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第11章 - 偉大なる終焉
2 - グランド・フィナーレ
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僕は自衛隊を辞めて、山岳救助ヘリのパイロットとして今は働いている。こう書くと、すぐに自衛隊を辞めたように見えるだろう?でもそんなことはなかったんだよ。といっても5年だけど、真剣に勤め上げた。それも、僕は自衛隊が好きになって定年まで続けようと決意していた矢先、もっとやりたいことができて、どうしても次のステップアップがしたくなった。結局、最後まで悩みに悩んで、自衛隊を辞めた。周りの上司・同僚も皆、僕の退職に残念がると同時に、僕の前向きな転職を応援してくれた。前の僕からは考えられないだろう?
僕が元の世界から帰った時、僕はてっきり周りの人たちは僕が行方不明になって大騒ぎしているのかと思ったら、全然そんなことはなかった。むしろ、地上に降り立ったら、みんな僕がヒーローであるかのように迎えてくれた。
僕は訳が分からずに周りにどういうことか聞いたら、彼らの方がむしろ困惑していたけど、いろいろ教えてくれた。僕は国籍不明の敵機に撃ち落されたと思っていたら――全然そんなことはなくて、実際は敵機が僕の威嚇に反応し、日本領空を即座に離れたというのだ。僕の判断は命令違反でありながら、日本を守る結果を生んだと彼らは興奮気味に言った。
あれほどうるさくて怖くてウザかった教官が、まさかの味方だったということも知った。僕の同期が撃ち落されて射出座席で脱出するような緊迫した状況があったとは言え、武力を持つ自衛隊隊員が命令無視を行った、そんなことがマスコミにばれでもしたら、大変なことになるはずだった。でも、彼は僕を守るため、上層部に話して事実を隠蔽してくれたらしい。もしそのことが明るみに出れば、彼は即クビだ。それでも、彼は職をかけて僕を守ってくれた。
僕は自衛隊が嫌いだった。厳しい規律や窮屈な軍隊生活が嫌でたまらなかった。でも、それは自分の弱さや未熟さが原因だったんだと、今になって気づいた。今は、かつて敵のように感じていた隊員たちが実は人情にあふれた人々だということを知っているし、無意味だと思っていた軍隊の規律や訓練も、国を守るためには必要不可欠なものだったと理解していた。
すべては、あの世界での成長が僕をここまで導いてくれた。でも、僕自身、普通なら多分こう思うはずだ。あれは全部夢だったんじゃないかと。無意識のうちにヤバい薬でもやっていて、すべては幻覚でした――あんな世界が実在するとかいうことよりも、そういう推論の方が残念ながらより現実味を帯びているだろう。
でも、僕は確実にあの世界にいた証拠があった。ミレイアがくれた剣を持っていたから。幸い、F16から戻った時、周りの人たちは興奮状態だったため、特にそのことについて尋ねられることはなかった。けど、よく考えたら結構ヤバいものだ。明らかに銃刀法違反だったから。家に持ち帰ってちょっと頭を抱えていると、ひらめいた。いるじゃないか、身近に使える人が。
僕はしばらく会っていなかった祖父に久しぶりに会った。御年80を超えているはずなのだが、その筋肉は全く衰えておらず、相変わらず自称家宝の日本刀を研ぎ続けていた。
僕は何も言わず、祖父にこの剣を譲るから何とかしてくれないかというと、黙って祖父はこの剣を貫くように観察しだした。金物店を営む祖父は、刀剣マニアでもあり、家には出自不明の武器がたくさん飾られている。刀剣を専門に扱う業者に言わせれば、祖父の審美眼はプロなみだそうだ。で、刀剣を鑑定するときはいつもこの妙に神妙な顔になるというわけだ。
その後の展開はちょっと予想外だった。
「翔、でかした!これは今まで俺が見てきた刀剣の中でもとんでもない逸品だ!喜んで譲り受けるぞ!」
その笑顔は、あまり見たことがなかったので、正直、少し複雑な気持ちになった。まあとにかく、警察への届けなんかは、もう刀剣登録の常連となっている祖父がうまく何とかやってくれたおかげで、この件は丸く収まった。
