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ざまぁされたらやり返す編

46話 後日談(後) イラストあり

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 ファイフがそんなことを思っていると、サイコパス勇者は片づけ作業に戻りつつ口を開いた。

「それにこっちだって、セイリーヌさんの罪をチャラにしちゃったわけじゃない?
 自分たちだけそういうことやって、他には厳しくし過ぎるっていうのも……ね?」

 そう。
 セイリーヌが行ったことに関して、ユーリたちは誰にもなんの報告もしていない。
 セイリーヌはガイムと繋がっていた事実などなく、もちろんスパイ活動のようなこともしていない。
 そういった姿勢を貫き通すことを決めたのだった。

「……その件に関して一番抗議していたのは、当の本人でしたけどね」

 微苦笑しながらセイラが言う。あのときのことを思い出すと、さすがに心が締め付けられるのだ。
 周囲を欺き続けるというその行いを、誰よりも許せなかったのは、セイリーヌ自身だった。
 それをすべてなかったことにするという決定を言い渡したとき、彼女は見ていて可哀そうになるくらい取り乱していた。
 罪をうやむやにするのだけはやめて欲しい。そうしないと自分で自分を許せない……と、泣かれたし喚かれたし切れられたのだった。

「まあでも、スパイをちゃんと裁くってなると、スパイ罪とか、下手しぃ外患誘致とか、かなり重めの罪になっちゃうからさあ。
 あの子こそガイムさんに利用されてただけだし、せっかくご家族とも一緒に暮らせることになったわけだから、さすがにそんな重罪をおっかぶせるわけにはいかないよね」

 それに彼女は、大いに苦しみながらスパイ活動をしていた。
 それがそのまま贖罪になると思うし、今後も『レスティンピース』を支えるという責務をこなしてもらわなければ困る。
 そういった説得を根気強く続けたところ、どうにか納得して貰えたのだった。

「でも心配だなあ。セイリーヌさん真面目だから、どっかで変な気起こさないといいけど」
「その辺はヒィロさんやシークエンスさんがうまいことフォローするでしょ。
……もう、僕らが感知することじゃないよ」

 最後にブレイダからワインを一口貰ってから、ユーリは執務室を見回す。
 ユーリたちの私物がすっかり片付き、とても広く見える。
 長年苦楽を共にしてきた、ユーリたちの職場を。

「……セイリーヌさんのことも、『アンペルマン』のことも、もうヒィロさんたちに託したんだからさ」
「そうですね」

 哀愁漂うその声に、間髪入れずに答えると、セイラがユーリの前までやってくる。
 そしていつものように、慈愛に満ちた笑顔を浮かべると、シンプルな言葉を口にした。

「私たちは、私たちの道を行きましょう」

「……そうだね」

 ユーリは勇者の肩書を失った。
勇者クラン『アンペルマン』からも去ることになった。
 が、ただそれだけのことなのだ。

 勇者を辞めたからと言って、人生が終わるわけではない。
 セイラたちとの関係もなにひとつ変わらない。
 ユーリの冒険は、これからなのだ。
 この短い問答で、セイラはそれを思い出させてくれたのだった。
 聖女の温かな気遣いを感じ取っていると、マホが首をコキコキ鳴らしながら告げた。

「……さて、やることやったら、とっとと帰るぞ。ボクたちを大っ嫌いな幹部連中に見つかったら、また面倒なことになるからなぁ~」
「もお、マホちゃん! 勇者様とセイラさんがエモやってるんですから、水差さないで下さいよ!」

 そう言いつつ、どさくさに紛れてカタログギフトに手を伸ばすエンリエッタにチョップしてから、マホはユーリに向けて告げる。

「別に水差してるわけじゃねえよ。本当にこのままでいいのかって話。
 どうすんだよ、勇者。このまま帰っちまったら、二度と挽回するチャンスねえぞ?」

 そう。
 ユーリたちは、依然として幹部の面々に嫌われたままなのだ。
 大暴走を止めるという大活躍はしたものの、表向きにはヒィロの手柄ということになっているし、引退式のときの傲慢な態度が払拭できたわけでもない。
 ゆえに、ユーリに対するマイナスイメージもそのままなのだ。
 ヒィロが頼もしくなったいま、もう悪役を演じる必要はないかもしれない。
 ……しかし。

「……いいんだよ。そうすることでうまいこと組織が回ってるんだから、このままでいい」

 前任ユーリが嫌われていた方が、後任ヒィロは組織運営をしやすくなる。
 今更ユーリが出しゃばったとて、良いことなどひとつもないのだ。
 そんな思いを汲んだのか、マホは木箱をカートに乗せながら、

「あ、そ。ボクは別にどっちでもいいんだけどな。あとで『やっぱこのままじゃやだやだ!』っつって、誰かさんがギャン泣きしなけりゃよ」
「心配してくれてありがとう。でも本当に平気だよ。
 ……あ、でもどうしようかな。セフ友だった幹部の子たちだけは、誤解解いときたいかも。関係きれちゃうから」
「だってよ。どうする、セイラ?」
「そちらの関係を切った上で、勇者様のもちょん切るのがよろしいかと」
「誤解だよセイラさん。セフ友ってあれだよ? セーフティ友達の略だよ? 一緒にセーフティな日を楽しむだけで、いかがわしいことなんてなにひとつしてないんだよ?」
「いかがわしいこと無くして安全日という言葉は誕生しなかったと思うのですが」

 と、結局は冗談──セイラは割と目がマジだったが──を交わしつつ、一同は木箱をカートに乗せ、後片付けを完全に終えた。
 ……終えてしまった。

「……じゃ、行こうか」
「そうですね」

 セイラとそんな会話を交わしつつ、ユーリは執務室のドアを開ける。
 ──すると、

「……え?」

 そこには、『アンペルマン』の幹部全員が、勢揃いしていたのだった。

「えっと……えっーと、え、なに、なに? なにこれ、どういうこと?」

 と、セイラやマホの顔を見ながらと訊ねるが、彼女らもユーリと同じように驚きながら首を振っているのみだ。
 その反応を確認してから、ユーリは引き攣った顔を正面に戻し、

「えと……どうしたのかな、みんな……? なんか、怖い顔してるけど、ひょっとして、お礼参り、的な……?
 は、はは、は! や、やめよう? やめようよそんなの! いまどき流行んないよ! だ、だからお願い! ちょん切るのだけは! ちょん切るのだけは勘弁して……!」

 と、ユーリが情けないことを言いながら後ずさると、一同は大きく息を吸い込み、

「「「「「「「長きに渡るご尽力、本当にご苦労様でございました!!!!」」」」」」

 ──全員が一斉に、頭を下げたのだった。
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