいなんて思ってしまうのかしら、こんなに立派な紳士に対して。でも、放っておけなくなる……。
思わず身を乗りだして、膝の上の彼の手を握る。
「そんなことはありません! こんなに褒めていただいたことはありませんもの。私こそうまく受け止められなくて申し訳ございません。褒められ慣れていなくて、照れくさくて……」
ああ、私のほうが無作法だった! 褒められるのも淑女の義務の一つ。冗談ばかりなんて言いながら、本気に取って、照れている私のほうが、駄目だったー!
あ、いいえ、シュリオス様は本気で褒めてくださっているのだった。だからこそ照れてしまったのだ。えーと、えーと、だから……?
彼の手を握っていることが、にわかに恥ずかしくなる。飛び退くように手を引っ込める。その手を、はっしと掴み取られた。
ひゃっ!?
口から心臓が転げ落ちるかと思った瞬間、彼の手がゆるんで、私は急いで自分の手を胸元に抱え込んだ。
「そうですね、身を乗りだして手を取り合っているのは、何かあったときに危ないですね。ですが、到着したら、今度は私があなたの手を取る許しをもらえますか? 今夜はずっと離さずにエスコートすると誓いますから」
ドレスを贈ってくださって(ラーニア様と連名ですが)、お迎えにまで来てくださって、エスコートを断るなんて、するわけがありません!
それに、初めての公爵家の夜会で、知り合いもいなければ、二人で壁際にいるはずだった兄もおらず、本当のところはとても心細いので、できるかぎり気を配ってくださるというのなら、こんなにありがたいことはない。
「はい。よろしくお願いいたします」
兄が共に行かないと知ってからの怒濤の展開から、ようやくほっとする瞬間が来た。
その後はリラックスできて、ここ何日か会わなかった間にあったことを、和やかに語り合っているうちに、ジェダオ家に到着した。
0
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。

【完結】本当に私と結婚したいの?
横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。
王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。
困ったセシリアは王妃に相談することにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる