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第4章 暗転
最底辺
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羽漣がいなくなってから、俺の人生はまるで崖を転げ落ちるように崩れていった。 剣を振るう日々も、異能者連盟で任務をこなす時間も、ただの空虚な作業になっていた。何をしても、何を見ても、彼女が隣にいない現実が突き刺さる。最初は、それでも日常を保とうと必死だった。剣を握る手に力を込め、誰にも弱さを見せないように振る舞っていた。けれど、それは長く続かなかった。
彼女は俺が愛した、最初で最後の人だった。俺の中ではまだ羽漣があたかも存在しているかのような錯覚が続いていて、本当に彼女がいなくなったことを今でも信じられないでいる。羽漣のいない世界は、色を失った。
羽漣がいない日々をどうにかやり過ごすために、俺は酒に溺れた。最初は一口飲むのにも抵抗があった苦い液体が、今では俺の唯一の友になっている。酒を飲むと、過去の思い出も未来への恐れも、全部ぼやけて消える。代わりに自分自身まで消えていくような気もしたが、それはむしろ好都合だった。
酒場に通うたび、俺の堕落ぶりはひどくなっていった。酔えば客と揉めて、喧嘩になることもしょっちゅうだ。連盟に通報されたときだって、俺は何も感じなかった。S級異能者の登録を無期限停止?だからどうした。俺にとって、そんな肩書なんざもはやどうでもいい。
「問題を起こすなら、永久追放だ。」
連盟の責任者の言葉を聞いたとき、俺はただ鼻で笑っただけだった。
「あっそ。」
俺はそれだけ吐き捨て、背を向けた。
そしてその日、ついに金が尽きた。酒場で最後のコインを差し出し、一杯の酒を飲み干した後、俺は店主に手を伸ばした。
「もう一杯くれ。」
「昴也、ツケが溜まりすぎだ。これ以上は無理だ。金がないなら出て行け。」
「俺が誰だか分かってるのか?」
「分かってるさ、堕落した元S級異能者だろ。今のあんたに酒を出す理由なんてどこにもない。」
店主の冷たい言葉に、俺は反論する気力も失っていた。彼に腕を掴まれ、酒場の外に放り出された俺は、石畳の上に倒れ込んだ。夜風が頬を刺し、体温が奪われていくのを感じながらも、そのまま動けなかった。
空を見上げると、月がぼんやりと輝いていた。その静けさが、俺の心の中の混沌を際立たせる。こんな自分を情けなく思う気持ちと、それでもどうしようもない諦めが交錯していた。
どれくらいそうしていたのか分からない。ふと視界に人影が入った。月明かりを背に、その人影はゆっくりと近づいてくる。その歩幅、その姿勢、そして雰囲気、それは――
「昴也。」
その声が俺の耳に届いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。ゆっくりと視線を動かすと、そこには銀髪の剣士、涼音が立っていた。かつての仲間であり、俺が失った全てを知る人間。
「ずいぶんと情けない姿ね。」
彼女の言葉は鋭く、容赦がなかった。その目は昔と変わらない冷静さを湛えているが、どこか怒りのようなものも見え隠れしている。
「……放っておけよ。」
俺は呟くように言って立ち上がり、ふらつく足で彼女に背を向けた。この姿を見られるくらいなら、いっそ何も言わずに立ち去ってほしかった。だが、涼音は一歩も引かない。
「待ちなさい。」
彼女の低い声が背中を刺す。それでも無視して歩き出した瞬間、衝撃が後頭部に走った。
「っ……!」
振り返る間もなく膝をつき、意識が遠のいていく中で、剣の鞘を握る涼音の姿がぼんやりと見えた。
「ここまで堕ちたあなたを、私はもう見過ごせない。」
彼女の声は冷たくも確かで、その言葉が胸に突き刺さる。それが最後の記憶だった。次に目を覚ましたとき、俺はどんな光景を目にするのだろうか。今俺が感じるのは、冷たい石畳の感触だけだった。
