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第3章 - 不死鳥と王国
4 - 将軍の回想 ii
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「あの王冠はな、選定会議で正式に選ばれていない者がかぶれば、その者は呪われ、永遠に王座に就くことができなくなる」
私はおかしくて笑ってしまった。
「そんなの、ただの迷信じゃない!」
「ねえ、聞いて。赤い鎧を着ると、不死鳥の神様に恐れ多いから、呪われて早死にするって言われてるんだよ。でもさ、私、12歳の時からずっと赤い鎧を着てるけど、死ぬどころかピンピンしてるの。」
私は肩を張って笑いながら続けた。
「それに、東の果ての湖にいる魚を食べたら呪われて死ぬって言うけど、何度も勝手に釣って、平気で食べてるのに、まだ生きてる。ほんとさ、迷信って馬鹿らしいよね。」
軽い口調でそう言い放ちながら、私は自信に満ちた笑顔を浮かべた。
エリシアも半ば呆然として、何も言わなかった。だけど、その二か月後、思いもよらないことが起こった。当時の女王が急死してしまったのだ。
ルクスエリオス王国は女王の権威によって安定が保たれている。言い換えれば、女王不在は国の混乱に即座につながる。だから、女王を選定するための選定会議がすぐに開かれた。そして次の女王に選ばれたのは――エリシアだった。呪いが現実になったのだった。
私は信じられなかった。エリシアもそうだ。女王になることなんて当然予想していなかった。臣下たちも多くが異を唱えた。すべてを兼ね備えたエヴァンゲル家のミレイアが選ばれないのは何かの間違いではないかと。でも、王国の歴史上、選定会議の決定が覆されたことはなかった。王国全体が彼女の即位を受け入れるしかなかった。
私に言わせればエリシアでも十分に女王は務まる能力は持っていた。でもエリシアはいつも不安げで、重い責任を伴う職務は彼女の望むものではないことは明らかだった。彼女はただ、普通の人間として、そして普通の女性として、青春を謳歌し、友人との語らいを楽しみ、恋愛をして家庭を作る、そんな人生を望んでいた。国の象徴なんていう重責を彼女が喜ぶはずはなかった。
私がエリシアに会いに行くと、泣きはらした目の彼女は、私を睨みつけた。私の方を呪い返すかのように。
「あんたのせいで・・・全部あんたのせいでこんなことになったのよ。」
私は自分の過ちに気づいた。私のくだらない欲望と傲慢さが、エリシアを追い詰め、呪われた運命を押しつけてしまった。彼女が私を尊敬し、友として、師として慕ってくれていたことを知りながら、私は無理やり、彼女を望まぬ王冠へと引きずり込んでしまった。
それからというもの、私は彼女のそばにいることを決意した。どんなに辛いことがあろうと、私は副官としてエリシアを支え続ける――それが、私の贖罪だった。
--
「ミレイア様、何を仰っているのですか?」
私が言ったとき、部屋の空気が一瞬で凍りついた。臣下たちは一斉に驚きの表情を浮かべ、反射的に私を止めようとした。
「本気で『元首の盾』になると?」
彼らの一人が慎重に尋ねた。
「ご存じのはずです。この世界の伝統では、元首の副官は盾を捨て、二本の剣を持って戦わなければなりません。盾を捨てるということは、自分自身が体の盾となって元首の身代わりとなるという意味でして、『元首の盾』という称号は、その覚悟を表しているのです。ミレイア様の戦闘力ならば、二刀流を扱うことは問題ないでしょうが――それでも、防御の盾を捨てる道はあまりにも危険です。歴史を見ても、『元首の盾』となった者で長生きした者は100人に1人もおりません。」
もう一人の臣下が続けた。
「帝国の皇帝、グスタフ2世アドルフの副官であるアクセル・オクセンシェルナも同じ役割を果たしています。彼も二刀を携える『元首の盾』ですが、彼が生き延びているのは、竜と一体化した皇帝の異能による部分が大きい。ミレイア様が、そのような危険を冒す必要はないのでは…?」
彼らの言葉は、私の耳に入っていなかった。
「エリシア女王陛下のために盾となって死ぬことが私の運命なら、それもまた本望よ。」
私は静かに、決然として答えた。
