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第一章
3:翠の離宮
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「殿下、本当に今日からこの離宮で住むんですか?」
学園を卒業したと同時に僕は王城を追い出され、王都の端に位置する翠の離宮へと移る事に決まった。勿論主導したのは王妃一派だ。父親である筈の国王はそれに対してもスルーし、反対の態度すら見せなかった。まぁ此方も期待はしていないし、僕には好都合だった。
「下手に城に居るよりも動きやすいしね」
城から遠く離れた場所に住むと言う事は王都で何かしら騒ぎが起きても疑われないと言う事だ。しかも学園でも大した能力を見せず無能のレッテルを貼られていた僕なのだから。
「何か言いましたか?殿下」
「いや、何でもないよ。マリー....それよりも本当に僕と離宮に来て良かったのかい?他のメイド達は王城から離れる事を嫌がって誰も着いて来てくれなかったのに....」
「勿論です!私は殿下の乳母も勤めていたアリーの娘です!謂わば殿下とは乳姉弟!殿下1人でこんな王都から外れた離宮に行かせる訳には行きません!!私がしっかりお世話させて頂きます!」
そう。僕が離宮へと移る際に必要な使用人達は誰も一緒に来たがらなかった。無理して着いて来て貰っても嫌な顔で始終側に居られるのは僕自身が遠慮したいし、それで構わなかった。前世の僕は平民出身だったから自分の身形は自分で整えられるし、後は料理人だけ何とかすれば問題はないだろうと考えていた。
そしたら僕の乳母であったアリーの娘で城で僕の侍女をしていたマリーが僕と離宮へと行くと志願してきたのだ。まぁマリーは普段から僕至上主義な部分があったから言い出すかな?とは思ってたけど....。
でも純粋にその気持ちは嬉しかった。家族の誰からも相手にされない僕を大事に思ってくれる誰かがいると言う事は思っていた以上に僕の心を温かくしてくれたから。
「でも離宮には僕とマリーしか居ないから大変でしょ?」
「いえ。逆に殿下と私しか居ないから余計な仕事がない分、王城より楽なぐらいです」
マリーはウンウンと頷きながら僕の言葉を否定する。確かに人が少ない上に客も来ない。必要最低限住むに必要な部分だけを管理すれば良いのだから楽と言えば楽なのかも知れない。
「そうか....確かにこの離宮は完全に僕の物になったから好きにして良いと言われたしね」
この離宮へ移る事が決まった際に離宮を僕への王族としての永久資産として王より賜った。逆に言えば第三王子とは言え王位継承権のある王子に対してこの離宮しか与えなかったのだけど。けれどこの離宮は完全に僕の個人資産となった訳だからどう利用しようと僕の勝手なんだけど。
「問題は料理人と庭師ですね。私も簡単な料理ぐらいは出来ますけど流石に殿下にそれを毎食提供するのは私が納得出来ません!」
「僕は別にマリーの手料理でも全然構わないのだけど、それだとマリーに負担が掛かりすぎるからね....なら平民の料理人と庭師を雇えば良いんじゃないかな?確か街の商業ギルドで斡旋して貰えるんじゃなかった?」
「平民の.....ですか?」
「うん。この離宮に貴族の客が来る事はないだろうし、僕達だけが食べるだけなら平民の料理人でも問題ないよ。必要なのは美味しいか美味しくないか、でしょ?」
下手に貴族の料理人を雇って王妃の小飼で毒なんて盛られたら堪らないしね。
流石にそれをマリーに言うのは憚られるので言わないが。
「確かにそれが一番の問題ですね」
「でしょ?」
「じゃあ明日にでも商業ギルドに行って相談して来ますね」
「あ、僕も一緒に行くよ。自分が雇うんだし自分の目で確認しておきたいからね」
「わ、わかりました」
母上が亡くなってから頻繁に隠れて街に行っていた事は実はマリーも知っていたから、僕が街に行くと行っても今更でもう何の小言も言わなくなった。最初の頃は危ないだの何だのと言っていたけれどもう慣れたのだろう。慣れって凄いよね。
「では今日は私が食事を作りますからそれまではお部屋でゆっくりとなさって下さいね」
「うん、ありがとうマリー」
マリーがそう言って部屋から出ていくのを眺めながめながらさて、と考える。
有難い事にこの離宮は王都にある城からは馬車で行っても1日掛かるぐらい王都の端の端にある森の近くにある。だから離宮の名も翠の離宮と呼ばれている。この離宮は通常王都で問題を起こした王族を隔離する為に造られた離宮で本来何の問題も起こしていない王子を住まわせる場所ではないのだ。
それにも関わらず王妃はこの離宮を指定し、王は反対もしなかったと言う事は余程僕が目障りなのだろう。何故第三王子でしかない僕をそこまで毛嫌いするのか理解に苦しむけど。
母上が今現在も生きていたなら、王の寵愛が母上にあった事から王妃が警戒するのもわかるが、母上は王妃が殺したのだからもう警戒する必要もないだろうに。
「まぁでも僕をこの離宮に追いやった事は嬉しい誤算だった。城に居たら下手な動きは出来なかったからね。助かったよ」
