そんな漫画みたいな(仮)

みわかず

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渡 4

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次の日の昼休みに木村と、同じくチームメイトでクラスメイトの中村も連れて五組となりに向かう。

「二人増えてる!」

 だから、残念な顔になってるぞ水玉。シュークリームやるから直せ。

「ついでに頼む」
「そうそう。俺ら横から見てるだけでいいから。わたりと同レベルだと思って」
「ついでに俺らも助けて~。邪魔はしないから~」

 わりと人当たりのいい二人だからそんなに緊張しなくていいぞ。
 そしてさっそく、昨日の六時間目にあった数学小テストを見せる。
 昨日の様に水玉はさくさくと説明する。

「「「 ああ!なるほど!」」」

 な?分かるだろ?
 ほらな、何も書けなかった問題があっという間に答えを出す。
 木村と中村もふんふんと言いながら両脇から見下ろしている。
 そして水玉は、にこりとして、花丸を描いた。
 まじか! 木村と中村も噴いた。

「ははっ! 花丸なんて何年ぶりだよ!」
「頑張ったご褒美だもの、花丸でしょ」
「満点とってももうもらえんわ」
「小学生か。でも不思議と羨ましい」

 確かにな。ちょっと嬉しいわ。

「あ、ちょっと待って、花丸もらえるなら俺英語の小テスト見てもらいたい。持ってくる」
「じゃあ、俺も先週の数学のヤツで聞きたいところが」

 バタバタと二人が出ていった。
 なんだよ、そんなに花丸欲しいかよ。

「彼らもサッカー部?」

 水玉がふと聞いてくる。
 全員モテ期だったから、顔を見てもサッカー部と分からない女子がいるとか新鮮だな。……いややっぱ恥ずかしいな。

「うん。悪いな」
「ううん。エース君は想定してたより理解力があるから余裕だよ。私要らないと思うな」

 エース君!?
 待て待て待て待て。

「俺はエースじゃない。俺はたまたま試合に出させてもらって、たまたまアシストが上手くいって、先輩が攻めたこぼれ球を体ごとゴールに突っ込んだだけだ。……エースじゃないから練習しなきゃいけないのに教頭め、余計な事しやがって」

 我ながら言い訳がましい。
 真実なんてそんなもんだ。
 俺たちがよく分かってる。
 俺だって出来るならエースとして頼られたい。

 くそっ。

 だけど、目の前の水玉はそれには全然関係ない。
 関係ないのに、こうして付き合ってくれてる。

「藁にもすがる何とかって、水玉には迷惑だろうけど、よろしくな」

 申し訳ない気持ちはある。
 だけど水玉の反応はちょっとズレた。

「悪いと思ってるなら『水玉』はやめてよね!?」

 そっちかよ。

「お前が俺を『エース君』なんて呼ぶからだろ」
「ダメージが全然違うと思う!名前知らないし!」

 ダメージ?知るか!『エース君』なんて俺だってダメージ大だわ!
 つーか、本当に名前知らねぇのかよ。

わたり。渡康平な」
「渡君ね。分かった。」

 ……分かったって何だ。なぜかちょっと悔しくて小さく反撃。

「……お前は?名前。水玉でいいのか?」
「いいわけないでしょ!? 荒井あらいね!荒井!」

 荒井か。どっかで聞いたな? あ!一年にいたわ。

「下の名前は? 後輩に新・・がいるんだよ」
「ええ~。美晴みはるだけど…」

 美晴。意外と可愛い名前してんな。
 まさみという名前の元カノは、ゲーノー人と同じだよ、と言っていた。今では心底どーでもいい。

「じゃあ、美晴な」
「うわっチャラい。サッカー部のエースチャラい!」
「何がだよ!?」
「スルッと女子を呼び捨てするとこが」

 は!?じゃあ、ちゃん・・・付けか? キモいわ!

「真顔で言うな。こっちが引くわ」
「私の人生、モテ男に関わった事がないからね。偏見更新中だよ」

 モテ男って……

「訳のわからんことを。名前は名前だろ。俺が呼んだって何も減らねぇわ」
「……」

 おい、何で無言だ!

「本気で悩むな。そんなに嫌かよ……」
「あはは、ゴメン!冗談よ。渡君て面白いね~」

 ……面白い?……俺が?

 つまらないんだよね、ってフラれたんだぞ?

 水た……美晴はニコニコとしてる。

 これは、本当にそう思ってる……?
 対戦相手ならともかく、女子の顔色なんて分からない。
 分からないけど。

「お待たせ~。コレコレここの英訳、合ってるよね?」

 何か答えが出そうな時に戻って来た木村と中村がさっそく質問しだしたから、そのままうやむやになった。

 そして、四組に戻ると木村と中村が感心したように言った。

「確かに分かりやすかった! 英語もイケるな美晴ちゃん!」
「俺も明日から渡についてくわ」

 ……あ、そう。

 そうして部活でも美晴の事を褒めたもんだから、赤点スレスレギリアウトメンバーの加藤と佐竹が食いついた。田辺には抑え係として来てくれと頼む事になる。

「お前らが一人の女子に群がるのはどうかと思うんだが?」

 田辺。言ったからにはどうにかしてくれ。



***



「また増えたっ!?」
「だって、美晴ちゃんの説明分かりやすい!」
「そうそう。憐れな同級のサッカー部を救って下さい~」
「えーと、よろしく?」
「俺、英語!」
「俺、古文!」

 美晴の愕然とした顔を見た途端に申し訳なくなり、悪い、という言葉も小さくなってしまった。今日はそれもあり、少し奮発した焼きプリン。受け取った美晴の目がキラッとしたが、すぐに眉毛が下がった。

 英語と古文て、お前らがそれを苦手なのは分かるがメインは数学だって言ったろうが。
 やっぱり多過ぎか。加藤たちに悪いが帰れと言おうとしたら、美晴が教室を振り返って叫んだ。

「昼休み限定サッカー部勉強会、英語と古文の担当してくれる人求む!」

 はあ?と思った瞬間に教室にいたほとんどの女子が手を上げる。

「募集はさっきの二教科二名のみ! 勝ち抜きジャンケンでお願いします!」

 美晴のかけ声でジャンケンが始まり、あっという間に女子が二人残った。

「はいじゃあ、英語は丹野さん、古文は佐東さんにお願いします!」

 そうして美晴は俺らを仕分けた。
 田辺が古文担当女子に移動しながら小さく親指を立てた。佐竹を頼んだぞー。
 中村と加藤は英語担当へ。
 あれ、俺も今日は英語か古文なのか?

「美晴は?」
「数学」

 少しほっとして、いつもの席に着く。

「俺も入れて~」
「木村が持って来てるの英語だろ?」
「ん? 数学は渡のを見ればいいじゃん。俺は美晴ちゃん・・・・・先生・・がいいの」

 木村のこの馴れ馴れしさにほんの少しイラッとした。
 美晴が微妙な顔で嫌がっていたから何も言わなかった。


「女子に勉強を教えてもらえるっていいな!」

 ……良かったな、加藤……




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