イミテーションアース~神々の試験場~

赤崎巧一

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1.地球と似た惑星

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 敵対銀河系軍との戦争中、条約禁止兵器である次元振動弾の直撃を受け消えたはずの宇宙戦闘艦は惑星の衛星軌道上を周回していた。

《船体に異常なし。 あらゆる通信不能、惑星情報及び銀河座標に該当なし。 なれどこれは一体》

 衛星軌道上から観測できる地球の文明と似ている事を表している。資源が尽きた事から主星としては放棄され、自然観光と生物保護以外ではなんら産業の無い惑星のはずが、ある程度とはいえ科学文明が存在していたはずである。
 それが一切の科学的文明が衛星映像から確認できず、通信波や人工衛星などまったく存在しない。そして月が三つの連星となっていた。艦の統合管理システムは動き出す。

《搭載エネルギー及び資源に問題なし。 されどあるはずの宙域警戒艦隊との通信不可能、地球の現状及び周辺宙域の探査が必要と判断する》

 艦から周囲に艦載探査機を射出し近距離宇宙空域の探査に、地球に関しては放棄に近い状況とはいえ大国はいまだ権利を有しており、歴史的に問題となりにくい国家の領域、もしくはいまだ制定され意味を成している国際管理領域である公海へと探査機を降下させる。


 一月の間本星団に通信を試みながら仮名地球の探査を続けていたが。

《これはどういうことだ。 過去なのか?》

 周辺宙域にはステーションも存在せず通信には一切反応が無く手詰まりに近い。これでは天の川艦隊司令部へと確認の連絡を入れるのは不可能であり、余りにも遠く途中のワープゲートを使用しなければ到達は難しい。あくまで辺境艦隊の旗艦でしかないため、星系間ワープゲート展開装置など搭載されておらず航行能力は限られる。
 地球から集められる情報では国家の存在を確認したがその文明程度は宇宙歴以前、西暦と呼ばれていた旧暦のさらに1870年程度であったことだ。
 幸いなのはその頃の時代であったとしても、Ω星団の艦隊はすでに存在していたことだが、過去に戻るなどいまだ成功した例はない。おそらく類似した歴史を歩んでいる辺境銀河の未発見惑星なのだろうと推測をたてていた。

《次元振動弾の影響、というわけではないだろう。 これが解析艦であったならわかったのだが、この身はあくまで戦闘航行艦でしかない》

 戦争に特化しているがゆえにその能力は直接的戦争以外に関しては低い。艦隊に所属していた敵勢文明の解析能力に特化した分析解析艦が居れば何かわかった可能性がある。問題は旗艦のみである以上解析システムを新たに再構築しなければならない。

《降下し状況の確認、可能であればワープゲート製造可能な物資の採掘が必要》

 全長4000m幅600mの巨大な外宇宙航行艦、しかしΩ星団の主力艦群とほぼ同程度に過ぎない。辺境惑星地域を巡回航行しながら、敵勢星団の小規模艦隊による奇襲や迂回攻撃を防ぐための艦隊であるがゆえに、宇宙を漂う岩石や無価値判定された星から資源を回収し、艦の修復や必要とする物資の製造を行う事が出来る。そうでなければ一周回するのに十数年かかる惑星間巡回航行など不可能であるがためにだ。

 大気圏に突入し誰にも見られぬよう北太平洋の中心へと降下、高温になった船体に接触した海水が蒸発する蒸気を上げながら静かに海に着水する。何もない大海原、はるか昔人間だった頃にみた地球の空、それはどこか人を辞めたHITAKAMIに今でも郷愁を感じさせていた。

《現状での接触は、避けるべきだろう。 難民保護条約に則る以上の行動は当面は控える。 優先すべきは現状確認である》

 深海に等しい海底に錨を下ろすとともに資源回収機を放出、帰還までの間に大気や海水の組成解析に探査回収機から得られる物質などデータの中にある地球とほぼ一致、海底を貫きあらゆる資源の源泉たるマントルの溶けた溶岩、星の命たる領域の資源さえあれば時間をかけて船体の修繕や予備部品の製造が可能となる。

