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七章 決戦

大晦日

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「ダァァァァァァァ!!!」

ある年の大晦日。

とある森の中に建っている豪邸から似つかわしくない叫び声が轟いた。

その衝撃か、風がざわめき、小鳥は血相を変えて逃げ出し、小動物は縮こまり、魔物は失神するというある意味での災害が森を襲った。

しかし、その災害を引き起こした張本人はそんなことを気にせず、もう一度、さっきよりも大きな声で叫び声をあげた。

「どうなってんだよーーーーーーーーー!!!!」
「うるさい!」
「グホッ!……す、すまない」

しかし、その言葉は中途半端なところで止まった。それを待ってましたと言わんばかりか、付近の動物たちは一斉にその家から遠ざかり、付近の街に出没し始めたが、そんなことも気にせず声をあげた張本人と大声を出す者を止めた張本人はソファに力なく座り込んだ。

「なぁ」
「どうしたの?」
「今日って……大晦日だよな」
「うん。大晦日だね」

一人は、まるで確認を取っているかのようだが、すでに顔には影がかかっていた。対するもう一人は、特に気にもとめず紅茶に手を伸ばしていた。

「大掃除って……するよな?」
「まぁ普通はするんじゃないかな?私の家お城だからどういう基準まで掃除をすればいいのかはわかんないけど」
「……年を越す時って……蕎麦食べるよな?」
「ううん。を食べるんだよ?何回も言ってるけど……」
「……………………ダァァァァァァァ!!!!」
「だからうるさいってば!」
「グハッ……ご、ごめん」

そう、先ほどの叫び声はこのことが原因で起こっていたのだ。
事の発端は叫び声をあげる男が食べたゴブリンの肉の味だった。

それは、この世のものとは思えなおほどの異臭を醸し出し、溶けたガムのようなねっとりとしてネバネバする感触がし、肉の色が紫というなんとも食べ難いものだった。
しかし、そんなことに気づかずにそれを焼いて食べてしまった彼は、口の中が地獄祭りとなり、一週間ほど味がわからなくなるという事件を起こしていた。(本作中には出ておりません)

そのようなことがきっかけで、彼はその日以降ゴブリンはただ狩るだけのものとなり、魔石すらも回収せず跡形もなく燃やすのが普通となっていた。

そんな彼の、トラウマとも言える食材をめでたい?時に食べなくてはいけないことに対して、絶叫を上げていたのだ。

「なーにが好き好んであんな肉食べなきゃいけねぇんだよ!!」
「日々の料理に対しての有り難みを忘れないためにだよ」

そう。なんとこの世界では、新年を無事に遅れたから宴会をしようってことはなく。来年も慎ましく生き延びられることを願って貧しい料理を食べるんだとか。
これは勇者が作ったのではなく。もともとこの世界にいた住民たちが作った物なので、俺も消そうとまでは思えなかったのだ。
しかし。

「なぁ。オークじゃダメなのか?異次元倉庫に腐るほどあるんだが」
「ダーメーでーす!何度言えばいいのよ。それより早く掃除終わらせちゃってよね」
「は、はい」

彼は少女に逆らうことはせず、渋々と言った感じに掃除に取り掛かった。
と言っても、この豪邸には掃除が必要なくなるように結界がかけられているため、掃除と言う名の整理しかすることがなかった。

まず彼が向かったのは倉庫だ。そこには、武器や食材なんかが色々と置かれておりごちゃごちゃとしていた。

「とりあえず。『整理整頓』っと」

彼がそうと、みるみるうちに整理されていき、ものの数秒で仕分けされ整理整頓されていた。
これは、彼が大掃除する時にと魔法であり、半径10メートルにあるものを種類、用途別に整理整頓できると言う便利な魔法だ。

「あとは……やっぱもうないんだよな。はぁ~店のどこ行ってもゴブリンしかないし、諦めてミリーナが作るゴブリンを食うか。案外、ミリーナが料理することで化けるかもしれないしな」

ご紹介がまだだったが、大声で叫んでいたのがアラストール・エリーニュスであり、グラント王国で公爵の爵位を持っているものだ。親しいものからはアストと呼ばれている。
そして、彼が言ったミリーナという女性はかくかくしかじかあって、アストと共に生きることを決め王国の第三王女という肩書きを捨てて共に生活をしているアスト伴侶だ。

「はぁ~憂鬱だ」

時が少し経ち、夕飯時となった。
アストにはミリーナが意外にも家族がいるのだが、それぞれ用事があるとのことで一緒に晩飯が食えないこととなっていた。

俺がそう呟いて数分後、ミリーナが両手に皿を持ってキッチンから出てきた。

「はい。ゴブリン肉の塩焼き」

なんとあのゲロマズ肉を塩と焼くだけで食うらしい。
俺はあの頃の悪夢が蘇り出し、昼に食べたものが出てきそうになるが、グッと堪えた。

そして、一口目を食べた。

「…………ん??…………あれ??」

俺は不思議な感覚に陥りながら二口目、三口目と口に頬張った。
そう。

「まずく……ない」
「当たり前でしょ。左腕のお肉しか使ってないんだから」
「ひ、左腕?」
「え?知らないの?」

話を聴くと、ゴブリンは雑食であり、全体的にクソマズな肉しかないが、左腕だけは特に雑味もなく普通に食べられるのだ。

「なんだよそれ……俺の今までの心配を返せよ……」

俺は力果てながらゴブリン肉に食らいつき、ミリーナと久し振りに二人きりの時間を、朝まで楽しんだ。

ーーーーーーーーー
作者より。
新年、あけましておめでとうとございます!
この作品で新年を迎えることができて嬉しいです。
かれこれ半年以上書き続けてますがなかなか上達しない作者ですいません。
これからも精進していきますので、新年からも応援よろしくお願いします!
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