ただ、この件を祖父に譲る代わりに、僕は一つの条件をつけた。刀身だけを抜いて、別の柄に代えてくれないかと。祖父は喜んで受け入れ、特に嫌がらずにその作業をしてくれた。その結果、僕の手に残ったのは、ミレイアの剣の柄だけとなった。
これで僕は、法に触れずに、彼女――いや、彼女たちみんなの意思を受け継ぐことができる。
僕は頭上に広がる青空の元、柄だけの剣を振った。風が心地よく吹き、空は深い青に染まっている。剣を振るたびに、僕の頭にはかつての世界の仲間たちの姿が浮かび上がった。
仲間たちと共に過ごした日々。過酷な出来事を共に乗り越え、笑い合った瞬間、そして時には命を懸けて戦ったあの戦場の記憶が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇った。どんなに厳しい状況でも、彼らと共に戦い抜いたこと、それが僕の心を強くしてくれた。僕の中に宿る情熱と使命感は、もう誰にも消されることはない。みんなの勇気と友情が、僕自身をここまで導いてくれたのだと、改めて感じる。彼はこの柄を通して、彼らの意志を受け継ぐことができる。どんな困難にも立ち向かえる力が宿っていると信じた。
ふと思い出した。夢だ。夢ってどんなに鮮明でも、不思議とすぐに忘れてしまうものだよね。いつ見たかももうあやふやだけど、妙に鮮明な夢だったのは覚えている。とにもかくにも夢だからこれが真実かどうかなんてわからないけど。内容は、僕が過ごしたあの世界の様子だった。
まず驚いたのが、衛兵ベルトランと召喚士副長のリサがどうも一緒に住んでいるようだった。どういう形でそうなっているのかはよくわからないし、そもそも田舎から出てきた粗野な男と、5つかそこら年上でインテリ気質の女性なんて全然合いそうにないんだけど――でもまあ、世の中っていうのはこういうちぐはぐな仲がうまくいくことも多いからまあこれはこれでいいのかもしれない。
でも、これから話すことはそんなことがどうでもよくなるくらい驚きだよ。
ミレイアが、あのミレイアに子供ができていたんだ。娘と思しき女の子が彼女と一緒に楽しそうに歩いていたんだ。そして驚くなかれ――隣にいる夫と思われる男性はなんと――宰相アクセル・オクセンシェルナだった。とまあ、最初は驚いたけれど、よく考えてみれば、彼らは『元首の盾』として二刀流の剣士同士、美男美女のカップルで、これはさっきのちぐはぐコンビと違って似た者同士だから、まあよく考えたらぴったりの二人だろう。
そして最後に、エリシア女王の姿が見えた。彼女は強大すぎる召喚士の力の暴走で、早くして命を落とす運命にあったんだけど、皇帝グスタフがその呪われた炎を氷の竜で相殺してくれたおかげで、今は元気に生活を楽しんでいる。彼女はどうも家臣たちが止めるのをよそに、勝手に小型飛行船の操縦を始めたみたいだった。国家元首がパイロットまがいのことをするのは、部下たちは気が気じゃないだろうな、と彼らにちょっと同情する。
飛行船を自由に操れるようになったエリシアは、小さな浮遊島に降り立ったみたいだった。広がる草原は蒼々として、空は鮮やかな青。僕が昼寝するには最高の場所だとすぐに思った。僕が昼寝に選ぶような場所だけど、僕が今まで見てきたどんな草原よりも美しく、空の青と草原の緑のコントラストがきれいに映えていた。そこに、その広大な空を見上げて横たわっていたのは――皇帝グスタフだった。彼は既にこの世を去ったはずなのに、そこにある彼の体はまるで時が止まったかのように美しいままだった。とても奇跡に近いことではあるけど、一定の条件であれば、人間は腐敗せずにその遺体を残すことがたまにある。そんなことが、この流れ小島で起こったのだ。
その亡骸の隣には、グスタフが使っていた、2つに折れた剣「キングスレイヤー」が刺さっている。エリシアは、グスタフをしばらく眺めた。