彼らのミスは僕を王城から出した事。
「これからが楽しみだ」
学園を卒業したと同時に僕は王城を追い出され、王都の端に位置する翠の離宮へと移る事に決まった。勿論主導したのは王妃一派だ。父親である筈の国王はそれに対してもスルーし、反対の態度すら見せなかった。まぁ此方も期待はしていないし、僕には好都合だった。
「下手に城に居るよりも動きやすいしね」
城から遠く離れた場所に住むと言う事は王都で何かしら騒ぎが起きても疑われないと言う事だ。しかも学園でも大した能力を見せず無能のレッテルを貼られていた僕なのだから。
「何か言いましたか?殿下」
「いや、何でもないよ。マリー....それよりも本当に僕と離宮に来て良かったのかい?他のメイド達は王城から離れる事を嫌がって誰も着いて来てくれなかったのに....」
「勿論です!私は殿下の乳母も勤めていたアリーの娘です!謂わば殿下とは乳姉弟!殿下1人でこんな王都から外れた離宮に行かせる訳には行きません!!私がしっかりお世話させて頂きます!」
そう。僕が離宮へと移る際に必要な使用人達は誰も一緒に来たがらなかった。無理して着いて来て貰っても嫌な顔で始終側に居られるのは僕自身が遠慮したいし、それで構わなかった。前世の僕は平民出身だったから自分の身形は自分で整えられるし、後は料理人だけ何とかすれば問題はないだろうと考えていた。
そしたら僕の乳母であったアリーの娘で城で僕の侍女をしていたマリーが僕と離宮へと行くと志願してきたのだ。まぁマリーは普段から僕至上主義な部分があったから言い出すかな?とは思ってたけど....。
でも純粋にその気持ちは嬉しかった。家族の誰からも相手にされない僕を大事に思ってくれる誰かがいると言う事は思っていた以上に僕の心を温かくしてくれたから。
「でも離宮には僕とマリーしか居ないから大変でしょ?」
「いえ。逆に殿下と私しか居ないから余計な仕事がない分、王城より楽なぐらいです」
マリーはウンウンと頷きながら僕の言葉を否定する。確かに人が少ない上に客も来ない。必要最低限住むに必要な部分だけを管理すれば良いのだから楽と言えば楽なのかも知れない。
「そうか....確かにこの離宮は完全に僕の物になったから好きにして良いと言われたしね」
この離宮へ移る事が決まった際に離宮を僕への王族としての永久資産として王より賜った。逆に言えば第三王子とは言え王位継承権のある王子に対してこの離宮しか与えなかったのだけど。けれどこの離宮は完全に僕の個人資産となった訳だからどう利用しようと僕の勝手なんだけど。
「問題は料理人と庭師ですね。私も簡単な料理ぐらいは出来ますけど流石に殿下にそれを毎食提供するのは私が納得出来ません!」
「僕は別にマリーの手料理でも全然構わないのだけど、それだとマリーに負担が掛かりすぎるからね....なら平民の料理人と庭師を雇えば良いんじゃないかな?確か街の商業ギルドで斡旋して貰えるんじゃなかった?」
「平民の.....ですか?」
「うん。この離宮に貴族の客が来る事はないだろうし、僕達だけが食べるだけなら平民の料理人でも問題ないよ。必要なのは美味しいか美味しくないか、でしょ?」
下手に貴族の料理人を雇って王妃の小飼で毒なんて盛られたら堪らないしね。
流石にそれをマリーに言うのは憚られるので言わないが。
「確かにそれが一番の問題ですね」
「でしょ?」
「じゃあ明日にでも商業ギルドに行って相談して来ますね」
「あ、僕も一緒に行くよ。自分が雇うんだし自分の目で確認しておきたいからね」
「わ、わかりました」
母上が亡くなってから頻繁に隠れて街に行っていた事は実はマリーも知っていたから、僕が街に行くと行っても今更でもう何の小言も言わなくなった。最初の頃は危ないだの何だのと言っていたけれどもう慣れたのだろう。慣れって凄いよね。
「では今日は私が食事を作りますからそれまではお部屋でゆっくりとなさって下さいね」
「うん、ありがとうマリー」
マリーがそう言って部屋から出ていくのを眺めながめながらさて、と考える。
有難い事にこの離宮は王都にある城からは馬車で行っても1日掛かるぐらい王都の端の端にある森の近くにある。だから離宮の名も翠の離宮と呼ばれている。この離宮は通常王都で問題を起こした王族を隔離する為に造られた離宮で本来何の問題も起こしていない王子を住まわせる場所ではないのだ。
それにも関わらず王妃はこの離宮を指定し、王は反対もしなかったと言う事は余程僕が目障りなのだろう。何故第三王子でしかない僕をそこまで毛嫌いするのか理解に苦しむけど。
母上が今現在も生きていたなら、王の寵愛が母上にあった事から王妃が警戒するのもわかるが、母上は王妃が殺したのだからもう警戒する必要もないだろうに。
「まぁでも僕をこの離宮に追いやった事は嬉しい誤算だった。城に居たら下手な動きは出来なかったからね。助かったよ」
彼らのミスは僕を王城から出した事。
「これからが楽しみだ」
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