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七話

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 わあっとホール内に歓声が広がる。けれど次期公爵家後継者としてのレノン様に取り入ろうと画策していた貴族達には予想だにしなかった事実だろう。喜んでいる貴族、困惑している貴族が半々ぐらいだろうか。

 「待ってください!?何故公爵家をアラン様が?レノン様が嫡男ではないですか!」

 呆然としているレノン様の隣でアリシアが公爵様に詰め寄る。

 まぁ、未来の公爵夫人の座がかかっているのですから当然でしょうね。私からレノン様を奪って喜んでいたんでしょうが……。

 「レノンは次期後継者の資格を失った。アリシア嬢、君を選んだ時点でだ」
 「え……?」
 「……っ!?」

 レノン様は何かに気がついたのか顔を真っ青にして公爵様を見る。

 「……今頃思い出したか……だがもう遅すぎたな」

 ニッコリと笑みを浮かべる公爵様にレノン様は慌てて追いすがる。

 「ち、父上っ!!エレノアとの婚約破棄は撤回します……!だから……っ!!」
 「レノン様!?何をいいますの!!」
 「うるさい!元々はお前が僕に言い寄って来なければ……っ!」

 慌てたのはアリシアだ。いきなりレノン様が私との婚約破棄を破棄したい等と言い出したのだから。
だが、もう遅いのだ。既に婚約は解消されている上に私にはレノン様の婚約者に戻るつもりは一切ない。アラン様も公爵様も公爵夫人も許しはしないだろう。まぁレノン様を私から奪っても最初からアリシアには公爵夫人になれる可能性はひとつもなかったのだけれど。

  「我が公爵家の次期後継者はエレノア嬢と婚姻する者とする……正式な婚約書にも記載があり、お前にも何度も説明をした筈だ」

 公爵様がの声は厳しい。それはそうだろう。何度も何度も私ですら説得したぐらいだ。

 「それでもお前は態度にを変えず、アリシア嬢を選びエレノア嬢との婚約破棄を選んだ……しかも国王陛下主催のパーティーでだ」
 「父……上」
 「お前の望み通りアリシア嬢との婚姻を認める。婚姻後は侯爵家に婿入りし、次期後継者となりアリシア嬢と侯爵家を守り立てていけばいい」
 「……そんな……この僕が……婿入り……?」

 もう話すことはないとばかりに公爵と公爵夫人はその場を離れる。きっと国王陛下に事の詳細を説明に行ったのだろう。

 「ア、アラン様にお姉様なんか似合いませんわ!!」

 現実を受け入れられず呆然と立ち尽くすレノン様から離れ、アラン様へと腕を絡ませようとしてくるアリシアに周囲の視線は冷たい物へと変化している事にアリシア本人は気がつかない。

 「アラン様にはもっと素晴らしい相手が……!」
 「間違ってもそれが君でないことは確かだよ」
 「……え?」

 アランの冷たい眼差しがアリシアを貫き、伸ばされようとしていたアリシアの腕から難なく避ける。

 「兄上が公爵を継げないとわかった途端僕に鞍替えかい?申し訳ないが僕は兄上と違って君みたいな女性が一番嫌いなんだ」
 「そんな!アラン様ひどいわ!?」
 「ひどい?……君はもう少し自分の行動を省みた方が良い。周りを見てみなよ」

 アリシアはそう言われ周囲のに視線を向ける。そこで初めて自分達二人がどのように見られていたのかを気づく。

 「ああ、でも君と兄上にはひとつだけ感謝してるんだよ」

 ニッコリと笑みを浮かべてアランは告げる。

 「アリシア嬢が兄上を誘惑してくれたお陰で、僕はエレノア嬢を僕のモノにする事が出来たんだ。知ってた?兄上……僕は小さい頃からずっとエレノア嬢が好きだったんだよ」
 「……アラン……お前……」

 きっとレノン様はアラン様の気持ちなど考えた事もなかったでしょうね。勿論私は知ってましたわ。御本人から告白されてましたもの……レノン様がアリシアと仲良くされてからですけどね。

『もし……もしも兄上との婚約がなかった事になったら、僕を好きになってくれませんか?婚約書に書かれているからではなく、僕がエレノア嬢の事を好きだから……』

 切なそうに私を見つめてくるまだ小さなアラン様はそれはそれは可愛かったのですが……本当に逞しくお育ちになりましたこと。

 「お前……まさかわざと……!?」
 「何の事です?……エレノア嬢は僕が幸せにしますよ」
 「アラン!!キサマ……っ……!エレノアっ!!お前が撤回しろ!!」

 この状況で撤回しろと言われ撤回する人がいるならば会ってみたいですわ。

 ……本当に最後の最後まで自分達の事しか考えませんのね……まぁ嫌と言う程、知ってましたけれど……

 この瞬間を待っていたのは何もアラン様だけではありませんのよ?レノン様、アリシア。
  
 私こそが待ち望んでいた瞬間なのですから。

 「レノン様、アリシア」
 「な、何だ!」

 私が撤回してくれるとでも思ったのか、レノン様の表情が少しだけ明るくなるが、それはすぐさま絶望の色へと変化するだろう。レノン様の望む言葉を私が告げることは二度とないのだから。

 「ざまぁみろ、ですわ!お二人ともどうかお幸せに」

 晴々しく満面の笑みを浮かべそう告げたエレノアの姿と、そんなエレノアに優しげな眼差しで寄り添うアランの姿は、しばらくの間社交界で武勇伝として語り継がれたと言う。

 


 end
 


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