すると、彼女は黙ってグスタフの隣に並ぶように、寝ころんで仰向けに空を眺め始めると、そのまま昼寝をし始めた。僕が見るだけでも、この島の美しくて鮮やかな空と、かすかに流れる雲、そして心地よさそうな風、こんなところで昼寝をするのは最高だろう。そして、ここに寝転んで、この果てしない蒼穹を眺めながら逝く人生もきっと――最高のものになるはずだ。
ふいに携帯が鳴った。見知らぬ番号に少し警戒したけれど、思い切って出てみると、声の主は思いも寄らない相手だった。中学時代の親友、板倉くんだったのだ。僕と一緒に川遊びに出かけたときに水難事故にあいかけて、結局そのまま疎遠になってしまった友達だった。
「あの時は…本当にごめん」
不意に謝罪の言葉を聞いて、僕は戸惑った。なぜ彼が今さら謝るのか理解できなかったからだった。でも、彼の話を聞くうちにその理由が見えてきた。事故の後、病院で医者に言われたのは、僕がとっさに取った応急処置が彼の命を救った可能性が高いということだった。つまり、僕が彼の命を助けたというのだ。しかし、彼は事故の後、僕に対して責任転嫁のような気持ちを抱いていたらしい。「僕と一緒に出かけていなければ、こんなことにはならなかったんだ」という感情が、彼の中で膨らみ、結果として僕との距離を取ってしまったのだと。だけど、後で彼はそのことを反省して、命の恩人である僕にきちんと感謝しておくべきだったと後悔したとのこと。そして僕の連絡先を調べて今電話してきたというのだった。
「山岳救助ヘリのパイロットなんだってね。すごい仕事だよ。君が他人を助けることに一生懸命なのは、昔から変わっていないんだな。」
彼の言葉を聞きながら、僕はふと空を見上げた。透き通る青い空が、いつも以上に美しく見える。そして、あの時ファルコンが言ったことが頭をよぎった。
「この世界に召喚される者の条件、それは空を愛し、他人のために自らを捧げる覚悟を持つ者だ。」
自然と口元に微笑みが浮かぶ。僕があの世界に召喚されたのは偶然ではなかったのだろう。多分、僕の他にも適任者はいたかもしれない。それでも、あの経験は僕にとってかけがえのない宝物だ。
彼とは近いうちに飲みにでも行こうということになった。晴れやかな気分で電話を切ったんだけど、急に僕は焦りだした。そうだ、こんなことをしている場合じゃなかった。妻から切れた野菜の買い出しを頼まれていたんだった。いつも一緒に買い出しなんかも行っていたんだけど、妊娠中だから最近僕が買い物担当になることが多いんだよね。
僕は剣の柄をカバンに入れると、前に向かって走り出した。はるか先に浮かぶ一筋の雲を見上げながら。
僕が元の世界から帰った時、僕はてっきり周りの人たちは僕が行方不明になって大騒ぎしているのかと思ったら、全然そんなことはなかった。むしろ、地上に降り立ったら、みんな僕がヒーローであるかのように迎えてくれた。
僕は訳が分からずに周りにどういうことか聞いたら、彼らの方がむしろ困惑していたけど、いろいろ教えてくれた。僕は国籍不明の敵機に撃ち落されたと思っていたら――全然そんなことはなくて、実際は敵機が僕の威嚇に反応し、日本領空を即座に離れたというのだ。僕の判断は命令違反でありながら、日本を守る結果を生んだと彼らは興奮気味に言った。
あれほどうるさくて怖くてウザかった教官が、まさかの味方だったということも知った。僕の同期が撃ち落されて射出座席で脱出するような緊迫した状況があったとは言え、武力を持つ自衛隊隊員が命令無視を行った、そんなことがマスコミにばれでもしたら、大変なことになるはずだった。でも、彼は僕を守るため、上層部に話して事実を隠蔽してくれたらしい。もしそのことが明るみに出れば、彼は即クビだ。それでも、彼は職をかけて僕を守ってくれた。
僕は自衛隊が嫌いだった。厳しい規律や窮屈な軍隊生活が嫌でたまらなかった。でも、それは自分の弱さや未熟さが原因だったんだと、今になって気づいた。今は、かつて敵のように感じていた隊員たちが実は人情にあふれた人々だということを知っているし、無意味だと思っていた軍隊の規律や訓練も、国を守るためには必要不可欠なものだったと理解していた。
