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兄弟-1-
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「田村先生、あなたは狂ってる」
俺は田村先生…いや、弟に危害を加えたやつを先生と呼ぶのはやめよう。
俺は田村の自宅を訪ね、扉を開けて中へ招かれると同時に冒頭の言葉を言った。
隆志は俺に田村と関わりを持ってほしくはなさそうだったが、そういうわけにはいかない。
隆志に真実を話されたときは俺の尊敬する田村先生がそんなことをした事実と、隆志がその尊敬する人に傷つけられたという事実に困惑して気の利いたことは1つも言えなかったが、俺はどんなことがあったって隆志の味方だ。
俺がどんなに尊敬している人であっても、隆志を傷つけたら許すことは出来ない。
「どういう意味かわからないけど、まあ、ひとまず上がれば?」
玄関から靴を脱いで上がろうとしない俺に対して、部屋へ上がるように促すが、俺はここでいいと首を振った。
部屋へ上がればそれこそ何をされるかわかったもんじゃない。
俺に何かあったんでは、それこそ隆志がさらに傷を負うことになる…と思う。
田村は眉を下げて笑みを浮かべながら俺をただ見つめている。
「どうして、隆志の脚を折ったんですか」
俺の問いを聞いて、笑みを浮かべながらため息を吐いた。
「何のこと?俺は君に言っただろ。"階段から落ちたようで倒れていた"って」
俺を見る目が心なしか瞬きが増えた。
なんで俺は最初この言葉を信じたんだろうか。
俺の尊敬する人がそんなことするはずないと疑わなかった過去の自分自身を恨む。
「弟が…隆志が話していた。あんたが脚を折ったって」
田村の顔から笑みが消えた。
「確か、君ら…仲悪かったよな。そんな仲の悪い兄弟の話を信じるわけ?」
「確かに俺たちは仲は良くない。でも、隆志は俺に嘘なんて吐かない。いや、吐いてたっていいんだ。俺は隆志を信じるだけだから」
俺がそういうと、田村は再び笑みを零した。
不気味なほどニヤニヤと不快な笑みを浮かべている。
「可愛い可愛い弟だもんね。俺も幸人くんと同じだよ」
一体どういう意味だ。
田村の意図がわからずに黙っていると、そのまま続けた。
「俺も、綾瀬のことは可愛い教え子だと思ってるってこと」
それが本当なら、こいつは可愛い教え子を傷つけたことになる。
俺には全く理解できない。
こいつが何を考えているかわからなくて、冷や汗が額からにじみ出た。
「綾瀬にも言ったんだよ。これはキュートアグレッションだって」
キュートアグレッションだったとして、脚の骨を折るのはどう考えても度を越えている。
「は…、頭おかしいのかよ」
額から出た冷や汗が頬から顎を伝った。
やっと出せた俺の言葉に田村は眉をピクリと動かす。
顔は笑っているが、目からは笑みが消えている。
「君には言われたくないよ」
すかさず田村が言った。
「どういう意味だよ…」
「俺は全部知ってるよ。バイクで人を撥ねたことも、弟のために…色々したことも。俺の心の内に収めておくつもりだけどね」
瞬間、背筋に悪寒が走った。
まさか、見られていたのか。
バイクで人を撥ねたところを見たのであれば、そのあと俺がその人の血を採取して死体を埋めたところまで見ているはずだ。
全部知っているというのはそういうことだろう。
「綾瀬も綾瀬でそれを知っていて受け入れている。さらに自分はまだまだ同級生への復讐心を忘れていない。…兄弟揃って歪んでるね」
田村がグイっと俺の方へ顔を近づける。
「そういうところも、俺は好きだよ。特に、綾瀬は本当に」
顔を掴まれ、さらに顔を寄せられる。
俺の瞳を射抜くように見つめてきた。
「目が本当にそっくりだな…」
「…放せよ!」
俺が手を払いのけると、わざとらしく自分の手を擦った。
隆志が小学生の頃にいじめに遭っていたのはあいつが中学生に進学した際に話は聞いたが、もしかするとその原因はこいつにあったんじゃないのか。
隆志はそれをわかっているのにそれも俺に黙っていたのかもしれない。
だから、余計に自分でかたをつけるとこだわっているとしたら辻褄が合う。
「俺は…綾瀬の絶望に染まる顔が好きなんだ。可愛くて堪らないだろ。幸人くんを傷つけたらまたあいつは絶望の淵に落ちるかな?」
…心底吐き気がする。
俺の弟はこんなやつに傷つけられたのか。
どういう経緯でこいつが隆志を気に入ってるかなんてことは全くわからないし、わかりたくもないが、これ以上この話は聞いていられない。
俺がやらかしたことも見られていたのは予想外だったが、1ヶ月以上も前のことを誰にも話していないところを見れば、この先も本当に話すつもりはないのかもしれない。
いや、この際どうでもいい。
俺は隆志が幸せに何事もなく過ごせるなら他はどうでもいい。
「…死ね。変態野郎」
俺はそれだけを吐き捨てて部屋の扉を開けて外へ出た。
後ろから来ていないことを見れば、特に追いかけてくるつもりはないらしい。
「これ以上、隆志に関わらせるわけにはいかない。しっかり俺が何とかしないと…」
田村は異常と言っていいほど隆志に執着しているようだった。
次は脚の骨を折られるだけでは済まないかもしれない。
キュートアグレッション…。
仮に本当にそれで隆志を傷つけたのだとしたら、田村は隆志に少なからずの好意を持っていることになる。