 海中及び海底資源を回収しながら地球と同じ自転を行うこの星で2年、探査機から多くの情報をこの世界の住民に知られる事なく得る事は出来た。人類種はいたが艦のデータにある地球人類とは異なり、彼らには共通して頭部に小さな角があった。サイズや形はさまざまであるが、言語だけは共通であり作為的な何かがある。
 情報を解析している最中センサーに漂流中の船舶が引っかかった、小型ドローンを飛ばし映像を取得。長らく漂流していたのか壊血病の諸症状が現れており、生き残っている人間は3人程度だろう。

《過去の情報と照合、救難旗を確認、救助法に従い人命救助を実行》

 人間を輸送可能な大型ドローンを飛ばし、暴れる事さえできない人間3人を釣り上げて輸送後、救急装置の中に居れて治療を行えばよい。甲板に治療装置を移動させつつ大型ドローンを射出、漂流者の救助を開始した。



 嵐に羅針盤と舵をやられ20日、何人もが絶望したり発狂し次々海に飛び込み、船内にはもはや誰もおらず生き残った3人は雨水を求めて日陰となる甲板の隅で過ごしながら救援を待ち続ける。

「なんの……音だ?」

 風を叩くような妙な音が響き空を見上げると異形の物体が迫ってくるのが目に入る。這いずりながら逃げようとするも、甲板に降り立つと6本の足で近付き捕獲されてしまう。
 この化け物に食われてしまうのだろうか、2人はナイフを取り出すと自らの首に突き刺し、残った1人は恐怖から意識を失ってしまった。
 それからどれだけの時間が経ったのか、気が付いた時には砂浜に倒れていた。全て夢だったのか、ただ助かり生きている事だけは確か、周囲を見回すと砂浜にはボロボロになった小舟と、中には小さな革袋にそれなりの硬貨が入っていた。革袋を掴みこの幸運にすがりながら遠くに見える家に向かって歩き始める。



 2名が自殺してしまったものの、1人は治療が完了し眠った状態でアメリカ大陸西岸領の町近くの砂浜に送り届けた。彼のこの後の生活は分からないが、餓死を待つだけよりは可能性があるだろう。
 これは眠った状態のまま情報を抽出したことへの謝礼、そして現在の西暦は1871年ということが判明した。若く経験の少ない水夫であるために余り詳細な情報を得られることはなかったが、データとの相違点及び年代から過去と言う訳ではない事が推測の有力となりつつあった。
 船舶に残されていた物資から出航元は積み荷から判断して刀や着物類など判断し日本で間違いない。そして主輸送物は動植物、苗木に鳥に犬に猫などの死骸が船内下部のそこら中に転がっていたが、おそらく狼と思われる生き物が4頭餓死寸前で生き残っていた。これは他の動物や植物を食い血を飲み必死に生きようとした結果だろう。船員は肉食動物が居る船内下部には行けなかったのもこれが原因と思われる。
 生きている以上保護は必須であり、大分弱っているが4匹の狼と桜の苗木を船内で管理する事になる。




 異界の座
 眺める若き神々候補は、自らが手を加えている国家の発展と繁栄に酔いしれ、気に入った実験動物を育てるように国家を弄っていた。

「ふふふ、我が守護する仏蘭西は隣国より発展している。 これならば我が方針が正しいことがわかるであろう」
「どうかな。 私が目をかけている独逸はいつでも侵略できるとは思わんのかね」

 新人の監督官でもある異形の古き神は、協力をしようとしない新世代の愚かさに呆れながら、試練として他の古き神々などと会議をおこなったのち一つの駒を投入した。

(愚かなり。 1柱の神で何もかも思い通りに出来るはずもなかろうに)

 協力すれば駒を滅する事も取り込むことも可能、しかし単独では新世代の神々候補は手駒を失うもしくは大きな損害を受ける。それを解決できないようでは単独で星を管理する主神の素質無しと、そして駒を送りこんだ事さえ気付かない現状に古き神々は見捨て始めていた。
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