すべては、あの世界での成長が僕をここまで導いてくれた。でも、僕自身、普通なら多分こう思うはずだ。あれは全部夢だったんじゃないかと。無意識のうちにヤバい薬でもやっていて、すべては幻覚でした――あんな世界が実在するとかいうことよりも、そういう推論の方が残念ながらより現実味を帯びているだろう。
でも、僕は確実にあの世界にいた証拠があった。ミレイアがくれた剣を持っていたから。幸い、F16から戻った時、周りの人たちは興奮状態だったため、特にそのことについて尋ねられることはなかった。けど、よく考えたら結構ヤバいものだ。明らかに銃刀法違反だったから。家に持ち帰ってちょっと頭を抱えていると、ひらめいた。いるじゃないか、身近に使える人が。
僕はしばらく会っていなかった祖父に久しぶりに会った。御年80を超えているはずなのだが、その筋肉は全く衰えておらず、相変わらず自称家宝の日本刀を研ぎ続けていた。
僕は何も言わず、祖父にこの剣を譲るから何とかしてくれないかというと、黙って祖父はこの剣を貫くように観察しだした。金物店を営む祖父は、刀剣マニアでもあり、家には出自不明の武器がたくさん飾られている。刀剣を専門に扱う業者に言わせれば、祖父の審美眼はプロなみだそうだ。で、刀剣を鑑定するときはいつもこの妙に神妙な顔になるというわけだ。
その後の展開はちょっと予想外だった。
「翔、でかした!これは今まで俺が見てきた刀剣の中でもとんでもない逸品だ!喜んで譲り受けるぞ!」
その笑顔は、あまり見たことがなかったので、正直、少し複雑な気持ちになった。まあとにかく、警察への届けなんかは、もう刀剣登録の常連となっている祖父がうまく何とかやってくれたおかげで、この件は丸く収まった。
ただ、この件を祖父に譲る代わりに、僕は一つの条件をつけた。刀身だけを抜いて、別の柄に代えてくれないかと。祖父は喜んで受け入れ、特に嫌がらずにその作業をしてくれた。その結果、僕の手に残ったのは、ミレイアの剣の柄だけとなった。
これで僕は、法に触れずに、彼女――いや、彼女たちみんなの意思を受け継ぐことができる。
僕は頭上に広がる青空の元、柄だけの剣を振った。風が心地よく吹き、空は深い青に染まっている。剣を振るたびに、僕の頭にはかつての世界の仲間たちの姿が浮かび上がった。
仲間たちと共に過ごした日々。過酷な出来事を共に乗り越え、笑い合った瞬間、そして時には命を懸けて戦ったあの戦場の記憶が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇った。どんなに厳しい状況でも、彼らと共に戦い抜いたこと、それが僕の心を強くしてくれた。僕の中に宿る情熱と使命感は、もう誰にも消されることはない。みんなの勇気と友情が、僕自身をここまで導いてくれたのだと、改めて感じる。彼はこの柄を通して、彼らの意志を受け継ぐことができる。どんな困難にも立ち向かえる力が宿っていると信じた。
ふと思い出した。夢だ。夢ってどんなに鮮明でも、不思議とすぐに忘れてしまうものだよね。いつ見たかももうあやふやだけど、妙に鮮明な夢だったのは覚えている。とにもかくにも夢だからこれが真実かどうかなんてわからないけど。内容は、僕が過ごしたあの世界の様子だった。
まず驚いたのが、衛兵ベルトランと召喚士副長のリサがどうも一緒に住んでいるようだった。どういう形でそうなっているのかはよくわからないし、そもそも田舎から出てきた粗野な男と、5つかそこら年上でインテリ気質の女性なんて全然合いそうにないんだけど――でもまあ、世の中っていうのはこういうちぐはぐな仲がうまくいくことも多いからまあこれはこれでいいのかもしれない。
でも、これから話すことはそんなことがどうでもよくなるくらい驚きだよ。
ミレイアが、あのミレイアに子供ができていたんだ。娘と思しき女の子が彼女と一緒に楽しそうに歩いていたんだ。そして驚くなかれ――隣にいる夫と思われる男性はなんと――宰相アクセル・オクセンシェルナだった。とまあ、最初は驚いたけれど、よく考えてみれば、彼らは『元首の盾』として二刀流の剣士同士、美男美女のカップルで、これはさっきのちぐはぐコンビと違って似た者同士だから、まあよく考えたらぴったりの二人だろう。