羽漣がいなくなってから、俺の人生はまるで崖を転げ落ちるように崩れていった。 剣を振るう日々も、異能者連盟で任務をこなす時間も、ただの空虚な作業になっていた。何をしても、何を見ても、彼女が隣にいない現実が突き刺さる。最初は、それでも日常を保とうと必死だった。剣を握る手に力を込め、誰にも弱さを見せないように振る舞っていた。けれど、それは長く続かなかった。
彼女は俺が愛した、最初で最後の人だった。俺の中ではまだ羽漣があたかも存在しているかのような錯覚が続いていて、本当に彼女がいなくなったことを今でも信じられないでいる。羽漣のいない世界は、色を失った。
羽漣がいない日々をどうにかやり過ごすために、俺は酒に溺れた。最初は一口飲むのにも抵抗があった苦い液体が、今では俺の唯一の友になっている。酒を飲むと、過去の思い出も未来への恐れも、全部ぼやけて消える。代わりに自分自身まで消えていくような気もしたが、それはむしろ好都合だった。
酒場に通うたび、俺の堕落ぶりはひどくなっていった。酔えば客と揉めて、喧嘩になることもしょっちゅうだ。連盟に通報されたときだって、俺は何も感じなかった。S級異能者の登録を無期限停止?だからどうした。俺にとって、そんな肩書なんざもはやどうでもいい。
「問題を起こすなら、永久追放だ。」
連盟の責任者の言葉を聞いたとき、俺はただ鼻で笑っただけだった。
「あっそ。」
俺はそれだけ吐き捨て、背を向けた。
そしてその日、ついに金が尽きた。酒場で最後のコインを差し出し、一杯の酒を飲み干した後、俺は店主に手を伸ばした。
「もう一杯くれ。」
「昴也、ツケが溜まりすぎだ。これ以上は無理だ。金がないなら出て行け。」
「俺が誰だか分かってるのか?」
「分かってるさ、堕落した元S級異能者だろ。今のあんたに酒を出す理由なんてどこにもない。」
店主の冷たい言葉に、俺は反論する気力も失っていた。彼に腕を掴まれ、酒場の外に放り出された俺は、石畳の上に倒れ込んだ。夜風が頬を刺し、体温が奪われていくのを感じながらも、そのまま動けなかった。
空を見上げると、月がぼんやりと輝いていた。その静けさが、俺の心の中の混沌を際立たせる。こんな自分を情けなく思う気持ちと、それでもどうしようもない諦めが交錯していた。
どれくらいそうしていたのか分からない。ふと視界に人影が入った。月明かりを背に、その人影はゆっくりと近づいてくる。その歩幅、その姿勢、そして雰囲気、それは――
「昴也。」
その声が俺の耳に届いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。ゆっくりと視線を動かすと、そこには銀髪の剣士、涼音が立っていた。かつての仲間であり、俺が失った全てを知る人間。
「ずいぶんと情けない姿ね。」
彼女の言葉は鋭く、容赦がなかった。その目は昔と変わらない冷静さを湛えているが、どこか怒りのようなものも見え隠れしている。
「……放っておけよ。」
俺は呟くように言って立ち上がり、ふらつく足で彼女に背を向けた。この姿を見られるくらいなら、いっそ何も言わずに立ち去ってほしかった。だが、涼音は一歩も引かない。
「待ちなさい。」
彼女の低い声が背中を刺す。それでも無視して歩き出した瞬間、衝撃が後頭部に走った。
「っ……!」
振り返る間もなく膝をつき、意識が遠のいていく中で、剣の鞘を握る涼音の姿がぼんやりと見えた。
「ここまで堕ちたあなたを、私はもう見過ごせない。」
彼女の声は冷たくも確かで、その言葉が胸に突き刺さる。それが最後の記憶だった。次に目を覚ましたとき、俺はどんな光景を目にするのだろうか。今俺が感じるのは、冷たい石畳の感触だけだった。
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