「私がどんな犠牲を払おうとも、陛下を守り抜く。それが私の使命だから。」
私はおかしくて笑ってしまった。
「そんなの、ただの迷信じゃない!」
「ねえ、聞いて。赤い鎧を着ると、不死鳥の神様に恐れ多いから、呪われて早死にするって言われてるんだよ。でもさ、私、12歳の時からずっと赤い鎧を着てるけど、死ぬどころかピンピンしてるの。」
私は肩を張って笑いながら続けた。
「それに、東の果ての湖にいる魚を食べたら呪われて死ぬって言うけど、何度も勝手に釣って、平気で食べてるのに、まだ生きてる。ほんとさ、迷信って馬鹿らしいよね。」
軽い口調でそう言い放ちながら、私は自信に満ちた笑顔を浮かべた。
エリシアも半ば呆然として、何も言わなかった。だけど、その二か月後、思いもよらないことが起こった。当時の女王が急死してしまったのだ。
ルクスエリオス王国は女王の権威によって安定が保たれている。言い換えれば、女王不在は国の混乱に即座につながる。だから、女王を選定するための選定会議がすぐに開かれた。そして次の女王に選ばれたのは――エリシアだった。呪いが現実になったのだった。
私は信じられなかった。エリシアもそうだ。女王になることなんて当然予想していなかった。臣下たちも多くが異を唱えた。すべてを兼ね備えたエヴァンゲル家のミレイアが選ばれないのは何かの間違いではないかと。でも、王国の歴史上、選定会議の決定が覆されたことはなかった。王国全体が彼女の即位を受け入れるしかなかった。
私に言わせればエリシアでも十分に女王は務まる能力は持っていた。でもエリシアはいつも不安げで、重い責任を伴う職務は彼女の望むものではないことは明らかだった。彼女はただ、普通の人間として、そして普通の女性として、青春を謳歌し、友人との語らいを楽しみ、恋愛をして家庭を作る、そんな人生を望んでいた。国の象徴なんていう重責を彼女が喜ぶはずはなかった。
私がエリシアに会いに行くと、泣きはらした目の彼女は、私を睨みつけた。私の方を呪い返すかのように。
「あんたのせいで・・・全部あんたのせいでこんなことになったのよ。」
私は自分の過ちに気づいた。私のくだらない欲望と傲慢さが、エリシアを追い詰め、呪われた運命を押しつけてしまった。彼女が私を尊敬し、友として、師として慕ってくれていたことを知りながら、私は無理やり、彼女を望まぬ王冠へと引きずり込んでしまった。
それからというもの、私は彼女のそばにいることを決意した。どんなに辛いことがあろうと、私は副官としてエリシアを支え続ける――それが、私の贖罪だった。
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「ミレイア様、何を仰っているのですか?」
私が言ったとき、部屋の空気が一瞬で凍りついた。臣下たちは一斉に驚きの表情を浮かべ、反射的に私を止めようとした。
「本気で『元首の盾』になると?」
彼らの一人が慎重に尋ねた。
「ご存じのはずです。この世界の伝統では、元首の副官は盾を捨て、二本の剣を持って戦わなければなりません。盾を捨てるということは、自分自身が体の盾となって元首の身代わりとなるという意味でして、『元首の盾』という称号は、その覚悟を表しているのです。ミレイア様の戦闘力ならば、二刀流を扱うことは問題ないでしょうが――それでも、防御の盾を捨てる道はあまりにも危険です。歴史を見ても、『元首の盾』となった者で長生きした者は100人に1人もおりません。」
もう一人の臣下が続けた。
「帝国の皇帝、グスタフ2世アドルフの副官であるアクセル・オクセンシェルナも同じ役割を果たしています。彼も二刀を携える『元首の盾』ですが、彼が生き延びているのは、竜と一体化した皇帝の異能による部分が大きい。ミレイア様が、そのような危険を冒す必要はないのでは…?」
彼らの言葉は、私の耳に入っていなかった。
「エリシア女王陛下のために盾となって死ぬことが私の運命なら、それもまた本望よ。」
私は静かに、決然として答えた。
「私がどんな犠牲を払おうとも、陛下を守り抜く。それが私の使命だから。」
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