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【4】夜会に参加しました。

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 お父様、お母様、そんな微妙だったり微笑ましげだったりする目で見ないで! シュリオス様とはなんでもないのですよ! 婚約者のいらっしゃる方です! 祖母君の年若い友人を迎えに来てくださっただけです! お二人だってわかっていらっしゃるはずでしょおおおーーーっ!?

「さあ、行きましょう」

 ええと、ええと、腰を抱かれて、手を繋いだままだと、あなた様の肘に手を添えられないのですが!? 本格的なエスコートって、こういうものだったかしら!? マナーの先生はどう言っていたのだったか……。

 考えたいのに、手をにぎにぎされて、手繰り寄せていた記憶の何もかもが霧散する。
 指から伝わる感覚が! なんだか艶めかしい!

 あわあわして反射的に見上げたら、悪戯そうに笑っていた。
 んもー! 人の悪さを発揮していますね!? この方は、もおおおおーー!!

 あわあわプンプンしているうちに、流れるように馬車に乗り込んでいた。
 バタンと扉が閉められ、はっとする。

 狭い馬車の中で、二人きり!? あれ!? 今まで私、この方とどんなふうに話していたのだったかしら!?
 気の利いた会話ー! 話題ー! 話題ー! 思い浮かばないー! 焦るー!
 ドッキンドッキン心臓が鳴って、頭の中が真っ白になる。ど、どうすればいいのかしら……。

「セリナ嬢?」

 話しかけてくださった、ありがたいー!
 とはいえ、とっさのことで、か細い声しか出てこない。

「……はい」
「ああ、よかった。急に静かになって動かないから、本当に花になってしまったかと思いましたよ」

 うっ。どうして、殺し文句しか吐かないの!? ほら、また、カーッと顔が熱くなってきて、どぎまぎしてしまうではないのー!

「じょ、冗談ばかり、おやめください……」

 兄だったら、靴の踵で足を踏んでやるのに!

「冗談ではないですよ。冗談に聞こえるのなら、私の言い方が悪いのですね。……正直に告白すると、今夜のあなたは可憐すぎて、私も気持ちがうわずってしまって」

 口元を押さえて、顔が少し横を向いたのは、照れて目をそらしたのかしら?
 そんな態度を取られると、私も、もじもじしてしまう……。
 彼の手が下ろされ、顔がまたこちらを向く。

「こんなに美しいレディを前にして、うまく賞賛の言葉が浮かんでこないなんて、紳士にあるまじき無作法ですね。申し訳ありません」

 いえ、いえ、いえ、いえ、もうそれが殺人的な褒め言葉ですがー!?
 ああっ、そんなにしょんぼりしないでください! 大きい方がしょんぼりすると、かわいい、……んんっ、いけない、いけない、どうしていつもかわいいなんて思ってしまうのかしら、こんなに立派な紳士に対して。でも、放っておけなくなる……。

 思わず身を乗りだして、膝の上の彼の手を握る。

「そんなことはありません! こんなに褒めていただいたことはありませんもの。私こそうまく受け止められなくて申し訳ございません。褒められ慣れていなくて、照れくさくて……」

 ああ、私のほうが無作法だった! 褒められるのも淑女の義務の一つ。冗談ばかりなんて言いながら、本気に取って、照れている私のほうが、駄目だったー!
 あ、いいえ、シュリオス様は本気で褒めてくださっているのだった。だからこそ照れてしまったのだ。えーと、えーと、だから……?

 彼の手を握っていることが、にわかに恥ずかしくなる。飛び退くように手を引っ込める。その手を、はっしと掴み取られた。
 ひゃっ!?

 口から心臓が転げ落ちるかと思った瞬間、彼の手がゆるんで、私は急いで自分の手を胸元に抱え込んだ。

「そうですね、身を乗りだして手を取り合っているのは、何かあったときに危ないですね。ですが、到着したら、今度は私があなたの手を取る許しをもらえますか? 今夜はずっと離さずにエスコートすると誓いますから」

 ドレスを贈ってくださって(ラーニア様と連名ですが)、お迎えにまで来てくださって、エスコートを断るなんて、するわけがありません!
 それに、初めての公爵家の夜会で、知り合いもいなければ、二人で壁際にいるはずだった兄もおらず、本当のところはとても心細いので、できるかぎり気を配ってくださるというのなら、こんなにありがたいことはない。

「はい。よろしくお願いいたします」

 兄が共に行かないと知ってからの怒濤の展開から、ようやくほっとする瞬間が来た。
 その後はリラックスできて、ここ何日か会わなかった間にあったことを、和やかに語り合っているうちに、ジェダオ家に到着した。
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