そして最後に、エリシア女王の姿が見えた。彼女は強大すぎる召喚士の力の暴走で、早くして命を落とす運命にあったんだけど、皇帝グスタフがその呪われた炎を氷の竜で相殺してくれたおかげで、今は元気に生活を楽しんでいる。彼女はどうも家臣たちが止めるのをよそに、勝手に小型飛行船の操縦を始めたみたいだった。国家元首がパイロットまがいのことをするのは、部下たちは気が気じゃないだろうな、と彼らにちょっと同情する。
飛行船を自由に操れるようになったエリシアは、小さな浮遊島に降り立ったみたいだった。広がる草原は蒼々として、空は鮮やかな青。僕が昼寝するには最高の場所だとすぐに思った。僕が昼寝に選ぶような場所だけど、僕が今まで見てきたどんな草原よりも美しく、空の青と草原の緑のコントラストがきれいに映えていた。そこに、その広大な空を見上げて横たわっていたのは――皇帝グスタフだった。彼は既にこの世を去ったはずなのに、そこにある彼の体はまるで時が止まったかのように美しいままだった。とても奇跡に近いことではあるけど、一定の条件であれば、人間は腐敗せずにその遺体を残すことがたまにある。そんなことが、この流れ小島で起こったのだ。
その亡骸の隣には、グスタフが使っていた、2つに折れた剣「キングスレイヤー」が刺さっている。エリシアは、グスタフをしばらく眺めた。
すると、彼女は黙ってグスタフの隣に並ぶように、寝ころんで仰向けに空を眺め始めると、そのまま昼寝をし始めた。僕が見るだけでも、この島の美しくて鮮やかな空と、かすかに流れる雲、そして心地よさそうな風、こんなところで昼寝をするのは最高だろう。そして、ここに寝転んで、この果てしない蒼穹を眺めながら逝く人生もきっと――最高のものになるはずだ。
ふいに携帯が鳴った。見知らぬ番号に少し警戒したけれど、思い切って出てみると、声の主は思いも寄らない相手だった。中学時代の親友、板倉くんだったのだ。僕と一緒に川遊びに出かけたときに水難事故にあいかけて、結局そのまま疎遠になってしまった友達だった。
「あの時は…本当にごめん」
不意に謝罪の言葉を聞いて、僕は戸惑った。なぜ彼が今さら謝るのか理解できなかったからだった。でも、彼の話を聞くうちにその理由が見えてきた。事故の後、病院で医者に言われたのは、僕がとっさに取った応急処置が彼の命を救った可能性が高いということだった。つまり、僕が彼の命を助けたというのだ。しかし、彼は事故の後、僕に対して責任転嫁のような気持ちを抱いていたらしい。「僕と一緒に出かけていなければ、こんなことにはならなかったんだ」という感情が、彼の中で膨らみ、結果として僕との距離を取ってしまったのだと。だけど、後で彼はそのことを反省して、命の恩人である僕にきちんと感謝しておくべきだったと後悔したとのこと。そして僕の連絡先を調べて今電話してきたというのだった。
「山岳救助ヘリのパイロットなんだってね。すごい仕事だよ。君が他人を助けることに一生懸命なのは、昔から変わっていないんだな。」
彼の言葉を聞きながら、僕はふと空を見上げた。透き通る青い空が、いつも以上に美しく見える。そして、あの時ファルコンが言ったことが頭をよぎった。
「この世界に召喚される者の条件、それは空を愛し、他人のために自らを捧げる覚悟を持つ者だ。」
自然と口元に微笑みが浮かぶ。僕があの世界に召喚されたのは偶然ではなかったのだろう。多分、僕の他にも適任者はいたかもしれない。それでも、あの経験は僕にとってかけがえのない宝物だ。
彼とは近いうちに飲みにでも行こうということになった。晴れやかな気分で電話を切ったんだけど、急に僕は焦りだした。そうだ、こんなことをしている場合じゃなかった。妻から切れた野菜の買い出しを頼まれていたんだった。いつも一緒に買い出しなんかも行っていたんだけど、妊娠中だから最近僕が買い物担当になることが多いんだよね。
僕は剣の柄をカバンに入れると、前に向かって走り出した。はるか先に浮かぶ一筋の雲を見上げながら。
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