10歳と少しも下の生徒に好意を持ち、さらにそれを傷つけることに快感を得るなんて…。
「きっしょ…、死ね」
俺は田村先生…いや、弟に危害を加えたやつを先生と呼ぶのはやめよう。
俺は田村の自宅を訪ね、扉を開けて中へ招かれると同時に冒頭の言葉を言った。
隆志は俺に田村と関わりを持ってほしくはなさそうだったが、そういうわけにはいかない。
隆志に真実を話されたときは俺の尊敬する田村先生がそんなことをした事実と、隆志がその尊敬する人に傷つけられたという事実に困惑して気の利いたことは1つも言えなかったが、俺はどんなことがあったって隆志の味方だ。
俺がどんなに尊敬している人であっても、隆志を傷つけたら許すことは出来ない。
「どういう意味かわからないけど、まあ、ひとまず上がれば?」
玄関から靴を脱いで上がろうとしない俺に対して、部屋へ上がるように促すが、俺はここでいいと首を振った。
部屋へ上がればそれこそ何をされるかわかったもんじゃない。
俺に何かあったんでは、それこそ隆志がさらに傷を負うことになる…と思う。
田村は眉を下げて笑みを浮かべながら俺をただ見つめている。
「どうして、隆志の脚を折ったんですか」
俺の問いを聞いて、笑みを浮かべながらため息を吐いた。
「何のこと?俺は君に言っただろ。"階段から落ちたようで倒れていた"って」
俺を見る目が心なしか瞬きが増えた。
なんで俺は最初この言葉を信じたんだろうか。
俺の尊敬する人がそんなことするはずないと疑わなかった過去の自分自身を恨む。
「弟が…隆志が話していた。あんたが脚を折ったって」
田村の顔から笑みが消えた。
「確か、君ら…仲悪かったよな。そんな仲の悪い兄弟の話を信じるわけ?」
「確かに俺たちは仲は良くない。でも、隆志は俺に嘘なんて吐かない。いや、吐いてたっていいんだ。俺は隆志を信じるだけだから」
俺がそういうと、田村は再び笑みを零した。
不気味なほどニヤニヤと不快な笑みを浮かべている。
「可愛い可愛い弟だもんね。俺も幸人くんと同じだよ」
一体どういう意味だ。
田村の意図がわからずに黙っていると、そのまま続けた。
「俺も、綾瀬のことは可愛い教え子だと思ってるってこと」
それが本当なら、こいつは可愛い教え子を傷つけたことになる。
俺には全く理解できない。
こいつが何を考えているかわからなくて、冷や汗が額からにじみ出た。
「綾瀬にも言ったんだよ。これはキュートアグレッションだって」
キュートアグレッションだったとして、脚の骨を折るのはどう考えても度を越えている。
「は…、頭おかしいのかよ」
額から出た冷や汗が頬から顎を伝った。
やっと出せた俺の言葉に田村は眉をピクリと動かす。
顔は笑っているが、目からは笑みが消えている。
「君には言われたくないよ」
すかさず田村が言った。
「どういう意味だよ…」
「俺は全部知ってるよ。バイクで人を撥ねたことも、弟のために…色々したことも。俺の心の内に収めておくつもりだけどね」
瞬間、背筋に悪寒が走った。
まさか、見られていたのか。
バイクで人を撥ねたところを見たのであれば、そのあと俺がその人の血を採取して死体を埋めたところまで見ているはずだ。
全部知っているというのはそういうことだろう。
「綾瀬も綾瀬でそれを知っていて受け入れている。さらに自分はまだまだ同級生への復讐心を忘れていない。…兄弟揃って歪んでるね」
田村がグイっと俺の方へ顔を近づける。
「そういうところも、俺は好きだよ。特に、綾瀬は本当に」
顔を掴まれ、さらに顔を寄せられる。
俺の瞳を射抜くように見つめてきた。
「目が本当にそっくりだな…」
「…放せよ!」
俺が手を払いのけると、わざとらしく自分の手を擦った。
隆志が小学生の頃にいじめに遭っていたのはあいつが中学生に進学した際に話は聞いたが、もしかするとその原因はこいつにあったんじゃないのか。
隆志はそれをわかっているのにそれも俺に黙っていたのかもしれない。
だから、余計に自分でかたをつけるとこだわっているとしたら辻褄が合う。
「俺は…綾瀬の絶望に染まる顔が好きなんだ。可愛くて堪らないだろ。幸人くんを傷つけたらまたあいつは絶望の淵に落ちるかな?」
…心底吐き気がする。
俺の弟はこんなやつに傷つけられたのか。
どういう経緯でこいつが隆志を気に入ってるかなんてことは全くわからないし、わかりたくもないが、これ以上この話は聞いていられない。
俺がやらかしたことも見られていたのは予想外だったが、1ヶ月以上も前のことを誰にも話していないところを見れば、この先も本当に話すつもりはないのかもしれない。
いや、この際どうでもいい。
俺は隆志が幸せに何事もなく過ごせるなら他はどうでもいい。
「…死ね。変態野郎」
俺はそれだけを吐き捨てて部屋の扉を開けて外へ出た。
後ろから来ていないことを見れば、特に追いかけてくるつもりはないらしい。
「これ以上、隆志に関わらせるわけにはいかない。しっかり俺が何とかしないと…」
田村は異常と言っていいほど隆志に執着しているようだった。
次は脚の骨を折られるだけでは済まないかもしれない。
キュートアグレッション…。
仮に本当にそれで隆志を傷つけたのだとしたら、田村は隆志に少なからずの好意を持っていることになる。
10歳と少しも下の生徒に好意を持ち、さらにそれを傷つけることに快感を得るなんて…。
「きっしょ…、死ね」
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